第2話「ブランドの本質を見極める」
都心のホテルラウンジ。午後の光がゆるやかに降り注ぐ中、香坂美月はテーブルの上に並べられたメモやノートを眺めた。対面に座る神崎遥香は、前回よりもわずかに落ち着いた表情をしていたが、まだどこか不安げな様子が残っていた。
「お待たせしました、美月さん。」
「いえ、お時間をいただきありがとうございます。では、早速ですが、前回の課題について話を伺いたいと思います。ブランドの核となる価値観と、新しいターゲット層について整理されましたか?」
遥香は小さく頷き、ノートを開いた。
「はい、いろいろと考えてみました。ブランドの価値観として、私が一番大切にしてきたのは、『自分らしく生きる女性を応援する』ことです。このコンセプトを軸に、商品を展開してきました。」
「それは素晴らしいですね。では、その価値観は、今の市場にどう響いていると感じていますか?」
遥香は少し考え込んだ後、口を開いた。
「最初は共感を得られていました。でも最近、ブランドの発信が少しマンネリ化している気がします。ターゲット層も固定化していて、新しい顧客を引き寄せる力が弱まっているのかもしれません。」
美月は静かに頷き、メモを取りながら質問を続けた。
「確かに、ブランドの成長が停滞する要因の一つは、ターゲットが固定されすぎていることにあります。でも、それを打破するためには、新しい層に向けた発信が必要になりますね。」
「その点が、一番悩んでいるところなんです。これまでの顧客層を大切にしたい一方で、新しい市場にも挑戦したい。でも、どの方向に進むべきなのか、明確な答えが見つからなくて……。」
「では、ここで一度整理しましょう。ブランドの『核』は変えずに、新しいターゲット層に向けたメッセージをどう調整できるかを考えてみます。」
美月はテーブルの上に紙を広げ、ペンを走らせた。
「現状のブランドターゲットは、主に30代の働く女性ですよね?」
「はい、その通りです。」
「では、新しいターゲット層として考えられるのは、例えばどんな層でしょう?」
遥香は少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「20代の若い女性や、40代以上のキャリアウーマンも視野に入るかもしれません。でも、ブランドの雰囲気を大きく変えるのはリスクもありますよね?」
「確かに、ブランドイメージを大きく変えるのはリスクになります。でも、メッセージの伝え方を変えるだけでも、新しい層に響く可能性があります。」
美月は紙に二つの円を描き、一つを「現在のターゲット層」、もう一つを「新しいターゲット層」とした。
「例えば、20代の若い女性向けには、より軽やかでトレンド感のあるメッセージを発信する。一方で、40代以上のキャリアウーマンには、品質や洗練さを強調する。ブランドの核となる価値観は変えずに、アプローチ方法を変えることはできそうですね。」
遥香は紙をじっと見つめながら、小さく頷いた。
「確かに……。メッセージの発信の仕方を変えるだけで、新しい層にリーチできる可能性があるんですね。」
「はい。そして、それに伴い、ブランドのビジュアルやSNS戦略も調整していく必要があります。」
美月はメモを見ながら続けた。
「現在、ブランドのSNS戦略はどのように運用されていますか?」
「主にInstagramと公式サイトで発信しています。でも、最近はあまり力を入れられていなくて、投稿内容も単調になってきている気がします。」
「なるほど。では、SNSを活用して新しいターゲット層にリーチする方法を考えてみましょう。」
美月はいくつかのアイデアを挙げた。
1.インフルエンサーとのコラボレーション
2.ユーザー参加型のキャンペーン(ハッシュタグ企画など)
3.ブランドストーリーを発信する動画コンテンツの作成
4.ターゲット層ごとに異なるコンテンツの配信(20代向け、40代向け)
「これらの中で、すぐに試せそうなものはありますか?」
遥香は少し考え込んだ後、答えた。
「インフルエンサーとのコラボレーションなら、すぐに動けそうです。すでに親交のある人も何人かいるので、ブランドの新しい方向性を試す機会にできるかもしれません。」
「それは良いですね。では、次回までに、具体的にどんなインフルエンサーとコラボするか、またどんなメッセージを発信するかを整理してみましょう。」
遥香はメモを取りながら、力強く頷いた。
「分かりました。やってみます。」
「もう一つ、ブランドのコンセプトについても、少し言語化してみると良いでしょう。例えば、『このブランドがどんな価値を提供するのか』を一文で表すとしたら、どのような言葉になりますか?」
遥香は考え込み、ゆっくりと答えた。
「……『自分らしさを大切にする女性のための、洗練されたライフスタイルブランド』、でしょうか。」
「素晴らしいですね。では、この言葉を基に、新しいターゲット層にも響く形に調整できるかどうかを考えてみましょう。」
遥香はノートに言葉を書き留めながら、微笑んだ。
「最初は何をすればいいか分からなかったけど、こうして整理すると、少しずつ方向性が見えてきました。」
「そうですね。焦らず、一歩ずつ進めていきましょう。」
美月はカップを手に取りながら、静かに微笑んだ。
「次回までに、新しいブランドの方向性をさらに具体的にしてみましょう。どのように伝えたいのか、どんなビジュアルやメッセージを発信するのか。それを整理して、次のステップに進みましょう。」
「はい、やってみます。」
遥香の目には、以前よりも確かな意志が宿っていた。




