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【三日月】月の剣──運命を切り拓く者の名は──1

※客⇒店側⇒客と視点が切り替わります。

 ──ハァッ、ハァッ、ハァッ!


 射干玉の帷に覆われた森をひた走る、灯りも荷物も無く我が身一つで。息が上がり膝が震え手足も服も薮や木の枝に裂かれ傷だらけだ。


 それでも足を止めない。止まる事なんて出来ない。


 背後から濃厚な死の気配がヒタヒタと迫って来る。絶望が悪寒の様に身体を這い回り、恐怖が叫びとなって喉から転びだしそうだ。爆発しそうな心音が耳を覆い隠し肺は焼け付く様に熱い。


 鉛の様に重くなった手足を無理やり動かして走る。もう痛みすらも感じない。静謐に包まれた木立の中を、梢の間から見える細い三日月だけを頼りにひた走る。


 あと少し、あと少しで集落の境界(さかい)

 ──一瞬、気が早ったのが行けなかった。


 底意地悪く這う太い蔦に足を取られ、私は派手にすっ転んだ。身体ごと宙に舞い、地面に叩き付けられる。硬く尖った石に頭の後ろを強かに打ち付け一瞬、呼吸が止まり掛けた。

 限界を越えて動かし続けた手足は意のままに動かず、起き上がろうとしても死に掛けの蝉の様な動きを繰り返すばかり。


 此処から逃げ出しても行く宛なんか無い。

 集落を出られた処で待っているのは野垂れ死にか、人買いや賊の獲物にされる末路だろう。

 それでも。それ、でも。


領主様(バケモノ)の"花嫁"だなんて、真っ平お断りだ!』


 60年に一度、村から差し出される『花嫁』と言う名の贄。選ばれた娘は初潮を迎える歳になると、この村を含む辺り一帯を治めると言う『領主』に嫁がされ、二度と姿を見せなくなる。


 "深翠の森の更に奥、宵闇の館に嫁ぐ娘は──"


 子供の頃から耳タコになるほど聞かされたお伽噺。

 その結末は決して"末永く幸福に"なんかじゃない。懐と胃袋を膨らませて幸福になるのは決まって村を仕切る老害(ジジババ)共だけだ。


 壊れた玩具の様に、思い通りに動かない身体に苛立ちが募る。身体中を濡らす汗と、じっとりと湿った土の冷気が悪寒になって全身を這い回る。

 すぐ側までヒタヒタと迫る追っ手(死神)の気配に何も出来ない悔しさで涙が零れ落ちる。逃げ出す手引きをしてくれた、幼馴染み(ガキ大将)の顔が脳裏を過ぎる。誰でも良い、魔女でも悪魔でも何でも──!!


「──助けてッ!!」


 そう叫んで銀色に輝く三日月に手を伸ばした瞬間、朝日よりも眩い光が辺り一面を包んだ気が、した。


 • ───── ☾ ───── •


「ねぇ。なーんか今、物音がしなかった?」


 カウンターテーブルに色とりどりの端切れやら糸やら綿やらを広げ、せっせと縫いぐるみ──それも何故かデフォルメされたゴブリンやコボルト──をこさえている赤毛の娘が奥の女性に声を掛ける。


「うーん、コイツはちょいとばかり厄介だ。あとフェデルタ~、いい加減ソレ片付けて」


 この店に来てまでぬい活(ソレ)とか、営業妨害にも程があるよ。フェデルタと呼ばれた赤毛の娘にそう言うと、女性──この店の主──は素早い身のこなしで玄関扉を開け、何時の間にやら片手に持った筒の様な短杖(ワンド)を向けた。

 次の瞬間、真昼の様に眩い光が扉の外を照らしたかと思うと、夜闇と血の臭いのする()()()が唸り声をあげて後退る気配がした。その隙にドアのすぐ脇にあった『塊』を引っ掴むと、店主は直ぐさま乱暴にドアを閉め、厳重に施錠した。


「フロスティさーん、ソレ何なに?無詠唱の光魔法?」


 背後から興味津々と言った体でフェデルタが店主(フロスティ)の手元を覗き込む。


「違うわよ。前回の新月に来たお客の忘れ物」


 店主はそう言って手の中の光る筒を見せた。未知の金属で出来た其れは、見かけに反して意外と軽かった。


「あー、()()()()に繋がった時の?へぇ〜、変わった形の()()()だね。ランタンや松明よりずっと明るかったけど」


 見せて見せて~と騒ぐ赤毛の娘に、店主は簡単に筒の使い方を教える。


「分かった!このボタンを押し──ぎゃあああっ!」

「お馬鹿!何やってんの!」


 うっかり光源を覗き込んだフェデルタが取り落とした光る筒を慌てて店主がキャッチした。返すのが何時になるか判らないが、流石に客の忘れ物を壊すワケには行かない。

 目が~!目が~!と騒ぐ赤毛の娘を放ったらかしにして、店主は先程ドアから引きずり込んだ『塊』を見た。あちこち傷だらけ泥だらけで気絶している、年端も行かないボロボロの少女を。


「私だけじゃ手が足りないか……。"助っ人"が必要だね、こりゃ」


 先ずは傷の手当てとお風呂からかな。そう呟くと、『狭間の喫茶店 『暁月』』の主・魔女のフロスティはカウンター奥の扉へと向かった。


 • ───── ☾ ───── •


 ふんわりと、柔らかい感触……温かい。

 深い沼から浮かび上がる様に私は目を覚ました。最初に感じたのは温もり。それから私の身体を包む柔らかな何か。


 目を閉じたまま寝返りを打つと、ラヴェンダーの甘く爽やかな香りが鼻をくすぐった。何だか怖い夢を見ていた気がする。早く起きないと母さんにぶたれると思いながらも、もう少しだけ、この心地良さを味わいたくて……?

 手触りの良い寝具に違和感を感じて、私は跳ね起きた。起きようとした。


「────イダァッ!」


 身体中に物凄い痛みが走り、持ち上がり掛けた頭が再び枕に沈んだ。身体中が悲鳴を上げているみたいな激痛で、寝返りを打つのすら一苦労だ。


 涙目になりながら、私は眼だけ動かして周囲を見回した。昨日まで慣れ親しんでいた掘っ建て小屋(私の家)じゃない。こじんまりとした、でも綺麗に掃除された清潔な部屋。今居るベッドも湿気ってカビ臭い藁じゃなくて、お貴族サマでも使わない様なふかふかのマットレスだ。


 ひょっとしたら、此処は『宵闇の館(領主館)』……?


 気付いた瞬間、背筋に悪寒が走った。

 あの後やっぱり捕まってしまったのか、気絶している間に此処に連れ込まれてしまったのか。

 絶望に駆られながら、私は寝かされていたベッドから抜け出そうともがいた。歯を食いしばって身体の痛みに耐え、絡み付くシーツから抜け出そうとしてバランスを崩した。


「──あややや!大丈夫ですか?!」


 無様にもラグを敷いた床に落ちたその時、ドアが開いて誰かが入り込んで来た。慌てて顔を上げると、焦げ茶色の修道服(アビト)と白い頭巾(ウィンプル)を身に付けた尼さんが二人、心配そうに駆け寄り私を抱き起こしてくれた。


「あの、アリガトゴザイマス…」


 恥ずかしさで赤くなりながら、私は尼さん達にお礼を言った。カミサマにお仕えする人達が居るなら、きっと此処は領主館(バケモノ屋敷)じゃない。そう思ったら、強ばっていた身体から力が抜けて行った。


「どう致しまして。御父の加護に感謝を」


 尼さん達の内、母さんと同じ歳くらいの落ち着いた感じの人が祈りの御印を切り、私を起き上がらせてくれた。


「あの、此処は何処でしょうか?」

「──まだ休んでないと駄目よ。もう一度ベッドに横になっててね」


 私の問い掛けには答えず、もう一人の尼さんがぐちゃぐちゃの寝具を直すと私を寝かせて毛布を掛け直してくれた。


「今、温かいお茶を持って来ます。其れを飲んで、もう暫く身体を休めなさい。大丈夫、()()()()()()()()ですから」


 そう言って尼さん達は部屋を出て行った。置かれた境遇に当惑したままの私を一人残して。


長い事、放置していて申し訳ありません。

またぼちぼち更新して行きます。

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