おはよう眠り姫
森の奥地に、その城はある。だがところどころ朽ちていて綺麗ではない。そこに住むのは、僕と眠り姫であるシャノンだ。
「ーー…ジャック、起きて!」
「……ううん?」
体を揺さぶられる。目を開けると、美しい少女と僕の目が合う。
「おはよう眠り姫」
「それ僕の言うセリフじゃん」
「あなたが、いつも私のそばにいて言うから、仕返しをしただけよ?」
ムッとした顔でふんぞり帰る少女。彼女には呪いがかけられていた。
「はいはい」
「…ねえ、どうして今日はそばにいなかったの?」
「うーん、それがね、ただ今日は疲れててシャノンの隣の部屋で寝てたんだよ」
「そうなの?」
「そうさ」
ジッと見つめられて、僕はケロリと答えた。嘘は言っていない。
「なら、べつに良いんだけどーー。ジャック、私なんだか今日は可笑しいわ」
「なにが?」
彼女が服の上から、お腹をさする。いや彼女はその動作はしたが妊娠はしていない。
「いつもはものすごくお腹が減るのに、それがないのよ」
「食いしん坊じゃなくなーーイテテッ」
僕の言葉を遮って、彼女は容赦なく僕の鳩尾にパンチをくらわす。
「ねえ、あなた吸血鬼なの?」
「そうだけど、どうしたの?」
疑った目でみられて、僕は苦笑をしてみせた。たしかに、僕はいつも朝でも昼でもシャノンが目覚めるとそばにいる。そう、僕は眠り姫であるシャノンのために日の光には慣れた吸血鬼だ。
「あなた、変わってるわ」
「どういたしまして」
「褒めてない。ーーところであのお婆さん、何してるのかしら?」
「魔女のことかな?」
「そう、私とあの魔女のお婆さんは同じぐらい生きるらしいわ…」
「らしいね」
「ええ」
シャノンを呪ったババアである魔女は、シャノンを一眼見て嫉妬した。そして呪いをかけた。そしてそのババアを僕が殺した。殺す前に、私が死ねばあの子も死ぬと脅されたが、もうシャノンは人ではない。吸血鬼である。僕は彼女を愛してるから死んでほしくなかった。だから吸血鬼にしたのだ。
「僕は君が目覚めるのを待っているよ」
「…ありがとう」
彼女は俯いて涙を流す。僕がこの城にこなければシャノンは一人で、ずっと孤独だったのだ。死にたかったのかもしれないが、僕は死んでほしくなかった。いつか、彼女はそれを知って絶望して僕を軽蔑するだろう。殺すことはできるからその時まで、君といたい。
「僕は君といたい」
「私も」
そうして僕らは、互いにかたく抱きしめ合ったのだった。
「おはよう眠り姫」
「毎日起きてる気がするわ」
「気のせいじゃないの?」
「そう、よね」
呪いはなくなった。彼女は毎日起きてるが僕は今日も嘘を吐く。