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幽霊現象  作者: アカツキ
2/3

鈴の音を鳴らし

 静かな色に染った学校。

 月光は光を知らず、ただ色を放つだけ。

 いつの間にか、暗い山吹色の中にいる。

 綺麗な旋律はピアノの音。

 音のないチャイムが響き渡る。

 青い灯火は淋しい色。



『そっか、今日の生贄は竜胆さん…』


 悲しそうに呟く少女の声。

 姿は無い。

 青い灯火に照らされて人の影を作り出す。


「あなたは?」


『私は、この教室に縛られ続ける悲しい幽霊…。竜胆さん…貴方は選ばれてしまった…』


「選ばれた?」


『そう、今月の生贄に』


「貴方もそうだったの?」


『うん』


「犯人は?」


『分からない…覚えてない…でも男の人で幽霊ではなかった…』


「そう…わかった」


 淡々と話す竜胆さんは少し怖い。

 この状況に慣れている雰囲気がある。


 竜胆さんは椅子に座り、窓の向こうを眺める。

 月を見ているのか星を見ているのか、どこか遠い目をしている。


 十分くらい経った時、ピアノの旋律が止む。


『来る…逃げて!』


 幽霊になって初めて、精一杯の声を出した。だが、竜胆さんは聞こえていないのか、聞いていないのか、ぶつぶつと何かを言いながら立ち上がる。


「みーつけた!」


 禿げたおっさんが下品に笑いながら教室に入ってきた。


「ダメじゃないか、ちゃんと逃げないと」


 竜胆さんは応えずずっと窓の向こうを眺める。


「反応無しかぁ、寂しいなぁ、おじさんと楽しい事でもするぅ?可愛いく扱ってあげるよぉ?」


 手に持った刃物を舐めながら近寄ってくる。


『竜胆さん逃げて!こいつ危ない!』


「逃げられないよ」


『えっ?』


「逃げられないよ」


『なんで…』


「なんで?幽霊だから?」


 幽霊と竜胆さんは言った。だが、こいつは幽霊では無く人間だ。幽霊である私は分かる。


「こいつは幽霊と契約してる」


『契約って』


「ごめーとぉ!凄いね君!竜胆ちゃんって言うのかな?下の名前も教えて欲しいなぁ、なーんて」


 私との会話におじさんが入って来た。そしてジリジリと近寄って来る。


 竜胆さんは振り向きもしないで、ただ、窓の向こうを見つめる。


「無視かぁ、悲しいなぁ、でも、きっと楽しいことしたら振り向いてくれるよね?抵抗したら切っちゃうけど!」


 おじさんの手が竜胆さんに触れようとした瞬間、水面に映る月のように揺れて消えた。


『えっ?』


「はっ?うそっ?まさか幽霊招いちゃったの?ちょっと聞いてないよぉー!ちゃんと好みの人間の女の子招いてって言ったでしょー!」


 おじさんは上を見上げ怒鳴るように言う。


 竜胆さんが消えた。回らない頭が余計に回らなくなる。言葉も何も出てこない。


「はぁ、仕切り直しでまた明日かぁ…」


「あなたに明日はやって来ないよ?」


 綺麗な鈴の音が鳴る。


 綺麗な鈴の髪飾りを着け、白と赤と黒を基調とした和服を着た竜胆さんが教室に入ってきた。

 眠たそうな目にも関わらず、それは私でも分かるくらいの確かな殺意が篭っている。


「はっ、幽霊ごときが僕を殺せるとでも?僕には最強の幽霊が着いているんだ!」


「私は人間よ?」


「はぁ?そんなわけあるか!ついさっき目の前から消えただろうが!」


「それは、私じゃない。私の色」


「はっ?」


 何を言っているか分からない。


「まぁいい、人間なら楽しませてくれよなぁ!」


 おじさんが刃物を振り上げ竜胆さんを襲う。

 もうダメ、切られる、と思ったが甲高い音がしておじさんの刃物が防がれた。


「なっ!なんだよそれ!」


 おじさんの刃物を防いだそれは刀。竜胆さんの手には体に合わないくらいの刀が握られている。


「空は暗く光は無い。そこにあるのは、ただの塵。天も地も無く、泣き続ける。悲しみは怒りへと変わる」


 何かを唱え始めたのか、ぶつぶつと訳の分からない言葉を並べる。


「クソが!」


 おじさんは何か焦っているのか刃物を振り回す。それを竜胆さんは可憐に避け、唱え続ける。


「黒く染まる百合は何を考える?紅く染まる体は復習を誓う」


「おい!幽霊!何してる手を貸せ!こいつは何かやばい!」


 おじさんが幽霊に命令を下し、幽霊は手を貸すように机やガラス片などを竜胆さんに向けて発射する。

 数が多いのか竜胆さんは刀を使い弾く。

 隙ありと言うように後ろに回り込んだおじさんが刃物を大きく振りかぶった瞬間、刃物が床に落ちた。


「ぎァァァァァァァァァ!」


 おじさんの腕ごと。


 痛みで蹲うおじさんに刀を向ける。


「何人?」


「あっあっ…」


「何人殺した?」


 おじさんは痛みに苦しんでおり応えられる状況では無い。

 すると、人格が入れ替わった様に応えるおじさん。


『「十三人だ」』


 殺した人数だ。その中に私もいるのだろう。


「そう、楽しかった?」


『「あぁ、とても、苦しみ泣く少女たちの声はとても甘美だ」』


 楽しそうに応える。


「そう、死んで」


『「はは、幽霊は殺せないぞ?」』


「いえ、死ぬよ?だって、ほら?」


 幽霊は絶対に死なない。成仏する以外は消えることは無い。だが竜胆さんが刀でおじさんの首を跳ねた瞬間に幽霊は苦しみ出す。


『「なんで、なんで、なんで…」』


「あなたは悪い幽霊だから死ぬの」


『「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…まだ死にたくない、助けろ誰か!誰かぁ…」』


「皆、同じ気持ち…」


 死んで行く幽霊を見ている目はとても眠たそうにどこか遠くを見ている。


「これで終わり」


 空気が変わる。

 重かった体が軽くなる。


「あなた達の望、叶えた…安心して?あいつらは永遠の苦しみに落ちたから」


『そっか、やっと終わるんだ…』


「うん…」


 ほんの二年ここにいた。

 殺され死んで、苦しくて苦しくて、助けを待った。私達は救われたのだ。


『ありがとう、竜胆さん…』


 これでもう…。



 光も見えない色も見えない、散り逝く花たち。


「遅くなってごめんね」


 静かな学校に綺麗な鈴の音が鳴り響く。

 少女は眠たい目を閉じ涙を垂らす。


 山吹色の教室は赤い花で照らされる。

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