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12.知っていることを教えましょう


 広場の案内は、教会から始まった。

 広場で一番目立つ建物といえば教会だからだ。


 白い石造りの建物で、建物の正面は精緻な彫刻で彩られている。

 建物の頂点には鐘つき堂があり、昼と夕方の二回、時刻を知らせる役割を果たしていた。


「ここが教会、ノアールは教会ってわかるかな?」

「わかります。宗教の拠点のようなものですね?」

「えーと、まあそうかな。お祈りの場所で集会に使われたりもするの。ちょっと入ってみる?」


 ノアールはすこし考え、


「いや、次をお願いできますか。この施設をわたしが利用することはなさそうなので」


 もしかして、闇の眷属だから入れなかったりするのだろうか。

 教会は神聖な場所であり、邪悪なものは立ち寄れないと言われている。


「ノアール、もしかして教会に入れなかったりする?」

「なぜです?」

「その、ノアールって、別の世界から来たわけだし」


 ノアールは教会をしばらく見つめた。


「入れますよ、普通に。単に興味がないだけです」

「そっか」


 本当なのかはわからなかったが、リズは気にしないことにした。

 ウソをつく意味がないし、教会の守りというのも魔法的なものではないので、半分は迷信なのかもしれない。


 次に商館を案内した。

 商館は教会と違って、外観から見たら屋敷に近いと言える。

 入り口が開放的な構造になっているのが特徴的で、外からでも取引をしているらしい商人の様子を目にすることができた。


「ここが商館。商人たちの―――ーなんだろ。複合施設? 営業所かな?」

「何をする場所なんですか?」

「旅の商人たちが宿みたいに使えるのと、あとは取引の立会をしてもらったり、お金の貸し借りもできたりするんだったかな」

「なるほど」


 リズたちは次の場所に足を移す。

 端から見たら単に説明をしているだけのなんの面白みもない状態だが、リズはなんだか楽しくなってきた。

 たぶんノアールにものを教えている、というところがポイントだろう。

 教えていることで優位に立っている気分が楽しみにつながっているのだと思う。


「ここが職人ギルド」


 職人ギルドは商館とはだいぶ趣が違う。

 建物の入り口には、ハンマーが彫られた木の看板が垂れ下がっている。

 建物全体の大きさもそう大きくなく、石造りの無骨な建物で、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


「商館とはどう違うのですか?」

「職人ギルドは職人たちの組合なの。ここはそれを管理する場所。値段の調整だったり、あとは銘の登録だったりを管理しているところ」


 そう聞いても、ノアールはピンと来てないようだった。

 顎に手をあて、思慮深げに職人ギルドを見ている。

 

「例えばさ、どっかの鍛冶屋がものすごい安値で仕事をしちゃったら、他の店には来なくなっちゃうじゃない? 安値で仕事をする方だって人が来ても儲けは減っちゃうから辛いわけだし、職人の場合は商人と違って、そういう不毛な競争を避けるために職人ギルドがだいたいこの範囲の値段で仕事をしましょうって決まりを作るの。銘の管理も、ギルド側に銘を登録しているとこれは本当にどこどこの工房が作った品ですよって証明してくれるの。他にも色々あったはずだけど、あたしにわかるのはこれくらい」

「リズ様は聡明なのですね」


 むふ。

 リズは慌ててそっぽを向いた。

 急に褒められて口元が緩んでしまう。


 リズは魔法関連の勉強に力を入れていたが、一般教養に関してもちゃんと聞いておいて良かったと思う。

 知識は力、といったのは誰だったか。それを言った人は正しいと思う。なにかの賞でも授与したい気分だった。


 リズは小さく深呼吸して顔を引き締めてからノアールに向き直る。


「あと、今日は平日だから何もないけど、休日になると広場全体が市場になるかな。カルセルの入り口にあった市場をずっと大きくしたようなやつ。休日になると朝から城門は行列で大変らしいよ」


 他になにか案内すべきところはあっただろうか、とリズは考えたが特別には思いつかなかった。

 あとはカルセルならではの施設がいくつかあるが、それを案内したものかどうか。


「あたしが思い浮かぶ主要な施設はこれくらい。今案内した施設はどこの都市でも共通してあると思う。ノアールは他に何か知りたいところはある?」

「そうですね、本が買える場所はありますか?」

「本?」

「ええ、わたしはこの世界については不勉強なので、色々と調べたいのです」


 ちょうど良いとしか言いようがない。

 カルセルならそういったことを調べるのにぴったりだ。

 なにせカルセルには図書館があるのだ。

 一代前の領主が学問に関心のある人物で、カルセルを学術都市にしよう、という動きがあったのだ。

 それに際してカルセルには大きな学校が作られ、図書館が作られた。


 ただ、結果は微妙なものだった。

 色々とがんばったはいいが、結局エクレのような学術都市にはなれないうちに領主の代がかわってしまい、当代の領主はそういった学問にはとんと無関心だった。

 それからは学術部門には成長がなく、カルセルはそれなりに大きな学校があり、図書館もある都市というだけで、他地域まで名を馳せる特徴になることはなかった。


 とはいえ。

 都市としての名声はこの際なんの関係もない。

 図書館があるのだ。リズも入ったことはあるが、蔵書もそれなりのものだ。

 まさしく調べ物をするにはうってつけである。


 リズは得意げな笑顔をノアールに向けて言う。


「それなら本屋よりずっといい場所があるよ」

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