第39話 キメラ・ボム
巨鴉を倒したセリナの術の名前が遂に明らかに
ビビアンの発したその言葉に、思わずセリナも耳を疑った。
「え?」
自分の聞き違いではないかと思った、セリナはもう一度聞き返した。
「あの……今なんて?」
「何度も言わせないで。あなた、レベル10以上の攻撃術が使えるから、自分で倒そうとしたんでしょ?」
セリナには何のことかわからなかった。
「将軍級の災魔相手となると、レベル10以上の攻撃術を出さざるをえないからな」オライオンが小声で説明を加えた。「災魔の体内には核がある。そこに直撃すれば、戦闘不能どころか消滅してしまう」
しかしセリナは初めて知る事実だ。
「そうなんですか!?」
「まさか、使えないとでも言いたいの?」
ビビアンが凄まじい剣幕で反論する。さっきまでの優しい表情が嘘のように変わり、セリナを恐怖の対象として見ているようだ。
「じゃあ証拠を見せてあげるわ、パウロ先生!」
「わかった」
パウロがポケットから小型の円筒形の物体を取り出した。そしてその物体の先端を壁に押した。
「これを見てもらおうか」
パウロが筒で押した壁一面に、何やら校庭と複数の生徒が立っている映像が映し出された。
「これは!?」
「これは、録画映像だ。昨日起こった様子を、上空に避難していた審判鳥が記録していたのだ」
「模擬戦の試合の勝利判定の際にどうしても試合を録画する必要があるから。そのために審判鳥には小型の筒を入れて、試合を映像として記録させるわけ」
「ほっほっほ、これは素晴らしいのう。どれ、わしもじっくり見せてもらおうか」
その映像には確かにセリナとロゼッタの2人、そして倒れている生徒が数名、さらにその生徒らに囲まれるように巨鴉が映し出されていた。セリナも自分の姿を確認した。
そのセリナが魔導筆を構え、目を瞑り魔導筆に魔力を集中させていた。そしてその様子をセリナは信じられない様子で眺めた。
「わ、私の体が!?」
浮いていたのだ。確かにあの時自分でも浮いているような感覚に見舞われたセリナだったが、まさか本当に浮いているとは思わなかった。そしてその後に発動したセリナの術に、部屋中が騒めいた。
「これは!?」
「まさか!?」
「嘘……だろ!?」
魔導筆の先端から2つの色を呈したスフィアが同時に出現した。そのスフィアがすぐ様合体し、一つの巨大なスフィアへ変化したかと思うと、直後目にも止まらぬ速さで直進し、巨鴉の胴体に直撃し爆発した。巨鴉は体中から紫色の液体を大量に吹き出し、昨日セリナが聞いたのと全く同じ唸り声を響かせ、地面に倒れ込んだ。
「……」
一同言葉が出なかった。その一部始終を改めて見て、セリナがどんな術を放ったのか、なぜ巨鴉がいとも簡単に倒されたのか、嫌でも理解した。ただその中でもアグネスだけは違った。まるでこうなることを予測していたかのような顔だ。
「ふぅむ興味深い、実に興味深い」
「イヴァン先生、彼女は……」
「ほぼ間違いなく、合成爆弾じゃの」
「え!?」
またもセリナが知らない言葉が出てきた。セリナは戸惑うしかなかったが、その言葉を聞いてビビアンとエンリケ、そしてオライオンですら信じられないような表情を浮かべる。
「やっぱり……間違いないんですね」
「わしの目に曇りがなければの。将軍級の巨鴉をいとも簡単に戦闘不能にさせるのは、それ以外に考えにくい。体が宙に浮いているのもその証拠……」
「あ、あの……」
セリナが恐る恐る質問しようとした。だがその質問の意図を察したのか、今度はパウロが代わりに説明した。
「合成爆弾とは、文字通り複数の属性で発動したスフィアが合成されたスフィア攻撃術だ。それ自体が最早一つの術なのだが、複数の属性で合成されたことで、規格外の威力を誇るようになる。正確にはスフィアと表現すべきだが、威力が桁違いなので爆弾と呼んでいるだけだ」
「セリナ、君が扱える属性術は?」
「主に……火です。あと水と風、そして土術も特訓中です」
「既に四属性扱えるのか、因みに得意術は?」
「得意術は……」
「恐らく、わからないんじゃろ?」
イヴァンがセリナの言葉を言い当てた。やはり研究所所長とだけあって、セリナの術には人一倍詳しい見識がある。
「わからないって、どういうことですか?」
「稀にいるんじゃよ。小学校に入りたての頃、水晶に触れる検査があるじゃろ。そこで本来なら得意術が何か、自分と相性がよい属性は何かがわかるはずじゃ。そしてその得意術をベースに鍛錬を積んでいくのが、多くの魔導士にとって大魔導士になるための近道となる。しかし彼女のように、属性術どころか得意術すらわからない子も稀に出てくる」
「……」
「本来そういう子のタイプは2つに分かれる。一つはそもそも魔術への適性がないか、あるいは水晶でも判断できない未知の何かを秘めているか……」
「未知の何か……ですか」
「君は大賢者ライザの末裔じゃったの。となると、やはり後者か?」
「その未知の何かとは……まさか……」
するとビビアンが突如アグネスに詰め寄った。
「アグネス先生は知ってたんですね、彼女が合成爆弾出せることを!」
ビビアンの詰問に一同注目する。もちろん彼女には根拠があった。
「とぼけても駄目ですよ。実は昨日、校舎内全体の攻撃レベルを測定する精密測定班から報告があって、それによると午前中に二回ほど攻撃レベル9.5を記録したそうです」
「なんだって!?」
ビビアンの言葉にエンリケも驚く。そしてセリナも半分しか理解できなかったが、攻撃レベルの高さには思わず反応した。
「昨日の午前中は、下級生以外の中級生と上級生は座学の試験中でした。欠席した生徒はゼロだから、攻撃術など放たれるわけがありません」
「じゃあ、その9.5というのは……」
「それは決まってるでしょ!」
ビビアンはセリナを指差した。その言葉にセリナは心当たりがあった。
(確か魔導筆の実践授業で、2つのスフィアが出て、その後ホーク達の前でも披露したんだっけ……)
「イヴァン先生、合成爆弾の最低攻撃レベルは……」
「10じゃよ。じゃが、単にスフィアが合成されただけで不発に終わってしまえば、それを下回ることもあるが、それでも9.5までいくとはの」
「信じられんな、一体今までどんな修業していたというんだ?」
オライオンのその言葉にはセリナへの賞賛する気持ちが込められていた。セリナはどう返事をすればいいか迷ったが、ここで重要な事実に気づいた。
「あの、先生。もしかして昨日……」
セリナはおもむろに魔導筆を取り出した。一瞬だがビビアンとエンリケも動揺を隠せない。
「おいおい、ここで出すなよ!」
「ち、違います!アグネス先生、一つ聞いていいですか?」
「何ですか?」
「昨日私の模擬戦の最中ずっと変な虫が取り付いてたんですが、もしかしてそれは……」
「遮断虫じゃの。魔導生物の一種じゃ、魔導筆に取り付いて術の発動を妨害することができる」
「そんな、ってことは……」
セリナの予想は当たっていた。イヴァンの言葉で確信を得た。やはりアグネスは気づいていたのだ。
「模擬戦は対人戦です。合成爆弾は攻撃レベル10は下らないから、もし発動していたら……」
ビビアンがアグネスの代わりに説明した。そしてセリナはその言葉を聞いてゾッとした。
「攻撃レベル10以上がどれほど恐ろしい術か、どうして校舎内で放ってはいけないか、これで理解できたろ?」
それは将軍級の災魔が一撃で戦闘不能になったことからも明らかだ。
「どうして……黙ってたんですか?」
今度はセリナがアグネスに詰め寄った。アグネスはその質問を予期していたのか、すぐに答えた。
「簡単よ、魔導筆は昨日も説明したけど、使用者の得意術以外は発動できない。それに……」
アグネスは少し間をとった。
「あなたの実力を計っておきたかったの、正確にね」
「どういうことですか?」
「模擬戦であなたの戦いぶりを2回ほど見たわ」
「それで何かわかったのかの?」
「一回戦目は相手が非力な生徒だからあまり参考にならなかった。だけど二回戦目で確信したわ」
「確信って、何を?」
「セリナ、あなた二回戦目で相手に勝利を決定させた術覚えてる?」
その質問でセリナは昨日の二回戦目を振り返る。
第39話ご覧いただきありがとうございます。次回も解説パートですが、最後にセリナに謎の使命が言い渡されます。
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