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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
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第56話 謎の文字

「セリナ、そっちに一体逃げたぞ!」


「わかったわ!」


 フィガロがセリナに指示を出す。早朝のフリッツとの会話を振り返ってきたセリナもすぐ我に戻り、災魔の討伐に集中する。


 そんな彼らの討伐数の合計は、早くも50の大台に到達しようとしていた。といっても、その大半はほぼフィガロに占められていたが。


 セリナは敢えてフィガロに多く討伐させていた。手を抜いているわけではない。


 風紀委員へ入るための最大の障壁、フリッツの話していた人物は目の前にいる。セリナは放課後に行われるであろう模擬戦のために、フィガロの戦闘を少しでも多く観察し、彼の戦いぶり、行動、その全てを何とかここで見極めようと必死だった。この授業でフィガロと同じペアになったのは、不幸中の幸いだ。


(さすが学年首席ね。本当に隙を見せない)


 セリナの予想通りフィガロは傷一つ追わず、災魔を薙ぎ倒していく。もちろん敵対する兵士級の災魔が、弱すぎるというのも関係している。これでは真の実力を把握しきれない。


 だがセリナにはもう一つの材料があった。それが一昨日の巨鴉との戦闘だ。


 将軍級の災魔と戦っていたフィガロも、セリナは当然見ていた。逆に巨鴉が強すぎて、フィガロも圧倒されてしまうほどだが、その時のフィガロは間違いなく全力で戦っていた。


 巨鴉の炎を防いだ彼の石盾の頑丈さは、並大抵の魔力では実現できない。総合的に考えればフィガロの方が圧倒的に優位だ。しかしセリナには勝てる保証がないわけではなかった。


(彼には、弱点がある!)


 セリナの根拠も翌日、フリッツに話してもらったことだ。フリッツも王族である以上騎士団の息子とは長く付き合っていた。そんな彼だからこそ、知っている秘密がある。


 もちろんたとえ弱点があったとしても、その弱点が突けるとは限らない。仮にも相手は首席だ。自身の弱点は把握しているし、そこを突かれないよう戦いに臨むはずだ。


 と、それまでずっと思案していたセリナだが、本音では彼とは戦いたくない。いや、正確には彼と当たりたくない。


 するとそこにフィガロが話しかけてきた。


「だいたい、掃討できたな。邪気探知イビルサーチは……ゼロか。鍾乳洞とだけあって数は多かったが、こんなもんか」


「凄い、もう片付いたなんて!」


「まぁ兵士級しか出ないようだから、どうってことないだろ」


「そ、そうね」


「そういえば、放課後に委員会の募集があるって知ってたか?」


 タイムリーな話題をフィガロ自身から持ち掛けてきた。


「知ってるわ、あなたはどの委員に?」


 その質問には予想通りの答えが返ってきた。


「あまり乗り気はしないがな、風紀委員に入ろうかと」


「そ、そうなの……」


「いや、誤解しないでくれ。本当に乗り気じゃないんだ、ただアイツの相手となると……」


「え、誰のこと?」


「ダリルのことだよ」


「あぁ、彼か。って、彼がどうかしたの?」


 その質問にフィガロもやや呆れる。


「どうかしたの、じゃなくてアイツの素行と性格、君も知ってるだろ?」


「それは知ってるけど、もしかして」


「中学時代もいろいろと問題起こしてたからな、何か問題起こすたびに俺が制止してた」


「そうだったの」


「やはり学園エルグランドに来ても、同じことの繰り返しになるみたいだな」


「でも、本当は嬉しいんじゃない?」


 フィガロのまんざらでもない様子を、セリナも察していた。


「まぁ、ほかに入りたい委員もないし。別にいいが……っ!!」


「どうしたの!?」


 フィガロが何かに気づき洞窟の奥に目をやる。その動きを捉えたセリナも、フィガロが何を見つけたのか察しがついた。


「まだ、残りがいた?」


「十体はいるな、まだ奥があったのか……」


「この洞窟って相当広いのね」


「探索したら多分日が暮れる。授業の終わりまでには帰れないな」


「べ、別に全部倒す必要はないんじゃ」


「それはそうだが、討伐数を稼ぐに越したことはない。それじゃ、やるか!」


 しかしフィガロとセリナが戦うことはなかった。直後、その邪気の集団が一瞬にして消えたのだ。


「え、なに!?」


「ばかな、消えた?」


「消えたというより、これは……」


 直後その邪気を探知した洞窟の奥から、二人の生徒が歩いてきた。その内の一人はセリナも見覚えがある生徒だった。


「ろ、ロゼッタ!?」


「なるほど、してやられたな」


 やはりというか、彼女によって奥にいた災魔達は掃討されたようだ。ペアを組んでいた男子生徒が奥にはもう災魔はいないことも告げた。


「随分先回りされたんだな、ロゼッタに」


「あの、討伐数いくら?」


 しかしロゼッタは無言のまま立ち去ろうとする。セリナの話を聞かないわけではない。


「もう時間切れ、急いで戻らないと」


「えっ、嘘!?」


「彼女の言う通りだ」


 フィガロがセリナに一枚の灰色の板を提示する。その板には討伐した災魔の数と、右上には残り時間も表示されていた。


 その残り時間が「ゼロ」になっていたこともセリナも確認し、ロゼッタ達に続いて洞窟を後にすることにした。


 しかし思った以上に久しぶりの実戦訓練はセリナには荷が重かったのか、戻る途中でセリナは岩場で腰掛けた。


「おい、大丈夫か?」


「平気、ちょっとだけ休んでくね。すぐに追いかけるから」


「そうか。無理はするなと言いたいが、先生の機嫌を損ねさせるなよ」


「わかってる」


 セリナはまだ不完全ではあるが、身体強化エンハンスの術も使える。その身体強化で脚力を増幅させれば、すぐに追いつけるという自信があった。もちろん体力と魔力を回復させるのが先だ。


(あぁ、わかってたけど……やっぱ訓練サボってたのが痛いなぁ。って、あれ?)


 セリナが背後にある岩場に右手を伸ばし、その岩肌を触ると何とも奇妙な触感を得た。


(なんだろう?)


 洞窟の中は暗く、よく見えない。セリナは暗視ノクトヴィジョンの術をかけ右手で指先の岩肌を凝視する。


「なにこれ……文字が彫られてる……?」


 セリナの右手の指先は、直線状に凹んでいた。さらに別の指でも探ると、所々直線状になっていたり、直角に曲がっている。確かに誰かが彫ったであろう文字が浮かび上がっていた。


「ク……ロ……エ?」


 かろうじてその文字を読み上げることができたが、それ以上はどうも何も彫られていない。その文字の意味はすぐには出てこないが、セリナは自分なりに推測してみた。


(なんだろう、人の名前っぽい? でも「クロエ」なんて名前、うちの組にはいないし、どこの組だろう)

第56話ご覧いただきありがとうございます。次回もまた一週間後となります。


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