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プライベートカウンセラー  作者: Ohtori
第1章「大学院生(MBA)・若松玲奈(31歳)」
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第5話「新しい未来への一歩」

ホテルラウンジの午後は、いつもと変わらず穏やかだった。窓際のテーブルには、白いカップと小さな封筒が置かれている。香坂美月は、目の前の若松玲奈の表情を見つめながら、静かにコーヒーを口に運んだ。


今日は、彼女にとって最後のセッションだった。


「こんにちは、美月さん。」


玲奈は、以前よりも落ち着いた笑顔を浮かべていた。最初に出会った頃の、不安と焦りに満ちた表情はもうない。


「こんにちは、玲奈さん。今日でカウンセリングも一区切りですね。」


「はい……なんだか不思議な気分です。最初にお会いしたときは、テーマすら決められなくて、ただ焦ってばかりいました。でも今は研究の方向性も定まり、やるべきことが明確になっています。」


美月は静かにうなずいた。


「この数週間で、玲奈さんは大きく変わりましたね。具体的にどのような成果がありましたか?」


玲奈は少し考え込み、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「まず、研究テーマが明確になりました。『若手社員のモチベーションを向上させるフィードバック戦略』というテーマで、実際のインタビュー調査を通じて、理論だけでなく実践的な視点も組み込めるようになりました。」


「それは素晴らしいですね。他には?」


「以前は、完璧な選択をしなければならないという思い込みに縛られていました。でも、まずは動いてみることが大切だと学びました。論文だけでなく、今後のキャリアについても、試行錯誤しながら前に進めばいいんだと思えるようになったんです。」


美月は優しく微笑んだ。


「その気づきは、とても大きなものですね。玲奈さんは、カウンセリングを通じて、自分の思考のクセに気づき、修正しながら成長していくことができました。」


玲奈は頷き、続けた。


「カウンセリングを受ける前は、何もかもが霧の中でした。でも今は、進むべき道が見えている。完璧でなくても、自分の意思で進めることが大事なんだって分かりました。」


美月は静かに玲奈の言葉を受け止めた。


「玲奈さんがここまで成長できたのは、ご自身の努力の結果です。私はただ、そのサポートをしただけですよ。」


玲奈は照れくさそうに笑った。


「でも、美月さんがいなかったら、私はずっと同じところで足踏みしていたと思います。」


「そう言っていただけると嬉しいです。」


美月は鞄から小さな封筒を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。


「これが、今回のカウンセリングの領収書になります。」


玲奈は封筒を手に取り、中を確認した。そこには、5回のセッション分の料金が明記されていた。


カウンセリング料金明細

・第1回(2時間):20,000円

・第2回(3時間):30,000円

・第3回(3時間):30,000円

・第4回(3時間):30,000円

・第5回(2時間):20,000円

合計:130,000円


玲奈は、領収書をじっと見つめた後、静かに微笑んだ。


「最初に申し込んだときは、正直、金額を見て躊躇しました。でも今は……この130,000円以上の価値があったと思っています。」


美月は微笑んだ。


「カウンセリングの価値は、時間ではなく、得られる変化にあります。玲奈さん自身が、その価値を実感できたのであれば、私もとても嬉しいです。」


玲奈は静かに頷いた。


「この経験を無駄にしないように、研究をしっかりと仕上げます。そして、将来的には私も、誰かの成長をサポートできるような仕事をしたいと思っています。」


「素敵ですね。玲奈さんなら、きっと素晴らしい仕事ができると思いますよ。」


玲奈は深く息を吸い、晴れやかな表情で美月を見つめた。


「本当にありがとうございました。」


「こちらこそ。玲奈さんの未来が、素晴らしいものになりますように。」


二人は最後に微笑みを交わした。


玲奈は、しっかりとした足取りでホテルのラウンジを後にした。その背中には、もう迷いはなかった。


美月は、静かにカップを手に取り、窓の外を眺めた。


また一人、自分の道を見つけたクライアントを見送ることができたことに、深い満足感を覚えながら——。

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