第44話 モニカ再び
もちろんセリナは謝った。そして普段ならぶつかった女子生徒を気遣うことをするが、今のセリナの心理状況がそうさせず、そのまま階段を上ろうとした。
「待ちな……」
ボソッと背後から恐ろしい声が聞こえ、セリナは立ち止まる。聞いた瞬間、嫌な予感しかしなかった。なぜならその声は聞き覚えがあったからだ。
(え、もしかして?)
その直後、セリナの左前方の壁に何かが衝突した。その衝突した箇所から焦げ臭い煙が立ち込める。セリナもぶつかった女子生徒が誰か判明した、最も会いたくない人物だった。
「……お前、あの時の?」
「も、モニカ……先輩?」
お互いに顔と名前が一致した。モニカは不機嫌そうな表情を喜々と変えた。
「こんなところで会うだなんてねぇ、偶然てのは怖いよ……」
その直後、全身を燃え盛る炎で覆った。セリナも彼女が何をしたいのかすぐに察した。
(そんな……まさかこんなところで?)
「この前の借り返してやるよ! 今日まで風紀委員長代理もいねぇからな。思う存分相手できるよ!」
「ちょっと待ってください! 今あなたと戦っている暇なんかないんです!」
「自分からぶつかっておいて、何をいうか!」
「だから謝ってるじゃないですか!?」
「うるさい! 今日のあたしは特に機嫌が悪いんだよ!」
「ただの腹いせじゃないですか!」
彼女の短気に呆れ返る。正直何を言っても無駄なのはセリナもわかっていた。こうなったらと、セリナも潔く魔導筆を構える。
「どうなっても、知りませんよ?」
「もう筆の使い方は学んだようだね。感心だ、いつでも攻撃して来いよ」
モニカは余裕満々の表情だ。真紅のエースとしてのプライドなのか、筆も構えていない。セリナが攻撃するのをじっと待っているようだ。
だがそんな状況を黙って見過ごせないのは、セリナだけではなかった。シルバードが二人の間に割り込んで注意した。
「生徒寮内での無許可での戦闘行為は禁止です。速やかに筆を下ろしなさい!」
「報告するんなら、さっさとしろよ。邪魔するんなら、マジで容赦しねぇよ?」
モニカは脅迫の意を込めて反論する。シルバードはそれでも警告を止めない。
「それ以上戦闘行為を続けた場合、風紀委員長直々に……」
「しつこいんだよ!」
直後モニカがシルバードに対して火球を放った。目にも止まらぬ速さだっただけに、セリナも何が起こったのか一瞬わからなかったが、煙とともに地面に倒れ込んだシルバードを見て怒りがこみ上げた。
「な、なんてことするんですか!?」
「死にはしないよ。そいつ風紀委員のアシスタントだから、意外とタフでね」
「そういう問題じゃないでしょ!!」
あまりの剣幕にさすがのモニカもたじろいだ。セリナはそんなモニカの様子など気にもせず、怒りに身を任せ魔導筆に渾身の魔力を集中させた。その魔力の鼓動をモニカは犇々と感じた。
(なんだコイツ、魔力デカすぎ!?)
「使いたくないけれど、仕方ありません……」
セリナが持った魔導筆の先端から、2つの巨大なスフィアが出現した。それを見たモニカは驚愕する。
「馬鹿な、ダブルスフィア!?」
「あなたが悪いんですからね……」
モニカも必死な形相で身構える。目の前にいた下級生をこれまで見下していたが、この時ばかりは自身の最大の敵という認識に変わった。
「ふ、ふふふ。なるほどね……」
モニカは不敵な笑みを浮かべた。内心は怯えもあったが、それを誤魔化すためでもあった。そしてセリナと同じく筆を構えた。
「やるねぇ、あんた。私に2回も本気出させるなんて、受け止めてやるよ。そのスフィア!!」
セリナの発動する術に対抗するべく、自身も魔力を集中させる。しかしすぐにモニカの予想外のことが起きた。
「な、なに!?」
モニカの目の前でセリナは宙に浮いた。その直後、2つのスフィアは合体し2つの色を縞模様に呈した巨大なスフィアへ変化した。
一瞬何が起きたかわからなかったモニカ、しかし彼女にもそれがどんな術か見当がついた。
(合成爆弾? まさか、この前のアレも……)
モニカは先日のセリナとの戦いを思い出した。確かにあの時も2つの水球が合体し、一つの巨大水球へ合体していた。
(あの時は単なるマグレだと思ってた。でも……違う……コイツは)
「今なら間に合います。おとなしく筆を下ろしてください!」
セリナが最後の警告と言わんばかりの態度を見せた。まだセリナの心の中に冷静さが残っていた。だがそんなセリナの良心は無駄だった。
「はっ! 私が降参すると思ったのかよ、撃てるものなら撃ってみろ!」
モニカも強気の姿勢を崩さない。その言葉通り筆の先端から、同じく巨大な火球を作り出し、応戦する構えだ。
(あたしだって真紅のエースだ。負けてたまるかよ!)
「そこまでよ!!」
突如別の女子生徒の声が聞こえた。セリナはその声の主が一瞬わからなかったが、考える間もなく何かがセリナの体に直撃し、地面に倒れ込んだ。
「え!?」
セリナの目の前にあった巨大なスフィアも消滅した。セリナの頭上には、さっき倒れていたシルバードが羽ばたいていた。
「セリナ、今朝生徒会室で約束したこと、もう忘れたの?」
シルバードから女子生徒の声が聞こえる。その声の主を当てたのはモニカだった。
「あんた……ビビアン先輩?」
「またあなたね、モニカ。何度注意されたら気が済むわけ? このシルバードを傷つけた代償払ってもらうわよ」
セリナは何が起きているのかが掴めない。なぜシルバードから風紀委員長の声が聞こえるのか、倒れて動けなくなったシルバードがなぜまた動き出せたのか。
「あ、あの……」
「セリナ、あれはどうしたの?」
「あれって……、あぁ、まだ部屋の中に!」
「ならすぐに取りに行きなさい。モニカとは私が話をつけるから」
「はい。でも……」
セリナはモニカの顔をまじまじと見つめた。モニカの強烈な眼光がまだ消えない。
「心配しないで、エンリケも隣にいるから。いざとなったら……」
「わかってるよ。さっさと行きな」
「それだけじゃ駄目でしょ? モニカわかってるよね」
そう質問されて、モニカは仕方なしに自身の筆を地面に投げ捨てた。
「これでいいか?」
「ありがとうございました、ビビアン先輩!」
セリナもなんとか安心してビビアンに謝意を示し、階段を上っていった。
「ったく……よりによって、自動修復と音声転送まであったとはね」
「当たり前でしょ。何度もあなたにやられるほど馬鹿じゃないわ。シルバードは進化するの」
「そのシルバードに対しての愛情を、自身の鍛錬に注いだらどうなのよ。風紀委員長?」
「何ですって?」
「知ってるよ、今ディアナ先輩がいないってこと。随分と出世したもんで、確か昨日と今日とで国王陛下の護衛の任に就いてるんだって? となると、風紀委員で今最も強いのはあんただから、さぞ威張れて気持ちいいんだろ?」
「……それ以上同じこと言うと」
「おい、ビビアン。堪えろ!」
ビビアンの声から嫌でも怒りの感情が伺える。隣にいたエンリケが思わず制止した。
「……とにかくモニカ、もうこれ以上騒ぎを起こさないように」
「はいはい、耳にタコができるほど聞いてるよ。それじゃあ……」
「ちょっと待ってくれ、モニカ!」
突然エンリケがモニカを呼び止めた。
「なんだい、今度は生徒会長からお説教かな?」
「いや、そうじゃない。実はモニカには別の大事な話があるんでね」
エンリケの意味深な言葉にモニカも立ち止まった。何度も生徒指導を受けていたモニカも、生徒会長からの大事な話と言うのはほぼ記憶がない。
「モニカ……君は【将軍の試練】を知ってるね?」
その言葉にモニカの目つきが変わった。当然の如く知っていた。そしてその後、モニカの耳に入ったのは、自身にとっても信じられないような内容だった。
「……なんだって!?」
「詳しくはオライオンに聞いてくれ。生徒会室に来てもらえれば、そこでオライオンが空間移動穴で案内してくれる。君の心の準備が出来ればの話だが……」
第44話ご覧いただきありがとうございます。次回はもしかしたら、凄く文字数が増えるかもしれません。
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