プロローグ持つ者と持たざるものの差
黒髪の少年と相対する。
サラサラの黒髪を風になびかせている。
珍しい黒目を赤色に光らせ、堂々とポケットに手を突っ込んで立っている。
その相貌はしっかりとした男前な顔つきで、場不相応な幼稚な見た目の自分が劣って見える。
場所は闘技場。
取り巻くは群衆。
観客席で見る群衆。
ボク達の戦闘を見世物のように楽しもうとしているのか。
刹那の互いの無言の間の後、ボクは腰に携えている武器に手をかけた。
相手を睨みつけ、殺気を放ち威圧する。
対する相手は相変わらずポケットに入れた手を抜こうともしない。
ただそのまま何もせず立っているだけだ。
舐めやがってさ。
だが油断はしない。
彼の四肢を切り刻み首元に白銀の獲物を突きつけるだけで終了だ。
ある程度の傷なら回復魔法で直して貰えばいい。
ボクは作法とかに厳しい人間ではないが武器を構えた武人の前で戦意の対象と自覚しながら、構えすら取らないのだ。はっきり言って目の前のボクを戦士としてすら見ていない。
少しばかりは相手の構えるのを待っていたが、その気もなさそうだ。
場に緊張感がもたらされる。
騒々しい観客も今は無言で見つめている。
白銀の獲物をギラつかせる。
最終警告だ。
しかしやはり、応じる気はないようだ。
ボクはとうとう意を決する。
右足を極限まで曲げ、左脚を伸ばす。
静寂。張り詰めた空気感が漂う。
一瞬。ボクの額から汗が垂れた一瞬。ボクは大きく土を蹴った。
砂埃が巻き上がりボクの体が加速しながら宙を舞い、一気に少年との距離を詰める。
同時にナイフを振り上げ、斬撃を放とうとする。
一度の瞬きの間に腕一本の感覚まで詰めたボクは、振り上げたナイフを振り下ろした。
「ーーーッ!!?」
あれ??ドバッとボクは吐血した。
ボクは今……闘技場の壁にいる?
どうして?……ボクは?壁に…叩きつけられてるの?背中に軋むような激痛が走る。
背中の壁には亀裂が入っている。
混乱中の頭脳を最大限回す。
ボクが攻撃を放とうとした瞬間に彼に吹き飛ばされた?!
自分の知覚外の速度で放たれた攻撃をようやく認識する。
顔を上げたボクの視界に映ったのは、黒髪の少年が纏っている禍々しい漆黒の瘴気だった。しかも黒色の魔力はボクを捉えていた。
ボクは咄嗟に身を起こし身を翻す。
しかし、危機はもう放たれていた。
彼の瘴気の一部が黒く燃え上がり、それがボクに引火する。
全身が黒炎に包まれ呪いを受けたかのように悶えくりしみ、声にならない絶叫を上げる。
どす黒い火花が散り肉の表面を焼き払う。
鎮火した後の体は酷い物だった。
服は炭に変貌し、全身には火傷の傷口がうずく。
ボクはボロ雑巾のような体を無理やり立たせて全力で走り出す。
冷静さを失った脳にはもはや理論的な思考は不可能だった。
「ああああああああああああ!」
発狂し目の前の相手に突撃する。
白銀の刃を掴む右手に渾身の一撃を乗せ、過去最大の火力をため込む。
切り裂くは目の前の相手。自分をめちゃくちゃにした相手。
必死で捨て身の極大の一撃を持って眼前の相手をなぎ払う。この戦闘がただの模擬戦であることも忘れてただひたすらに。
刹那。少年の胴を切り裂き内臓を抉ったと捉えた瞬間。
ボクは串刺しにされた。
四肢を漆黒の闇で差し止められ、動きを封じられる。
そのすぐのちに少年はボクに向かって手をかざした。
初めてこの戦闘でポケットから抜いた。どす黒い雷を纏った手を……
「吹き飛べ雑魚」
そう彼の口からこぼれた瞬間ボクは宙を待った。否、正確には空中に魔的な一撃を持って吹き飛ばされた。
そのまま観客席の方に墜落し石畳に頭部を打ち付けられたボクはそのまま意識を失った…。
自己満です。