第53話 ザックスとカティアの大連携
その頃同じペアを組んでいたザックスとオルハの目の前には、頭と鼻の先から角を生やした巨大な四足歩行の獣の姿をした災魔があった。その獣に対し、ザックスが正面から向かい合って対峙していた。
ザックスはこれまでにないほどの魔力で、身体強化を災魔に対し猛攻撃を仕掛けてきた。しかしその猛攻撃も目の前の災魔は難なく耐えている。さすがのザックスも息を切らさざるを得ない。
「くっそぉ、コイツどんだけ硬いんだよ……」
「ザックス、ごめん。私が筆落したばっかりに」
「気にすんじゃねぇよ。ちょうど俺だって一人で精鋭級と戦ってみたいところだったんだ!」
「でも、犀はとにかく硬いわ。正直、あなたの身体強化じゃ相性が悪い」
「んなことはわかってるよ! でも、だからって逃げるのは男が廃るってもんだぜ!」
(あぁ、もうどうして男子ってこんな思考ばっか!)
オルハもザックスには何を言っても無駄だと諦めた。この戦いが始まる前、オルハが森のとある場所で筆を落としてしまったがために、現在はその筆の場所を物体探知の術で探しているところだ。
だがその前にオルハは既に手を打った。
「救助光上げたから、助けが来るまで何とか耐え抜いて!」
「へっ、オルハには申し訳ないけどよ。俺一人で何とかやってみせるって。別に勝機がないわけじゃねぇよ」
「だから、身体強化じゃ分が悪いって……」
「あそこにちょうどいい感じの形の岩が刺さってんな」
「え?」
そう言いながらザックスは左前方に地面に刺さっていた、鋭く尖った大岩に目をやった。
「もしかして、あなた?」
オルハも彼が何をしようか想像がついた。
「悪くねぇ作戦だろ?」
次の瞬間、犀がザックス目掛けて突進を仕掛けた。
「ありがてぇ。そっちから来るだなんてな。オルハは下がってろよ!」
「ザックス、無茶はしないでね!」
オルハはザックスの作戦を汲み取り、戦いに巻き込まれない場所まで後退した。ザックスは突進してきた犀の攻撃を華麗に躱し、左前方の大岩の前まで走り抜けた。
そしてザックスが岩に指を突き付け術を放った
「硬化!」
ザックスが放った岩には外見的な変化は現れない。だがそれは今のザックスには何も関係ない。一番大事なのは硬化の術を岩に直接かけることだった。
その岩はザックスの身長ほどの大きさを誇ったが、身体強化をかけたザックスにとって地面から抜く作業は造作もないことだ。
ザックスはまるで雑草をむしり取るような感覚で、その大岩を両手で引っこ抜いた。
「さぁて、化け物! 今度はこっちから行くぜ!」
身体強化をかけたザックスにとってその大岩は、まるで小石のように軽く感じる。ザックスは右肩にその大岩を乗せ右手だけで抱えた。
再度ザックスと犀は向かい合う。念には念をともう一度硬化の術をかけたザックスだが、勝負はここからだ。
(投擲するのもいいが躱されたら元も子もねぇ、どうやって奴に当てるか……)
そんなザックスの思案を見抜いたかのように、後ろからオルハの声が聞こえた。
「ザックス、大丈夫。私に策があるわ」
「オルハ? 下がってろって言ったろ!」
「その大岩、当てられなかったら意味ないでしょ」
「……そうだけど、何か考えがあんのか?」
「目を瞑って!」
「え?」
「いいから目を瞑って、私が合図したら!」
その言葉を言い終えた後、再び犀は突進してきた。ザックスは考えても仕方ないと思い、オルハの言葉に従うことにした。
「今よ、ザックス!」
「おう!」
「閃光!!」
その瞬間、オルハの両手の先から眩いばかりの光が放たれた。その強烈な光を目を見開いたまま見ていた犀は、目を瞑るも完全に視界を奪われる形となり、足を止めた。目を開いたザックスはその隙を逃さなかった。
「ありがとよ、オルハ。超跳躍!」
「え、上から!?」
「うおおおおおおお!!」
身体強化を施したザックスの脚なら、高さ20メートルほどまで跳躍するのは朝飯前だ。
ちょうど降下するタイミングになり、ザックスは大岩を両手に持ち替えて鋭い先端を下にいた犀の背中に向け、一直線で落下した。
ザックスの全体重を乗せた大岩が見事犀の背中に突き刺さり、犀は巨大な呻き声を上げ地面に倒れ込んだ。そして落下したザックスも全力を使い果たしたのか、地面に腰かけた。
「や、やったぜ……」
「凄い、ザックス。おめでとう!!」
「へへ、大岩の硬化作戦、我ながらうまくいったぜ」
オルハもザックスの作戦を褒め称える。
「今から回復させるね」
「お、おう……」
オルハがザックスの腕に両手を乗せ、治癒術をかけようとする。だがその時だった。
「あれ、なんか暗くね?」
「え?」
突如二人の周囲を黒い影が覆った。一体何がどうなったのかと周囲をオルハが見渡すと、信じられないことにさっき倒したばかりの犀が起き上がっていた。
「嘘でしょ、まだ生きてる?」
「なにぃ!?」
ザックスも慌てて後ろを振り返る。犀は確かによろめきながらも起き上がった。大量に血を流しているものの、それでも災魔の生命力を表した目の色を見たオルハは確信した。
「あの目の赤さ、まだ戦える証拠よ!」
「嘘だろ、渾身の力でぶっ刺したはずなのによ!」
「仮にも精鋭級よ、やっぱり核に直撃させないと」
「くっ、どうすれば?」
その時だった。背後から強烈なスフィアが放たれ、犀に直撃した。
「い、今のは?」
「水球!」
振り向くと、そこにはカティアが立っていた。
「化け物、今度は私が相手よ!」
「カティア、来てくれたのね!」
「アレでとどめを刺すわ、二人とも下がってて!」
カティアは目を瞑り、両手を広げ魔力を集中させた。そして筆を両手にもち、その先端を犀の背中の真上に向けると、そこには夥しい量の水が渦を巻きながら球体を形成し、徐々に巨大化していった。
「お、おい、アレって?」
「まさか、あの術を!?」
「大瀑布!!」
カティアの掛け声とともに、その球体から滝のような水が流れ落ちた。その流れ落ちた水は一直線に、犀の背中に刺さっていた大岩に直撃した。
「グゴォオオオオオオオオ!!」
立つのもやっとだった犀は躱すことなど到底不可能だった。巨大な呻き声を上げ、再び犀は地面に倒れ込んだ。刺さっていた大岩は叩きつけられた大滝でさらに深めに体にめり込み、貫通した。そこから大量の紫色の液体が流れ出し、今度こそその両眼から真っ赤な光も消えた。
空中から大滝を落下させる水属性の大技、最低攻撃レベル7は誇る威力は犀のとどめを刺すには持って来いだった。
第53話ご覧いただきありがとうございます。都合よく大岩が地面に刺さっていたのには理由があります、詳しくは次回で。
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