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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
43/59

第43話 トールの容態

 医務室に入るとガラスの筒に覆われたベッドの上で眠っていた。


「トール!?」


 セリナが思わず駆け寄る。そしてフリッツも間近に彼の容態を覗く。彼のことを部屋に入る前、バーバラから説明させてもらった。


「まさか、親王殿下までいらっしゃるとはね」


「一人の生徒が危機に瀕しているのに、部外者だからって見て見ぬふりできませんよ」


「おやまぁ、正義感が強いこと……」


「それで……彼の容態は?」


「容態自体は悪くないけれど、体の中に邪気イビルが残っていてね……」


「どういうことです?」


「トールの体から災魔が出てきたと説明したが、憑りつかれた期間が長すぎたせいか、その災魔のエネルギーの源である邪気が体の中に一部残されたんだ」


「そんな……ことが!?」


 フリッツも信じられない表情を浮かべる。しかしすぐに大事なことを質問した。


「いつまで持つんですか、彼の体?」


 その質問を聞いてセリナも不安を消せない。縁起でもないことを言わないでほしい、というのが本音だった。


「……もって10日」


 あまりの短さに2人とも絶望する。言葉も出なかった。だがエンリケの表情は曇らなかった。


「10日といったが、別に死ぬわけではない。体と精神全体が邪気に浸食され、災魔へ変化してしまうだけだ」


 エンリケの解説に今度は違う絶望感が漂う。まるで命に別状はないといわんばかりの説明だったが、問題なのはそこではない。


「災魔へ……変化するって……?」


「災魔が魔導士に憑依する目的がそれなんだ。長い間取り付き、精神だけでなく体までも蝕んでいく。去年も精鋭級が2体現れたが、いずれも生徒に憑依していた」


「やがて昨日現れた巨鴉ヒュージクロウのように、見た目も心も完全に災魔へ変化するわ」


 エンリケとバーバラの説明は、すぐには信じられなかった。2人とも初めて知る事実なだけに、どう受け止めればよいか困惑するしかない。


「そんな……じゃあトールは!?」


「セリナ、安心していい。トールは治るよ」


「ほ、本当ですか!?」


「一体何を根拠にそんなこと言えるんですか?」


 エンリケの言葉を素直に信じたセリナとは対照的にフリッツは懐疑的だった。


「もちろん治癒術などではないよ。体内の邪気を完全に取り除くには、ある秘薬が必要でね」


「その秘薬とは?」


「セリナ、君がその秘薬の原料を持っているはずだ」


「え? どういうことですか?」


「ふぅ、やっぱり説明しないとダメか」


 すると、そこへ女子生徒が2名入ってきた。


「あぁ、グッドタイミングだ。ビビアン」


 現れたのは風紀委員長のビビアンと、昨日の模擬戦でセリナと二回戦目で戦った1組の女子生徒だ。


「あなたは、確か……レイリス!?」


「私の名前覚えていてくれたのね、嬉しい」


「レイリス、もう一度聞くが間違いなく彼女に渡したんだな?」


「はい、間違いないです」


 エンリケがレイリスと勝手に会話を始める。セリナには何のことかわからなかった。


「セリナ、一昨日彼女から渡された物を覚えているか?」


「一昨日……って、入学式の日ですか?」


秘石パールって言ったらわかるよね?」


 その言葉を聞いてやっと思い出した。セリナの頭の中で全て合点がいった。


「あぁ……もしかして!?」



 女子の生徒寮の入口の扉が開いた。セリナが全速力で寮内へ入り込み、自分の部屋へ向かう。何ごとかと、寮内を巡回中だったシルバードがすぐ様セリナのあとを追った。


「生徒寮の廊下を走ってはいけません! 規則は守ってください」


「あぁ、ごめんなさい! けど急いでるの、見逃して!」


 言われなくともわかっていたが今はそれどころではない。セリナは急いで自分の部屋の扉の前に立ち、ドアノブを回そうとした。


 しかしドアノブは全く動かない。


「あぁ、鍵!!」


 まだカティア達は寮に戻っていなかったがために、誰も鍵を開けて中に入っていない。となると、最初に行くべき場所を間違えた。


(一階に戻らなきゃ、もうなんでこんなこと……)


 だがセリナは、一階の鍵管理室の前まで来たところで、重大なことに気づく。


「あ、シルバード……」


 最初からシルバードに頼めばよかったのだ。空を飛行する魔導生物の方が、セリナより速く移動できるのは確実。現に廊下を全速力で走っていたセリナにすぐに追いついたのだ。


「もう、何で私ってドジなの!」


 くよくよしてても仕方がない。もちろん慌てていても仕方がない。トールの残された期間を考えると、まだ10日も猶予はある。だがそれは表面上の数字だ。


 その後でバーバラから聞かれた「秘薬を生成するのに最低一週間かかります」という言葉から、実質残り3日ほどしか残されていないようなものだ。


 とにかく一刻も早く一人の生徒の危機を救いたい、心の中から不安な材料を払拭させたい、その強い一心が彼女の体を強く動かしていた。


 そして鍵管理室前に立っていた寮の使用人に自身の学生証を提示し、使用人が管理室内に入った。


 自分で探したかったが、そもそも鍵管理室内には生徒は入ってはいけない。防犯上仕方ないのだ。5分ほど経って、使用人が出てきた。セリナにはその5分が凄く長く感じたが、兎にも角にも自身の部屋番号が記載された鍵を受け取り、一安心した。


「ありがとうございます!」


「それにしても随分慌ただしいですね、何かあったんですか?」


「いえ、その。ごめんなさい……説明している暇ないんで!」


 セリナは適当に誤魔化し、その場から立ち去った。これで後は自室の鍵を開け、自分のベッドの棚の中に入ったマブーレの秘石パールを手に取り、医務室に戻ればいいだけだ。


 そのはずだった。


 しかしその彼女を邪魔する存在が、廊下を曲がった直後に現れた。無心で走っていたセリナは、曲がり角で一人の紅い色の制服を着た長身の女子生徒とぶつかった。


「あぁ、ごめんなさい!!」

第43話ご覧いただきありがとうございます。次回久しぶりにあのキャラが登場します。


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