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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
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第38話 生徒会室の面談

アズミアン王国歴1018年4月9日


 東校舎の2階、10組の生徒らが教室内に座っていた。既に1限目の『魔導生物学』の授業が始まろうとしていた。昨日起きた出来事が忘れられない生徒は、未だにその話題で持ちきりだ。


 カティアとミリア、オルハの三人が隣り合って座っていた。彼女ら三人は、そこにいない一人の女子生徒の話題で持ちきりだ。


「まさか、セリナが呼び出しくらうとはね……」


「まぁ、仕方ないでしょ。昨日が昨日だもん、いろいろ事情知りたい連中はたくさんいるだろうし……」


「でもそれなら私達が呼ばれてもおかしくなくない?」


「確かにあの現場にいたのってセリナだけじゃないよね」


「なんならフィガロとロゼッタもいたよ」


 カティアが口にした二人の生徒も、やはり今この教室内にいる。二人とも昨日のことなど、何事もなかったかのような表情だ。


「どうしてセリナだけなんだろう?」


 するとその考えを遮るかのように、慌てて誰かが教室内に入ってきた。


「はぁ、はぁ、間に合った!!」


「ギリギリセーフ!!」


「げっ、あの二人!?」


「すっかり忘れてたわ……」


 後5分で1限目の授業が始まるところだった。ホークとザックスの2人がなんとか間に合ったのだ。そしてカティア達の近くの空いている席に腰を掛けた。


「ったく、ザックスには呆れるぜ」


「何言ってんだ。ったく昨日変な時間に眠らされたせいで……」


「あなた昨日眠れたの?」


「そもそも、あの後何時に起きたの?」


 カティアとミリアも、ザックスが寝坊したことは察した。


「昨日は結局あれからニ時間も眠らされてよ。そして目が覚めたらとっくに授業終わってて、寮の中だから意味不明で。それから適当に過ごしたけど、昼間に熟睡したから、夜全然寝れなくてよ」


「それで、こいつ寝たのが深夜の2時くらいだぜ。消灯時間過ぎてたこともあって、出入りも出来ねぇから部屋ん中でずっとカードバトルしてた」


「カードバトルって、あんたらね」


 カティアが呆れたような目で見つめる。


「しょうがねぇだろ。あんな眠らされたら、夜眠れるわけがねぇ。あの野郎……」


 ザックスは昨日の模擬戦でのブラッドとの戦いを振り返る。


「まぁ、ブラッドに攻撃当てられただけでも凄いじゃん」


身体強化エンハンスなら重力グラビティの凄まじい圧を喰らっても脱出はできなくないけど、それにしても凄いと思う」


 オルハがザックスを褒めた。しかしそれでもザックスは勝てなかった。


「そこまでは俺も想定はできていたよ。でも一発では倒れなかったんだな、これが」


 ザックスが悔しそうに語る。自分の戦い方なら、一撃でノックダウンできたと言わんばかりの様子だ。


「あいつも防御術張ってやがったんだ。そして起き上がった後、偉そうに俺を挑発して、わざと間近で攻撃させるよう仕向けたんだよ」


「完全にブラッドの術中にはまったわけね」


「しかも近づいた途端、『脳の強化はしなくていいのか?』とか言いつつ睡眠スリープかけやがった、マジで腹立つぜ」


 その言葉を聞きながら、ミリアの笑いが止まらない。


「笑うんじゃねぇ!!」


 その時教室のドアが開き、一人の褐色肌の女性教師が入ってきた。教壇の上に立ち、自己紹介と用意する教科書、授業の流れを簡単に説明した。そしてその女性教師の口から、2名の生徒の名前が出た。


「セリナ・フォード・オコーネル、そしてトール・メルケル・ダンカ、この2名が欠席ですね」


 カティア達も目を合わせた。セリナの名前はいいとしても、トールの名前を聞いて動揺を隠せない。


「そういえば、彼どうなったんだろう?」


「噂では、医務室で集中治癒が行われてるそうよ。なんでもまだ邪気イビルが残っているらしくて……」


「そこ、私語は謹みなさい!」


 しかし女性教師は、何も説明しないのは無理があると悟ったのか、大事なことを説明し始めた。


「まずセリナですが、彼女は生徒会室にいます。恐らく2限目の授業からは合流できるでしょう。そしてトールについては、現在医務室で集中治癒の最中です。トールがどうしてそうなったのか、昨日のことについてはもう説明する必要はありませんね」


 そこまでの説明を受けてざわつく生徒も出だした。眠っていただけのザックスは、いまだに信じられない表情を浮かべる。しかし教師の説明はここまでだった。


「私からの説明は以上です。トールの体の具合等は心配ありませんから、わざわざ見舞いに行かずとも大丈夫です。では授業を始めます」


 授業が始まった。なぜか一人だけ生徒会室に呼ばれたセリナ、そして心配はないと告げられたトールの体が本当に大丈夫なのか、気がかりな点が多すぎて、カティア達にとっては集中できないのが本音だった。



 1限目開始の鐘が鳴り響いたちょうどその頃、セリナは生徒会室の中にいた。大勢の魔導士の視線の的となり極度に緊張した。セリナは藍色の制服を着た長身で黒髪の男性と握手を交わした。セリナも一度ならず二度見たその凛々しい姿は、何を隠そう魔導学園エルグランドの生徒会長だ。


「よく来てくれたな、セリナ。生徒会長のエンリケ・レム・ビルセイアだ。」


「よ、よろしく……お願いします。セリナ・フォード・オコーネルです。」


 初めて生徒会長と面会し緊張が隠せないのか、震えながら握手を交わす。


「緊張しなくていい。と、言いたいところだが、これだけの人数の前では、少し無理があるかもな」


 そう言いながらエンリケは、だだっ広い生徒会室をセリナと一緒に見回した。


 セリナが知っている人物は担任のアグネス、『王国史』の教鞭をとったパウロ、そして昨日会ったが名前は覚えていない白髪の男性だけだ。


 まずエンリケと同じく藍色の制服を着て、胸に銀色のバッジをつけた銀髪のショートヘアの女子生徒がセリナに近づき自己紹介した。


「初めましてセリナ。風紀委員長のビビアン・ロマーニ・ラファエラよ。確か一昨日は、代理のディアナと会ったのよね?」


「はい。その……助けていただいて……大変感謝しております」


「生徒の非行を取り締まるのが仕事だからね。当然のことをしたまでよ」


 さらにもう一人、セリナが知らない人物が椅子から立ってゆっくりと近づいた。その人物は顎から長く白い髭を伸ばし、濃い緑色のローブを着た老人でパウロと同じく顔に魔導鏡レンズをかけていた。老人はセリナの顔と体をまじまじと見つめ、興味深そうな表情を隠せない。


「ふむふむ、これはこれは」


「あ、あの……」


 セリナも動揺を隠せない。だがこれは老人の悪い癖だった。


「おうすまんすまん、つい眺めてしまって。例の術が使える下級生が現れたと聞いての、このわしの好奇心が暴れ出したわい」


「イヴァン所長、まだ彼女には……」


「おうそうか。まだ話してなかったのだな」


 そそっかしい性格なのか、老人は危うく重要なことを口走りそうになった。といってもセリナには何のことだかわからない。


「して、自己紹介がまだだったの。わしの名はイヴァン・カーディフ・スタローン、王立魔導図書館の研究所所長じゃ」


「研究所所長ですか!?」


「あぁ、いやちょっと語弊だったの。正確には魔導学園ここの非常勤講師もしておる。おぬしらの授業にもいずれ担当が回ってくるわい」


「そ、そうなんですか?」


「カリキュラムにイヴァン先生の名前が入ってるはずよ」


「あ、そうでしたね……」


 セリナはまたも自分の不精ぶりを明らかにしてしまった。だがそんなことを気にしている空気ではない。イヴァンの隣にいた、いかにも不愛想でそっけない態度を隠せない長い白髪の男性が、腕組みしながら壁際に立ち怖い表情で見つめた。セリナは思わず鳥肌が立った。


「ほれほれ全くお主は、初対面の女子生徒に見せる態度じゃなかろう」


「……オライオンだ。因みに初対面じゃない」


 イヴァンの注意にも耳を傾けず、オライオンは静かに自己紹介した。フルネームを言わずファーストネームだけ言った。もちろん彼の言う通り、セリナは昨日校庭で既に会っていた。


「あの、昨日はどうもありがとうございました」


「……」


 セリナは少し気が引けつつも御礼した。だが一切返事しない彼の態度を見て、さすがのイヴァンも呆れる。


「やれやれおぬしも相変わらずじゃのう。地下室に長く籠りすぎて心の中も真っ暗になるぞ」


「黙れ」


「セリナ、あの人は地下校舎の番人だ」


「ち、地下校舎!?番人!?」


 エンリケが代わりに説明してくれたが、セリナが知らない単語が2つも出てきて混乱するばかりだ。


「まぁ、いずれお世話になるよ。それより……」


 主要な人物の自己紹介が終わったのを機に、エンリケは話題を切り替えた。


「セリナ、本題に入ってもいいか?」


「は、はい!」


 エンリケが先ほどとは打って変わって、真剣な表情で説明を始める。


「まず、君をこの部屋に呼んだのはほかでもない。昨日の模擬戦の授業の件についてだ。我々も後から知ったが、その授業の最中、トールという男子生徒の身から将軍級の巨鴉ヒュージクロウが現れた。ここまではいいな?」


「はい」


「で、問題なのはここからだ。知っての通り災魔には、強さに応じた等級が設定されている。最も弱いとされているのが雑兵級、このレベルは魔術の基礎を心得た子供でも十分相手にできるレベルだ。体格もそこまで大きくなく、そもそも術を放つような奴すらいない。普通の動物の犬や猫と大して変わらないといってもいい」


 ここで説明する人物が風紀委員長のビビアンに代わった。


「次に強いのが兵士級。中学生の授業の時に、対戦したこともあるでしょうけど、体格も雑兵級より一回り大きくなって、強力な術や攻撃を繰り出すようになるわ。だけど中学生レベルなら十分相手できるレベルよ。もっとも、ちゃんと精進していればの話だけど」


 そしてまたも説明する人物が入れ替わる、3人目はイヴァンだ。


「その次に強いのが精鋭級じゃの。龍がその代表格だが、中学生相手だと恐ろしい相手となる、勝てるかどうかわからんから素直に逃げた方がいい。まぁ魔導学園に入学できるほどの実力があれば、精鋭級でもそこまで怖くはないがの」


 再びエンリケの説明の番となった。


「……そして将軍級は、その上の強さだ。もはや精鋭級とは天と地ほどの差があるといってもいい」


 エンリケの口調と表情から恐ろしさが嫌というほど伝わってくる。


「昨日現れた巨鴉がまさに将軍級だ。中学の授業でも見たことはあるだろう。もっとも実際に目にしたのは、本の中だけだろうが……」


「その下の精鋭級ですら、勝てるかどうかわからない相手よ。その上の将軍級となったら、これは下級生が相手できるレベルじゃない……」


 セリナはその説明を黙って聞いていた。そんなことは言われなくともわかっていた。実際昨日も、巨鴉が目の前に現れた時は震えて最初は動けなかった。心の中は恐怖で凍り付いていた。


「あの、私は……」


「ほっほっほ。心配せんでもよい、セリナとやら」


「え?」


「お主の気持ちは十分わかるぞよ。肝心の担任が負傷して動けなくなったとなれば、そりゃ自分達がどうこうするしかない。ましてやあの現場には逃げ遅れた生徒もいたのだろう。となれば尚更じゃ」


 イヴァンはアグネスに視線を配りながら話した。アグネスは思わず目を反らした。その言い分には一理あったのか、誰も反論しなかった。


 セリナもさすがに言葉が出なかった。


「セリナ、君の勇気ある行動はさすがとしか言いようがない。将軍級など上級生でも勝てるかどうかわからない相手だからね」


「本当、あなたって人は……」


 セリナも心が震えた。自分は明らかに褒め称えられている、実力が劣るのに。セリナは思わず、頭を下げた。部屋に入った時は、怒られることは覚悟していたが、それは杞憂だと悟り、深々と感謝の意を伝えた。


「ありがとうございます!こんな不出来な私の不甲斐ない行為を褒めていただいて、身に余る光栄です!」


 だが、セリナの行動を非難しなかったのは別の理由があった。


「レベル10以上の攻撃術が使えるから、よね?」

第38話ご覧いただきありがとうございます。今回は怒涛の解説パートになって文字数もかなり増えました。次回もけっこう解説が多いです。


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