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1話

「1日に1回は必ず換気してくださいね」


 風呂場の窓を開けながら不動産屋のおじさんはそう言った。


「変なのが生えると困りますから」

「わかりました」

「1日1回、必ずですよ」

「はいはい」


 彰人あきとは気にもしなかった。

 カラスの行水みたいに入浴時間は短い方だが、気分のリセットのために少なくとも日に2回は風呂に入ってる。言われなくても水回りはキレイにするタイプだった。

 窓がある風呂場が気に入った。密閉された感じは好きじゃないし、何より外の空気で換気できるのは気分が良いと思えた。


 古い物件で窓を開けて見えるのは隣の建物の外壁。日当たりはいまいちだが値段がなかなか良い数字でそれほど迷わずにここに決めていた。


(どうせ寝に帰るか休みにはネトゲかSNSと動画巡りだ)


 部屋数も収納も申し分ない。独り身の彰人には十分すぎる。

 人を呼ぶには少々ショボいが友達と家飲みというタイプでもない。





 住み始めて1ヶ月経った頃。

 仕事の打ち上げで遅くなった。翌日も早かった彰人は仲の良い同期の家に泊めてもらうことになって、その日はアパートへは戻らなかった。


 翌日の夜。

 仕事を終えて帰宅した彰人は部屋のなかに違和感を感じた。


「なんだろう?」


 空気がじっとりと肌にまとわりつく。


(湿気・・・・・・?)


 すぐに窓を開けてふと思う。


(あれ? 昨日、風呂場の窓開けたっけ?)


 朝風呂はした。その時に開けたはず。


(・・・・・・いや)


 開けなかった。

 昨日は寝坊をして飛び起きて、とりあえず体を流していつものルーティンはせずに家を出た。


(換気するの忘れた)


 とはいえ、1日でカビが生えるわけでもない。風呂に入る支度をして風呂場へと向かった。


「え?」


 白と水色のタイルが貼られた浴室で、それは小さいながらも存在感があった。


「嘘だろ」


 浴室にあるはずのないものに彰人は自分の目を疑った。


「・・・・・・きのこ」


 紛れもなくきのこだ。

 黒っぽい茶色のかさを少しだけ広げて、1センチくらいのきのこが1本生えている。


『変なのが生えると困りますから』


 不動産屋のおじさんの言葉が耳の内側で再生されてひきつり笑いをする。


「冗談、キツいな」


 迷わずきのこを引き抜いた。そして、親のかたきかというほど生えていた箇所をしっかりと洗った。


「よしっ」


 窓を開けて浴室を出る。

 帰ってきてすぐに窓を開けたはずの部屋はまだ湿っぽかった。でも、自分の体がしっとりしているせいかと流してビールを口に含んだ。


「ん──! 風呂上がりの一杯、最高ッ」


 寝る前に浴室の窓を閉めさっぱりとした空間に満足して彰人は寝た。






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