第42話 風紀委員は第二の生徒会
突然後ろから男子生徒の声が聞こえた。その男子生徒が誰かすぐにセリナはわかった。
「ふ、フリッツ!?」
「奇遇だね、またこんなところで。どうだい調子の方は?」
フリッツは何事もなかったかのように、セリナの隣に座り平静に話しかける。
「あ、その。大丈夫よ、絶好調!」
しかしそのフリッツも、一連の騒動のことは耳に入っていたようだ。
「セリナ、昨日のことなんだけど……」
「え、昨日って……」
「君の授業じゃないのかい? 確か、何組かの模擬戦の授業で災魔が出てきたって聞いたんだけど、しかも将軍級だったいう噂もあるよ」
「え、えぇと……」
「僕も先生に質問したけど、何組か教えてくれなかったんだ。セリナ、昨日午後で模擬戦の授業してたんじゃ?」
セリナはどう答えようか迷った。フリッツが知らないことは不幸中の幸いだ。
「……実を言うと、それ私の授業」
「本当かい、それ!? まさかとは思ったけど!怪我はしなかった?」
「大丈夫よ、安心して。先生とほかに頼りになる首席生徒がたくさんいて、あっさり片付いちゃったから」
「そういえば、君のクラスってロゼッタがいたんだよね」
「彼女のこと知ってるの?」
「知ってるも何も、中学の時同じクラスだったよ」
「え、そうだったっけ!?」
セリナも思い出した。ロゼッタがアルテナ中等学校出身だったこと、そしてその中学校名はフリッツの母校と一緒だった。
「ごめんなさい、あなたもアルテナ出身だったわね」
「ロゼッタの防御術は凄いんだよね。僕も何度か戦ったことあるんだけど、一度も破ったことないんだ。それにフィガロ君もいるんだろ?」
「あ、そうね……」
王族出身であるフリッツは、それまでに何度かフィガロと会っていたことがある。
「あの二人が力を合わせれば、怖いものなしだよね」
実際はそうではなかった。それどころか、担任のアグネスですら苦戦を強いられた相手なのだ。フィガロとロゼッタの2人ですら、勝てるかどうかわからない。
セリナは苦笑いするしかなかった。
「もしかして……将軍級見たの?」
フリッツが恐る恐る質問した。
「……見たわ」
「本当かい? で、どんな感じだった?」
「巨鴉、っていえばわかるよね?」
フリッツは一瞬凍り付いた。彼もほかの生徒と同様、中学の授業で何度となく目にしたことのある名前と姿だ。
「信じられないな、本当に。まさか噂は本当だったのか……」
「噂って……?」
フリッツの意味深な言葉に思わずセリナも反応する。
「実はね、去年もあったらしいんだ、同じことが」
「同じことって……まさか!」
「そのまさかだ。宮廷の調査団の話だと、去年は精鋭級が2体出現したらしい。もちろん学園側は否定していたんだけどね。一般にも全く公開されてない」
「そうだったの……」
「魔導学園の閉鎖性は政府も目を光らせているよ。いくら国が誇る最高の育成機関とはいえ、財政面でこれ以上の負担を強いらされるわけにはいかないからね。去年なんか収賄疑惑があった教育庁の事務次官も免職されて……」
フリッツが難しい政治的な話をしているが、セリナはこの手の話が苦手だっただけに、適当に頷いた。
「あ、ごめん。変な話をしてしまって……」
「いや、別にいいのよ。気にしないで」
フリッツがやや身構えて真剣な表情になった。
「セリナ、この前僕がここで話したこと覚えてる?」
「その話って、確か」
「僕はどうしても風紀委員に入らなきゃいけない。でもその理由、ハッキリ言ってなかったね」
「そういえば……」
セリナも思い出した。実のところ自分自身も憧れの先輩と一緒に仕事ができるということで、風紀委員に入りたかった。そしてフリッツの口からもその言葉が出たことで、二重の喜びに老け、彼の動機など深く考えなかった。
「今回の件とも多分関わってくるんだ」
「え、それってどういうこと?」
フリッツの真剣な言葉にセリナも気にならざるを得ない。
「風紀委員に入れば、風紀委員長に会える。それだけじゃない」
「それだけじゃないって?」
「生徒会室にも入れる」
「そうなの?」
セリナも初めて知る事実だ。
「生徒会室に入れる生徒は決まりがあってね。教職員以外だと生徒会役員、風紀委員だけ。理由は単純で、風紀委員が第二の生徒会として位置づけられているからだ」
「第二の生徒会?」
「これは風紀委員の役割上仕方ないことなんだ。セリナも知ってると思うけど、風紀委員は実質学園内の治安維持委員会となっている。生徒の非行や暴動を取り締まることが主な仕事だから」
「それはそうね」
「で、実はこれと同じ仕事を生徒会も担っているんだ」
「え、そうだったの?」
「僕も宮廷の調査団から聞いたんだ。その人がここの卒業生でね。昔は風紀委員のサポート的な役割しかないから、生徒会は極力介入しない方針だったけど、『学園の治安維持は最優先課題と位置づける』という学園長の指示で、生徒会との協力体制を強化させたらしい」
フリッツの長い説明をセリナは感心しながら聞き入る。そして今の説明で、今朝生徒会室に呼ばれた時に、どうして風紀委員長までいたのかを理解した。
「だから風紀委員長があそこに……」
「え、今なんて?」
「あ、いや。なんでもないわ、それで……フリッツはその……風紀委員に入って」
セリナは慌てて本題に戻した。だがフリッツも申し訳なさそうな表情に変えた。
「……いや、ごめん。話しが長くなったね」
「そんなことないから! あなたがどうして風紀委員に入りたいか、私も知りたいの」
「……」
「フリッツ?」
フリッツは黙り込んだ。そして今までにないほどの真剣な表情に変え、セリナの目を見つめながら言った。
「セリナ、誰にも言わないって誓える?」
フリッツの真剣な表情と、思いもよらぬ言葉にセリナも戸惑う。だがセリナの心は折れなかった。
「……言わない。絶対に!」
これまでの人生で最も大切だと思っている人の前で、セリナは自信を持って答えた。
「わかった。そうまで言われたら、言うよ。実はね……」
その時だった。
「こんなところにいたのか、セリナ!」
突然背後から別の男子生徒の声が聞こえた。振り返ると、藍色の制服と胸に金色のバッジがすぐ目に入った。
「せ、生徒会長!?」
「セリナ、俺のことは会長とか呼ばないでくれ。先輩でいいよ」
「あ、失礼しました。エンリケ……先輩」
「あとは……そっちの君は……フリッツ君か?」
「ご無沙汰しております、エンリケ先輩」
「君も学園に馴染んできて何よりだ。それよりまさか超大物生徒が2人も揃っているとは、驚いた」
エンリケの予想外の御世辞に2人とも苦笑いする。セリナは内心喜んだ。
「それはそうと。エンリケ先輩こそ、こんな場所で奇遇ですね」
「いや奇遇ではないぞ」
「え、どういうことです?」
「実はセリナ、君を探していたんだ。大事な用でね」
セリナはエンリケの言葉にドキッとした。エンリケから今朝言われたことの約束はちゃんと守っていただけに、一体何を言われるのか想像がつかない。
「エンリケ先輩! そんな、私は……」
「どうしたんだセリナ、そんな大声出して?」
あまりのセリナの変わりぶりにフリッツも驚く。しかし、セリナのその心配は杞憂だった。
「安心しろ、セリナ。そのことじゃない」
「え?」
「君を探していたのは、トールの件でだ」
その言葉にセリナはハッとした。
「トール? 彼は、大丈夫なんですか!?」
「ごめん、セリナ。誰のことかな?」
「あぁ、そうか。えぇと、話せば長くなるんだけど……」
「俺から言おうか。フリッツ、君は何組だっけ?」
「7組です」
「となると、部外者ってことになるが……」
「なんのことです?」
「まぁ、いいだろう。話すより、これから彼女と医務室に来てもらった方が早い。それでもいいか?」
「構いませんよ。それでわかるなら」
その言葉に従いセリナ、エンリケ、そしてフリッツの3人は医務室へ向かった。
第42話ご覧いただきありがとうございます。次回は第8話の伏線が回収されます、あのパールには重大な意味がありました。
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