お弁当のカップラーメンを泉に落としたら、うどん派女神が現れて豪華なうどんを押し付けてきた件
ある夏の日、俺は泉のほとりでソロキャンプを楽しんでいた。
鳥の鳴き声、風で揺らぐ木の葉の音に耳を傾ける。夕焼けを眺めながら、静寂に心癒されていた。
「さて、晩飯にするか」
お弁当であるカップラーメンを取り出し、バーナーでお湯を沸かし始める。
だが蓋を開けたところで手が滑り、カップがコロコロと転がり、泉にポチャンと落ちてしまった。
「俺の晩飯!」
慌てて泉を覗き込むも、カップから転がり出た乾麺は泉に沈んでいく。
そのとき、水面が眩く光り、水上に女神様が現れた。
なぜか左右の手に丼を持っている。
「あなたが落としたのは揚げたてサクサクの海老天ぷらが乗った天ぷらうどんですか? それとも甘ーぃお揚げがのったキツネうどんですか?」
「え、あの。カップラーメンです」
女神様は少し眉をひそめた。
「正直な者よ。ラーメンよりも体に優しく、心にも染みる食べ物……うどんを食べるのです」
有無を言わせぬ笑顔で2種のうどんを突きつけてくる。
「さあ、うどんを食べるのです」
「いや、俺はうどんよりラーメン派だし。うどんは要らないから落としたカップラーメン返してもらえません?」
その言葉を聞いた女神様は顔を曇らせた。
「ああ、今日は暑いですものね。ざるうどんを用意しましょう」
女神様の目からビームが出て、俺の手元に冷え冷えのざるうどんが現れる。
「さあ、心ゆくまでうどんを味わいなさい!」
「いやいやいや、待って! 俺うどん好きじゃないから!」
「あなたがうどんを好きになるように、天ぷらうどんとキツネうどんもこのまま差し上げましょう」
「いらねー!!」
俺の言葉は完全スルーされて、女神様はうどんを押し付けてくる。ソロキャンプは、突如「うどんの宴」へと変わった。
俺は女神様の圧に負けてうどんを食べることになった。空腹だったとはいえうどん三杯はきつい。
完食した俺を見て女神様は満足そうだ。
「うどんの素晴らしさを理解したようですね。では、アデュー!」
女神様は光と共に姿を消した。
泉に落ちたカップラーメンは戻ってこなかった。
「俺のカップラーメン……はっ! そうだ、明日用のカップラーメンがあるじゃないか! 口直しするべ!」
バックパックを開けてみたら、ストックしてあった他のカップラーメンがすべてカップうどんにおき変わっていた。
そこまでして俺をうどん派にしたいんですか女神様。
あまりの執念に戦いた。