日常風景
チョークの音が心地よく響き渡る教室。
殆どの生徒は不真面目で机に突っ伏し寝ている。
そんな空間をぶち壊すドアの音。
「すみません。寝坊しました」
鈴の音の様な声を鳴らし、ゆっくりと入って来た少女。真面目な生徒も寝ている生徒も皆振り返る。
「遅いですよ、竜胆さん。今何時だと思っているんですか!」
「十五時?」
「そうですよ。あと、もう五分で今日の授業は終わりですよ」
「はい…」
「はぁ、席に座りなさい」
「はい…」
竜胆と呼ばれたその少女は、昨日転入してきたばかりだ。
身長は百六十もなく胸も小さい。艶やかな黒髪は腰まで長い。脚は細く今にでも折れそうだ。顔は子供っぽさが抜けておらず、半分閉じた目は眠たそうな雰囲気を醸し出している。
それでも、竜胆さんはとても綺麗で歩く姿はまさに百合の花だ。
間もなく授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
一斉にカバンを持ち個々にだべりながら我先にと教室を出ていく。
そんな中、竜胆さんは机に突っ伏している。
「こら!竜胆さん、授業終わりましたよ?」
「はい…」
体を起こし目を擦る。
「はぁ、明日はちゃんと来てくださいね」
「はい…」
先生は竜胆さんの返事を聞くなり頷いて教室を出る。
竜胆さんは立ち上がり先生に続く様に教室を出た。
今日はもう終わり。私たちの学校は賑やかさを失う。
窓から差す月光は綺麗な山吹色。
ピアノの旋律が静かな学校に響き渡る。
一人っきりの淋しい夜は慣れっこだ。
教室を照らす空色の灯火は風が吹いても消えることはない。
鳴るはずも無いチャイムが鳴る。
今日も始まる。
地獄の時間が。
今日の生贄は大丈夫かな?