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1.波打ち際で黄昏る

 ざざーん、と波打ち際で膝を抱えながら、キラキラと日光を反射して輝くエメラルドブルーな海を眺める。


 

「わー、綺麗だなー...」



 皆さんは荒波に揉まれ、人を気遣い気疲れする、そんな生きづらい社会の中で、綺麗なものをを見て心を癒される。

 そんな経験はございますでしょうか?

 私、坂村(さかむら) 慶次(けいじ)、28歳独身は、日々のサラリーマン生活でパワハラや同僚からの陰口で、心を病み、会社の屋上から飛び降りましたところ、気が付けば燦々と太陽が輝く砂浜で、ぽつんと一人佇んでいました。


 海が、綺麗です。



「...なんでー?」



 周りを見ると南国の島に生えてそうなヤシの木やら、若干サイケデリックな青色の蟹が横歩きする岩礁、背後には森があり種類は分からないが黄色い果実をつけている。

 そして人気は全くない。



「無人島、だよなぁ...」



 気がついてから数十分程度、この砂浜周りしか見て回ってないが自分がどう言う場所に居るのかは、なんとなく理解できてしまい、ため息を吐いてしまう。



「...会社から飛び降り自殺をしたら無人島で目が覚める、ってどう言うことだよ。 ははっ、あれか? 地面に激突する前に現実逃避で俺の脳が見せてるイメージ...みたいな? ...まぁ、飛び降りるの怖かったもんなぁ」



 心を病んで、『このまま仕事をしても他人に迷惑を掛けるし生きててもしょうがないな』と思い、逆に一念発起し自殺をしよう!と思い至ったのはいいものの、ハイテンションで屋上の柵を乗り越えた辺りから正気に戻り、また柵を乗り越えようとした時に強風が吹いて、足を踏み外してしまった、と言うのが私の自殺の顛末で。


 今思い返しても情けない死に方だなぁと、自嘲気味に笑って、海を眺めていた。



「...それとも、ここって天国か地獄みたいな所か? ...どっちにしろ俺は死ぬんだし、深く考えても仕方ないか」



 正直、これが死後の世界だとか走馬灯のようなものだとかに全く興味がない自分は、改めてキッチリ死のうと思い、綺麗な色で輝く海に足を進める。


 少しひんやりとした水温が、脚から伝わってくる。



「...海に来たのって、久しぶりだな」



 人生の中で海に来たのは、中学生の時、友人達で海水浴に行ったきりで、それ以降は進学先でバラバラになり、受験やら就職活動やらで遊ぶ機会は全くなかったことを思い出す。



(...どうせ死ぬんだったら、好き放題した後に死んだ方がお得なんじゃないか?)



 丁度よく、ここには暴言を浴びせてくる上司や、学生のイジメみたいな陰湿なことをしてくる同僚もいないんだし、目一杯遊んでも誰にも迷惑が掛からない。



「...マジか。 やっぱ飛び降りて正解だった的なー!? さっさと死んどけばよかった! 無人島、サイコー!!」



 心を病んで自殺した後、数十分ぽっち経った程度じゃ精神は元通りにはなっていないらしく、誰も居ないってのに自分で高らかに楽しそうに笑、服を砂浜に脱ぎ捨てて海に飛び込む。

 クロールしたり、バタフライしたり、半裸の状態で楽しんでいる現実とは裏腹に、脳裏では『自分はもうおかしくなってるんだなぁ』と他人事のように思っていた。



「...はぁ」



 また十分後程度経つと、正気に戻り陰鬱そうな顔で砂浜に置いた服を取りに行く。



「何やってんだろ、俺」



 静かにそう呟く。

 先程まで海ではしゃぎ倒していた人物とは思えないほどに、冷静で暗い表情を浮かべていた。

 ただ砂浜で体育座りして、呆けていると、いつの間にか時間が過ぎたのか太陽は傾いて、空をオレンジ色に染めていた。



「これからどうするかなー...」



 ボソリと無意識に言葉が溢れる。

 その意図は、無人島でどう生活するか、ではなく、『生きるか死ぬか』と根本的な疑問だった。


 

 しかし、彼は知らない。

 ここがただの無人島ではなく、常人の尺度では測れない超常的で異常な場所だと。


 そして彼の運命を劇的に変えるものが、この島に飛来してくるのを、今の彼はまだ気付いていなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 情景が綺麗。 言葉選びがうまい。 [一言] 続きが読みたいです! 頑張って書いてください! 待ってます! 私のも…
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