第3話「経営と倫理のバランス」
都心のホテルラウンジ。午後の陽光がゆるやかに差し込み、落ち着いた空間に心地よい静けさが漂う。
テーブルの向かいで、村瀬奏が腕を組み、思案げな表情で紅茶を見つめていた。
「前回のカウンセリングの後、スタッフと話し合ってみたよ。」
香坂美月は穏やかに微笑み、ノートを開いた。
「どのような議論になりましたか?」
「まず、矯正治療の説明プロセスの改善については、皆賛成だった。患者の納得度を上げるために、視覚的にわかりやすい資料を作ることになった。」
「それは素晴らしいですね。」
「しかし……」
村瀬は苦笑しながら続けた。
「価格の透明性については、意見が分かれたんだ。」
美月は少し首をかしげた。
「具体的に、どのような意見が出ましたか?」
「私としては、料金を明確にすることで患者の不安を減らし、結果的に信頼を得られると考えている。しかし、スタッフの中には『高額な治療の提案がしにくくなるのでは?』と懸念する声もあった。」
「なるほど。確かに、価格をオープンにすると、患者が慎重になり、治療の決断に時間がかかるかもしれませんね。」
「そうなんだ。特に、矯正治療は一度始めると長期間にわたるから、価格の印象が強く残る。価格を見てすぐに諦める患者が増えたら、医院の収益に影響が出る可能性もある。」
美月はメモを取りながら、静かに頷いた。
「つまり、価格の透明性を高めることで信頼は得られるが、収益が下がるリスクがあるということですね。」
「そういうことだ。」
「しかし、逆の視点から考えると、価格が明確だからこそ、患者が安心して治療を受けやすくなるという側面もありますよね?」
「……確かに。それがうまく機能すれば、長期的にはプラスに働くかもしれない。」
「では、価格の透明性を維持しながら、収益を安定させる方法 を考えてみましょう。」
美月はノートに3つのポイントを書き込んだ。
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1. 分割払いの導入
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「患者が高額な治療に抵抗を感じる要因の一つは、一括払いの負担の大きさです。」
村瀬は頷いた。
「確かに、矯正治療は数十万円単位だからな。」
「そこで、分割払いの選択肢を増やし、月々の負担を減らす のはどうでしょうか?」
「なるほど。すでに分割払いの制度はあるが、あまり積極的にアピールしていなかったな。」
「それをしっかり伝えることで、患者の心理的ハードルを下げることができます。」
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2. 無料カウンセリングの強化
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「次に、治療の提案をする前に、無料のカウンセリングを強化する のはどうでしょうか?」
「無料で?」
「はい。カウンセリングの段階では、『治療が必要かどうか』を判断するだけで、実際に治療を決断するかは患者に委ねる。こうすることで、『押し売り』の印象をなくし、患者の信頼を得ることができます。」
村瀬は少し考え込んだ。
「それは良いアイデアかもしれないな。無料なら患者も気軽に相談できるし、納得して決断できるようになる。」
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3. 段階的な治療プランの提案
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「最後に、いきなりフルコースの治療を提案するのではなく、段階的なプランを提示する という方法もあります。」
「段階的に?」
「例えば、最初に軽度の矯正から始めて、必要であれば本格的な治療に進む。こうすることで、患者が治療の価値を実感しながら進めることができます。」
村瀬は納得したように頷いた。
「確かに、いきなり数十万円のプランを提示されると驚くが、段階的に進めるなら納得しやすい。」
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決断の時
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村瀬は腕を組み、しばらく考え込んだ。
「この方針で進めば、経営と倫理のバランスが取れるかもしれない。」
「ええ。短期的な収益よりも、長期的な患者の信頼を重視することで、結果的に医院のブランド価値も高まるはずです。」
村瀬は深く頷いた。
「今回のカウンセリングで、自分が目指すべき方向性が見えてきた気がする。」
「それは良かったです。」
「次回までに、これらの施策を具体的にどう実行するかを整理してみよう。」
美月は微笑みながら、ノートを閉じた。
「村瀬先生なら、きっと良い形で改革を進められると思います。」
「ありがとう、美月さん。」
こうして、村瀬は「経営と倫理のバランスを取るための具体的な改革」に向けて動き出すことになった。




