3・4 魔法少女ゲッティン・ホッフン
フェアラートがレオニーを見る。巨大蛾が一斉にそちらに向かった。
上がる複数の悲鳴。
見当をつけて、巨大蛾に向けて疾風魔法を放ち追い払う。
ほぼ同時に尻もちをついたエリアスやレオニーを助け起こそうとしているマレーネ、防御魔法を張りかけているルーカスが現れた。
「すまない!」とエリアスが叫ぶ。「ツェツィーリエの様子がおかしいというから、お前の代わりに守ろうと思ったんだ!」
そういえばエリアスのステルス魔法は学内随一なんだったわ。
「いいから早く逃げろ!」とジークヴァルトが大声で答える。
声の主が見えたから、火系魔法で蛾を焼き払う。鱗粉がかかると肌が焼けただれるみたいで、すでにロートトルペ隊員に被害が出ている。蛾の合間を塗ってフェアラートが攻撃を仕掛けてくるし、蛾は無尽蔵みたい。
早く変身したいけど、せめてマレーネたちの避難が完了するまでは巨大蛾の対処をしないと――
と、視界の隅に教師の姿が見えた。次々に現れて、援護をしてくれる。これなら、いける。
服の上からつけているペンダントを握りしめた。
「無限に広がる気高き勇気! 魔法少女ゲッティンホッフン!」
光が溢れ、変身する。絶対に友達も仲間も守るのよ!
「行くぴょんよ!」
私の前をジークヴァルトのかにんぴょんが浮いている。
「ええ!」
「貴様が魔法少女だったのか!」フェアラートが叫び、右手を天に向けた。「いでよ、怪物」
目の前の空間が歪み、縦にふたつの亀裂が入る。
「まずい、二体くるぴょん!」
強化種は一体でも大苦戦するのに、二体とフェアラートと巨大蛾なんて!
「教師陣は退避するぴょん! 王宮待機のロートトルペを呼ぶぴょん!」
それでも。これはまずい戦いかもしれない――。
◇◇
なんとか怪物二体を倒して、あとはフェアラートだけ。でもロートトルペ隊はほぼ機能していなくて、かにんぴょんも私もボロボロ。
ついには宙に浮かぶこともできなくなり、私は地面に降り立った。そのままガクリと膝から崩れてしまう。
「危ないぴょん!」
かにんぴょんの叫びが聞こえたと思った瞬間、茶色い小さい体が飛んできて私をかばうかのように手足を広げた。
彼の体にフェアラートの放つ閃光が直撃して弾き飛ばされる。
「かにんぴょん!」
立ち上がり、駆ける。
かにんぴょんの姿は消え、代わりに全身を焼かれたジークヴァルトが地面に横たわっていた。こんなことは初めて。
「ジークヴァルト! しっかりして!」
地面に膝をつき彼を抱き上げる。だけど反応がない。
フェアラートが高笑いをしながら、私に両手を向けた。攻撃――なんて受けないわ!
私は魔法少女、愛するひとを守るのよ!
でなければなんのために、昨晩、この選択をしたの?
スティックを強く握りしめ、最上級技の呪文を唱えようとした。だけどその瞬間、体の奥底からなにかがほとばしるのを感じた。
口が勝手に動く――
「尽きることなき愛の希望! 魔法少女ゲッティンホッフンディリーベ!」
なにそれ!
体が光に包まれて変身が始まる。まさか私、レベルアップをするの?
光が止むと、私は新しい姿になっていた。持っているスティックも違う。そして頭の中で女神の声がした。新技の呪文だわ。
「『深き信頼 永遠の誓い 愛を阻む者に鉄槌を!』」
スティックで描いた女神の印から光の束が飛び出し、激しく回転をしながらフェアラートに激突した。
光が爆散し、獣のような悲鳴が耳をつんざく。
あまりの眩しさに目をつむる。瞼の裏も明るい。
やがて悲鳴は聞こえなくなった。
目をひらくと、フェアラートの姿は消えていた。
「倒した……?」
ほっと息をついてから、すぐさま振り返る。ロートトルペの隊長がジークヴァルトを抱え、必死に呼びかけている。
「ジークヴァルト!」
隊長に場所代わってもらうけれど、ジークヴァルトの反応はない。
「息はかすかにあるようですが……」と隊長。「大丈夫ですよね? 泉で治りますよね?」
「行ってくるわ! ここは――」
「任せてください、対処します」
「お願い」
移動魔法の呪文を唱え、時空を跳ぶ。
泣きそうだけど、泣いている場合ではないのよ。