第46話 禁断魔術の間
2021年12月25日 サブタイトルを記入し忘れていました、お詫び申し上げます。
4人が向かった先は魔導学園の大図書館、中央校舎の北西、大聖堂のちょうど真西に隣接する。
魔導学園の大図書館とだけあって、首府サロニアの中央区にある王立図書館には及ばないまでも、アズミアン王国でも指折りの蔵書数を誇る。
魔導学園は国内屈指の魔導士育成機関で、実技及び対災魔戦の攻撃及び防衛能力の向上を重視することが目的で設立された。そのため大図書館には、王立魔導図書館と違い基礎学術書、初等教育向けの学習教本などは置かれておらず、戦闘重視の魔術が記載された魔導書、及び中級上級魔術の魔導書、魔導生物書、魔導薬学書などより実用的な書物しか保存されていない。
「うわぁ、本当に凄い魔導書の数」
「セリナ、ここの図書館来るの初めて?」
「図書館って、ぶっちゃけ苦手だから……」
「わかる、私もよ」
「噂には聞いてたけど、まさかこれほどとはね」
「私は初日にここに来たけど、まだ読んだことない本が多くあって驚きよ」
「オルハですら読んでない本があるなんてね」
「王立図書館にはずっと通ってたけど、ここの図書館は随分と毛色が違うみたい。初等教育の教本とか学術書もあまりないし、特に際立つのがあそこの禁断魔術の部屋ね」
オルハが指差した図書館の一角に怪しげな薄灰色の壁で仕切られた小部屋があった。ガラス張りで中の様子を少しだけ伺えるも、誰もその中にはいない。黒い魔導書が整然と棚に陳列されている光景だけが見える。
小さな部屋だが、図書館全体の中に怪しげな色で仕切られたその一帯は、不気味な雰囲気を嫌でも醸し出している。入口のドアの真上のプレートにはこう書かれていた。
『禁断魔術の間 資格なき者入るべからず』
「うぅ、なんか凄い不気味」
「本当、何でこんな部屋あるのかしら?」
「オルハ、王立図書館にも禁断魔術の魔導書とか置いてあった?」
「一応あったけど、やっぱりここと同じように厳重に封印されていたわ。しかも地下室にあった」
「ここは地下室にないだけの違いよね。でもそれじゃ、誰かが悪戯で入ることもできそうじゃ」
「さすがにそれはできないと思うわ。生半可な解錠術じゃまず開けられないし、規格外の攻撃レベルでもない限りまず破壊されないと思う」
「規格外の攻撃レベルって……」
「恐らく攻撃レベル10か11以上か、まぁそんなレベルだったら多分中の蔵書もただじゃすまないと思うけど」
「じゃあ悪戯気分で入ることはほぼ無理ってことね」
その攻撃レベル10以上の術を放つことができる同級生がすぐそばにいることを、カティア達は当然知らない。
セリナは内心ドキッとしたが、すぐに平静を保ち苦笑いしながら相槌した。
「そ、そうなんだ……」
「まぁ私達がこの中に入るだなんて、当分ないよね」
「うん、そう信じたいけど……」
「え、オルハ? どうかした?」
「いや、何でもないわ。それよりもロゼッタ探しましょ」
「私に何か用?」
その時背後から別の女子生徒のぶっきら棒な声が聞こえた。探していた張本人が本を片手に持ち立っていた。
「ロゼッタ、やっぱりあなたもここに!」
「ねぇロゼッタ、ちょうどよかった。あなたに聞きたいことあるんだけど」
「トールを治すなら、秘薬を作れば大丈夫なはずよ」
ロゼッタはやはり4人が何を聞きたいのか察していたようだ。しかし、惜しくも外れていた。
「私達がトールのことについて聞きたいなんて、よくわかったわね」
「それ以外に何があるの?」
「あぁ、そうね。でもロゼッタ、惜しいわ。実はもうトールは治るって……」
「え?」
さすがのロゼッタも驚いた顔を見せた。普段は人形のように表情を崩さないロゼッタが目を丸くしたが、直後セリナから既に自分が持っていたマブーレの秘石をバーバラに渡したことを告げ、ようやく納得した。
「そうだったの」
「まぁ、こればかりはそのレイリスって子が本当のお手柄なんだけどね」
「それで、私に聞きたいことっていうのは?」
「昨日も言ってたけど、トールがどこで災魔に憑りつかれたかが気になってね。あなたなら知ってると思って……」
「あぁ、そのこと」
「昨日ボソッと言ってたじゃん。谷底って、一体どこのことなのかなぁ?」
「谷底って言ったら、もうあそこしかないでしょ?」
「え?」
ロゼッタが当然のような表情で言い返した。まるで自分達も知っているでしょ、と言わんばかりの態度だ。
「あそこしかないって、どこのこと? 知ってるんなら教えてよ」
「既に大ヒントあげたわ。私は忙しいから、これで」
「あぁ、ちょっと!」
ミリアが大声を出して呼び止めようとする。しかしオルハは既に察したようだ。
「ありがとう、ロゼッタ。また機会があったらよろしくね」
「はぁ? ちょっと、何も解決してないでしょ?」
「ミリア、さっきの言葉でもうどこのことかわかったわよ」
「え、それってどういう……?」
セリナにも見当がつかない。しかし察したのはオルハだけでなかった。
「ギラードの爪跡?」
カティアが突如口走った。
「え、カティア今なんて?」
「そういえばカティア、あなたサピエ出身だったよね?」
「うん、でもまさかとは思ったけど……」
「一流の魔導士ですら生きて帰ることができないとされる谷底、それがギラードの爪跡」
「何千メートルもの深さを誇る谷よね。確かに将軍級の災魔とか出てきてもおかしくなさそう」
「でも、それって都市伝説じゃ? ただの観光名所で、あそこはそもそも何もない場所でしょ? そもそも神話の大災魔ギラードなんて本当にいたかどうか……」
「ふふふ、都市伝説なんかじゃないよ」
突然今度は別の男子生徒の声が聞こえた。その声の主は今まで聞いたことがない。ホークでもザックスでもない。振り返ると、そこには見知らぬ橙色の長髪の男子生徒が立っていた。
「やぁ久しぶりだねオルハちゃん。僕のこと覚えてる?」
「あなたは、フィスコ?」
オルハの顔見知りのようだ。セリナ達同じく深緑色の制服を着たフィスコという名の男子は、橙色の長い髪をした小柄な体格で、身長はセリナとさほど変わらない。しかしその小柄な体格とは裏腹に、その体からは不気味なオーラを醸し出していた。
「君達は何も知らないんだね、まぁ平和ボケもいいところ……」
「何ですって?」
「フィスコ、っていうか何であなたが学園に!?」
「おいおいオルハちゃん。心外だなそんな言い分は、確かに僕は異端児だけど」
「オルハ、どういうこと?」
「実は、その……」
「っていうか、あなた初対面なのに自己紹介しないの失礼じゃない?」
カティアが強気な姿勢で言い返す。
「これはこれは失敬。僕の名前はフィスコ・アデル・リフトバーン、アルテナ出身で、所属組は7組さ」
「7組?」
セリナはその言葉に反応した。何を隠そうその数字はフリッツがいる組番号と同じだった。
「じゃあ、今度は私から自己紹介するね。私は……」
「セリナ・フォード・オコーネルさんだね。噂は聞いてるよ、かの有名な大賢者ライザ様の末裔だって……」
「え、どこでそんな……?」
「君のような有名人、もういろんなクラスで有名になってるよ。知らない方が恥ずかしいくらいだ」
セリナはその言葉を聞いて思わずゾッとした。いくら名前が知れているとは言え、顔までは知れていないはずなのに。不敵な笑みを浮かべつつ答えるフィスコを見ながら、ミリアがこっそり耳打ちした。
(マジでキモイよね、こいつ……)
セリナもぐうの音も出ない。そしてそれに拍車をかける言葉がフィスコから飛び出す。
「君以外の名前も知ってるよ。青髪の君はカティア・クラン・リスパさん、そして金髪の君はミリア・アイレス・カシンジャさんだろ?」
自分の名前を言い当てられたのはセリナだけではない。カティアとミリアのフルネームまで言い当てた。2人とも背筋が凍った。
(ちょ! ヤバい、コイツは?)
(ガチでストーカー!?)
第46話ご覧いただきありがとうございます。次回はフィスコに不可思議な現象が起きます。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman