第45話 秘薬作成
「はぁ、はぁ……」
生徒寮の階段を下りたセリナ、自分のベッドの棚の中に入ったマブーレの秘石をずっと手に持ち続け、生徒寮の外に出た。
一目散に中央校舎の医務室へ向かったセリナ、そして扉の手前の廊下で複数名の女子生徒と出会う。
「あぁ、セリナ!?」
「やっぱあなたも来てたの!?」
「え!? みんな……」
医務室の前にいたのはカティア、ミリア、オルハの3人だった。彼女達もトールの容態が気がかりだった。
「聞いて! セリナ、凄く大事な話があるの!」
突然オルハが血相を変えて話しかけてきた。あまりの迫力にセリナも気になる。
「大事な話?」
「トール……治るかもしれないわ!」
それを聞いたセリナは、もしかしたらオルハの言おうとしていることは、自分がさっき生徒会長から言われたことと全く同じではないか疑った。恐る恐るポケットから秘石を取り出した。
「あの……オルハ、もしかしてそれって……」
「え? セリナ、知ってたの!?」
「なぁんだ、抜け駆け!?」
「そうよ、その秘石! それでトールは……」
その時遠くから誰かが走ってきた。
「おうセリナ、取りに来てくれたのか?」
現れたのは生徒会長エンリケ、そしてバーバラも一緒だ。
「バーバラ先生、秘石持ってきました。これですよね?」
「ええ、そうよ。間違いない、この輝きは紛れもなくマブーレの秘石、本当にあったなんて!」
「実はレイリスに持ち込みの許可証を渡したことを俺も思い出してね。トールの容態を聞いて、もしやと思ったが、案の定だった」
目的の物をもらって驚愕するバーバラとエンリケ、セリナ以外の女子生徒がいたことに気づかなかった。
「生徒会長。それにバーバラ先生まで……」
「あら、あなた達も来てたの?」
「バーバラ先生、トールを治すにはマブーレの秘石が必要なんですよね?」
「ええそうよ。って、あなた達それをどこで知ったの?」
「私が以前読んだ図書館の書物に、確か災魔の呪いを取り除く秘薬についての記載があったってこと思い出して。写経で私の脳内に保存した画像を追ったら、案の定あったんです」
「そうだったの、あなたオルハって言ったよね?大したもんだわ」
「いえ、そんな……」
「さすがレベッカも目をつけるほどの博識ぶりだな」
「こんな偶然ってあるのね……」
「すぐに秘薬の生成に取り掛かるわ。本当にありがとうね、あなた達」
「いえ、とんでもございません」
バーバラが医務室へ入っていった。ようやく肩の荷が下りたのか、セリナの精神も久しぶりに安堵に包まれた。
「これでトールの件も安心ね。一時はどうなるかと思ったけど……」
「でもまさか、入学式にもらった秘石がこんな形で役に立つなんて……」
「どこかの誰かさんは、売ったらどれくらいの価値になるだろうとか、ほざいてたけど……」
カティアがミリアに視線を配りながら言った。ミリアがしどろもどろになる。
「は、はぁ!? そんなこと誰が言ったのよ?」
「さぁ、誰でしょうねぇ?」
セリナもオルハもその発言の張本人は誰か想像がついていた。だがエンリケはそんなことは気にしなかった。それどころか表情を曇らせながら、意味深なことを言った。
「……治ったら治ったで、また彼にとっては辛くなるな」
「え?」
エンリケのその言葉に一同注目せざるを得ない。
「どういうことですか?生徒会長?」
「生徒会長ではなく、先輩でいいよ」
「あぁ、わかりました。えぇと、その……トールは治るんですよね?」
「治るのは治るよ。バーバラ先生の腕は確かだからね。そこは安心していいんだ。ただ……」
「ただ、なんです?」
「授業に出席してないからね。入学したばっかで、早くも出遅れちゃったから。補習で何日も居残りさせられるってことでしょ」
「うわぁ、それは辛い」
「いや、そんな単純なことじゃないんだ」
「単純なことじゃないって?」
エンリケが医務室のドアのガラス越しからトールを眺めて呟いた。
「それ以上君達は知る必要ないよ。それよりもセリナ、さっきの寮での件だが……」
「あ! それは……」
「セリナ、なにかあったの?」
セリナの顔色が悪くなった。もちろん何のことかは心当たりがある。
「一旦保留にしておくよ。相手が相手だったからね」
「その……すみませんでした! 私もカッとなってしまって、つい……」
「シルバードはあの程度ならやられはしない、一時的に動きが停止するだけだ。それにビビアンが相当改良していたことだし。まぁそれを知っていなかったから、無理はないけど」
「そうなんですか、それを聞いて安心しました」
「だが、ちゃんとこれからは忠告は守れってくれよ」
「はい、承知しました」
「皆ご苦労だった。それじゃ」
そう言いながら、エンリケは立ち去った。しかしセリナ達の心の中のモヤモヤは晴れない。
「いっちゃった」
「あぁ、ていうか。まさかセリナに先越されるとはねぇ」
「もうミリア、何悔しがってんの?」
「いや悔しがっているというか、なんというか」
「そもそもセリナ、もしかして放課後すぐにここに来たわけ?」
「いや、私が最初いたのはその、実は生徒会長に呼ばれてここに来たの?」
「生徒会長に呼ばれたって、どういうこと?」
「ほらあの人言ってたでしょ。許可証渡したこと思い出したって……」
「そうか、入学式初日に渡してたってことか?」
「その許可証を渡したのが1組のレイリスって女子生徒なんだけど、彼女が私に渡したでしょ?」
「そうだったわね、思い出した」
「でもそもそも彼女、何でマブーレの秘石なんか持ってたわけ?」
「それは彼女がマブーレ出身だからじゃない?」
「マブーレ出身だからなのはいいけど、そもそもそれをどうして学園に持ってきてるのかなって」
オルハがその言葉に疑問を呈した。
「……言われてみれば、確かにね」
「まぁ、そればかりは本人に聞いてみないと」
しかし疑問はそれで終わらなかった。今度はセリナがトールの話題に移す。
「さっきのエンリケ先輩の話も気になるよね、トールは大丈夫かな?」
「バーバラ先生の腕は確かだって言ってたじゃん、安心していいよ」
「そうじゃなくて、治った後の話よ」
「補習は大変かもしれないけれど、それは仕方ないでしょ。元はと言えば全部あの災魔のせいで……」
「そうよ、その災魔!」
「オルハ、どうしたの?」
「私達、肝心のことがわかってないわ」
「肝心のことって?」
「昨日も言ったでしょ。あの災魔、そもそもいつどこでトールに憑りついたの?」
「そういえば……」
4人とも沈黙する。だがすぐに答えを知っていそうな人物の名前が浮かんだ。
「そういえばロゼッタが言ってたよね、谷底がどうのこうのって……」
「谷底?」
ふとカティアの表情が曇る。
「カティア、何か知ってる?」
「え?いや、私は……」
「でもそれだったら、ロゼッタに聞いた方が早いよね。彼女どこにいるのかな?」
「私、知ってるわ。彼女の居所なら……」
4人ともオルハが口にした場所へ向かった。
第45話ご覧いただきありがとうございます。文字数が膨大になるため、また中途半端な区切りになりました。因みにまた次回も新キャラが出ます。
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