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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
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第59話 渾身の火炎竜

 モニカは防御術の魔鎧アーマー身体強化エンハンスをかけていた。それは自分でも意識していたわけではない。モニカの本能がそうさせていた。その本能ですら、こう語りかけてきている。


(全力で行け……さもなければ、死ぬ!)


 その言葉通り、すかさず巨鴉の右腕が大きく動き出した。その右腕がモニカの胴体に直撃する寸前、モニカもギリギリで躱しきる。身体強化をかけていなければ、直撃していた。


「随分、気前のいい挨拶だね!」


 だがモニカは気が抜く暇がない。直後、自分の頭上には巨鴉の左手の手の平が見えた。左腕で自分を叩きつけるつもりだ。


「ぐっ!!」


 躱しきれないと判断したモニカは、咄嗟に魔盾シールドを張る。巨鴉の左手は止まったが、それでもジワジワと押し付けようとしていた。


「な、なんて……力! だけど……」


 さすがのモニカも全力をふり絞り、何とか巨鴉の左手を弾き返す。だがすかさず、今度は右腕の薙ぎ払い攻撃が襲う。


「ちぃっ!!」


 またもや回避したが、再び襲ってきたのは左手の方だ。だがそれはさっきとほぼ同じパターンの動きだったために、今度は魔盾を張らず回避に成功した。


「ワンパターンか、だがこのままじゃ……」


 気づけば巨鴉の動きは単調になっていた。右腕で薙ぎ払い、そして左手で叩きつける。ずっとそれの繰り返しだった。しかし巨鴉は、ただ闇雲にそんな攻撃をしていたわけではない。


 それもそのはず、なぜならモニカはこの間全く巨鴉に攻撃が出来ていなかった。その戦いぶりを観客席に座っていたオライオンは、冷静に分析する。


(巨鴉の術中にはまってるな、あのままじゃいずればてる)


 巨鴉の戦術、それはモニカの体力と魔力が尽きること。最初から全力ではいかない、長い両腕はただの飾りではなく、一人の魔導士と対戦する時には重宝する。


 両腕の攻撃を躱すか防御し続ければ、魔導士は魔力と体力を消費せざるを得ない。そのことを巨鴉も熟知していた。だてに将軍級と言われているだけではない。邪気イビルの量だけでなく、知能においても精鋭級とは歴然の差がある。


「なるほど……考えたな。だが、それなら!」


 モニカは埒が明かないと踏み、巨鴉の手が届かない場所まで後退する。しかしそんな行動も予想済みなのか、巨鴉が次にとった攻撃はモニカの予想外なものだった。


「な!」


 モニカが後退した直後、何かが背後の壁に激突した。何がぶつかったのか最初はわからなかったモニカ、だが巨鴉の右手の構えを見て察した。


衝撃波サージか、アイツあんな攻撃まで)


 直後巨鴉は左手で同様の構えをする。次は間違いなく自分に当たると、モニカは踏んだ。


「ぐっ!!」


 2発目の衝撃波が放たれた。それを魔盾で防ぐも、間髪入れず再び右手で衝撃波を放つ。


 後退したものの、今度は遠距離からの衝撃波の連発、モニカに攻撃する余裕がない。だがモニカは先ほどと打って変わって、余裕の表情だ。


(さっきの腕の攻撃に比べりゃ、こっちはまだ軽い!)


 この程度なら耐えられる、後は隙を見て懐に飛び込み大技をかませば勝機がある。そう踏んだモニカだが、そうは問屋が卸さなかった。


「え?」


 なんとモニカが隙を見つけるまでもなく、巨鴉は攻撃の手を止めた。それどころか前傾のまま動かない。まるで何かを待っているかのようだ。モニカはそれでも釣られなかった。


(アイツ、何考えてる?)


 これは決して巨鴉が疲労したわけではない。普通の魔導士なら、この機を逃さず突進していただろう。だがこれは明らかに罠だと、モニカは直感する。


(……懐に飛び込んで、近づいたところを攻撃術で始末するつもりか)


 百戦錬磨のモニカも自分なりに考察した。このまま突っ込めば、間違いなく巨鴉の術中にはまる。どんな攻撃術かは想像できないが、明らかに大技でとどめを刺しに来る気配を感じ取った。


 しかし今のこの状況は明らかにチャンスでもある。それまで攻撃一辺倒だった巨鴉がわざわざ自分から隙を作ってくれた。仮に罠だったとしても、その隙を逃す手はない。


「上等だ! 受けて立ってやろうじゃないか!」


 直後モニカは意を決して走り出した。もちろん勝算がないわけではない。モニカも今の自分が繰り出せる最大魔力と、大技で突貫する意気込みだ。


(全力で行け! まだ実戦で試してないが、あの大技なら!)


 モニカが巨鴉の懐に飛び込もうとしたその時、巨鴉の両眼の赤い光がさらに赤く光り出す。そして上体を反らし、口の中から真っ赤な光が漏れだす。


「まさか!?」


 モニカの予想は当たっていた。上体を反らした巨鴉はその口を大きく開き、モニカに向けた。その中から、凄まじい量の火炎が吹き出し、モニカに襲い掛かる。


 オライオンはその光景をじっと見ていた。この戦いは一人の中級生が【将軍の試練】を受けるに相応しい実力があるかどうかを見極めるもの、何があっても手を出してはならない規則がある。たとえ一人の女子生徒が窮地に陥ろうとも、身動きとらず冷静に戦いぶりを見ていた。


 そして彼の横には、いつの間にかソニアまで座っていた。


「やっぱり、まだ荷が重かったのかしらね」


 いつものように右手の親指の爪を、舌でペロペロ舐めながらソニアは呟く。しかしオライオンはソニアが隣にいても驚くことはなく、左手に魔力の簡易型測定器を持ち注視する。


 そしてその簡易型測定器の中心から針が飛び出した。その長い針が、攻撃レベル10のラインを超えた。それを見た二人は咄嗟にモニカに視線を配る。


「もしかしたら……」


「さすがは真紅のエースってところか」


 直後モニカに覆い被さっていた炎が、一瞬にして消え去った。そしてその中から現れたのは、これまた自身の周囲を巨大な炎のバリアで包んでいたモニカだった。


「今度はこっちの番だよ、はぁああああああ!!」


 モニカはこれまでにないほどの魔力を放出する。そしてそれに呼応するかのように、自身の周囲を覆っていた巨大な炎の塊が巨鴉の顔にまで到達する。すぐさま巨鴉は後退し炎を避けようとする。


 それを見たモニカは察した。この魔術で片付けられると。極限まで達したモニカの魔力により、炎は巨大な竜巻を形成した。ソニアとオライオンも、それがどんな攻撃術か察しがついた。


「あれは、まさか!?」


 モニカは両手に持った魔導筆を動かすと、それに連れて炎の竜巻も動き出す。それはさながら宙を舞う蛇のような動きだ。その竜巻の先端が巨鴉の顔に照準をつけ、モニカは叫ぶ。


「喰らいな、火炎竜フレイムトルネード!!」


 モニカの掛け声とともに、炎の竜巻が超高速で巨鴉の顔めがけて突進した。巨鴉は口を開け、さっきよりも凄まじい量の火炎で応戦する。だがそれは無駄な努力だった。


 巨鴉の吐いた火炎は、突進したモニカの炎の竜巻によっていとも簡単に掻き消され、逆に炎の竜巻がそのまま巨鴉の口の中へと直撃した。


 巨鴉は声も出すこともなく、大量の血液とともにあえなく崩れ去る。両眼の赤い光も消え、それを確認したモニカも思わず倒れ込んだ。全力を使い果たしたモニカは、もう立つこともできない。だがそんな疲労感など気にならないほどの達成感に耽っていた。


(やった……やったぞ!)


 初めて将軍級の災魔を倒した、それだけでなく実戦で初めて試すことになった大技の火炎竜の成功にも打ち震えていた。その健闘にソニアも拍手をしながら近づく。


「おめでとう、モニカ。とりあえず合格ね。だけど……」


 オライオンが巨鴉の封印を行いながら説明した。


「今のはギリギリだった。もう少し余裕を持って戦えたらな」


 オライオンのダメ出しはモニカに重く伸し掛かる。だがその言葉の意味はモニカも十分わかっていた。確かに現状の自分の疲労具合を見れば、それも納得がいく。


「言っておくけど、【将軍の試練】はもっときついぞ」


「まぁ、それはまだ十分先でしょ。焦る必要はないわ。それじゃモニカ、今日はもうゆっくり休んで……」


「その前にちょっと聞いていいか?」


「あら、なにかしら?」


「後何体いるんだい?」


「何体って?」


「とぼけんじゃないよ。ここはどう考えてもただの元決闘場、じゃないんだろ?」


 モニカが何を聞きたいのか、今いち掴めないソニアは返答に困る。


「……何が言いたいの?」


「だからさ、ここの広間の使用目的だよ。あちこちに衝突跡がある。それもかなり新しいね。ここの広間の壁全体に防御術はかかってるようだけど、その壁にレベル10は下らないほどの攻撃術で作られた跡があるってのはさ……」


 そこまで言われてようやくだが、モニカが何を聞きたいのかが理解できた。


「対人戦なんかでは絶対に説明ができない。となると……」


「……まぁ、そうね。隠す必要はないか、あなたには」


「20体くらい、かな」


 オライオンがボソッと答えを言った。その数字を聞いてモニカは一瞬閉口する。


「……なんだって?」


「20? 違うでしょ、30はいなかった?」


「この前、ディアナとリーヴが5体ほど消滅させてしまった。核も限界に来てたし」


「またあの二人ね、少しは手加減したらいいのに」


「な……」


 オライオンとソニアの二人がふざけているとは思えない。二人の言葉から、モニカも自分との力量差を改めて痛感させられた。少なくとも二人の上級生は、間違いなく規格外の実力の持ち主であると。

第59話ご覧いただきありがとうございます。次回もまた一週間後となります。


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