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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
36/59

第36話 巨鴉を倒したのは誰

2021年11月28日編集

縛り(タイドアップ)の部分のルビがうまく出来ていなかったので訂正します。

魔力拘束具タイドアップとします

 医務室の入口の前に2人の女性教師が立っていた。アグネスとソニア、2人が窓越しに室内を覗いていた。


 彼女らの視線の先には、ベッドに横たわっていたトールの姿があった。そのトールは何やら、巨大なガラスの筒に包まれ、その周りには複数の白衣を着た魔導士の姿があった。そしてバーバラが真剣な表情でトールを見つめていた。


「去年は精鋭級2体も出てきたけど、モニカっていう優等生がいたから難なく片付いちゃったのよね」


「今年も精鋭級だったら生徒達に相手させようと思ったんだけど、まさかの将軍級とはね。生徒会長も真っ青な表情してたわ」


「ロゼッタも随分物知りよね、確か王立図書館に長い間通ってたんでしょ?」


 アグネスとソニアの会話は、部屋から疲れた表情で出てきたバーバラによって遮られた。


「お疲れ様、どうだった?」


「体調の方は問題ないわ、順調に回復してる。ただ……」


邪気イビルよね、問題は」


解邪気薬ディスペルシード5錠ほど投与したけど、効果なしね」


「もしかして、なかったの?」


「そういうわけじゃないわ、というかもっと面倒……」


 バーバラは深刻な表情を浮かべた。アグネスとソニアも嫌な予感がした。


「詳細な検査結果はまだだけど、今のところの暫定は……」


 バーバラは言葉にせず、筆で残っていた邪気の量を数字で書いて2人に示した。アグネスとソニアもその数字の大きさに驚く。


「9万って、そんなに!?」


「嘘でしょ、もしかして彼……」


「だいぶ長い間憑かれてたのね、恐らく数か月くらい」


「アグネス、何か心当たりあるんじゃない?」


 アグネスはしばらく間を置いた。そして入学試験成績表を見ながら答えた。


「彼の中学時代の成績表も見たけど、とても試験を突破できるとは思えない」


「ってことは、その時から?」


「確かに、入学試験は筆とか使わないからね、素の実力を測るために。だけど……」


 ソニアはここで自身の魔導筆を手に取った。「この魔導筆のおかげで、憑りつこうともそれを暴けるわ。そのための装置なんだから……」


「本来、それは午前中の授業でわかるはずだけど……」


「ごめんなさい、私のせいよ」


「その頃から彼の体調悪かったの?」


「ただの体調不良だと思ったから、だけどまさか憑依だったなんて……」


「過ぎたことはしょうがなわいわ。今はそんなことより……」


 バーバラは最優先で解決すべき問題を再認識させた。


「どうやって、邪気を完全除去するか、でしょ?」


「正直これだけの量だと、解邪気薬100錠くらい投与しないと」


「ちょっと待って並の魔導士が、そんなに投与されたら……」


「……」


 バーバラは黙っていた。トールの邪気を除去しようにも、それは彼の体力とも相談しなければいけない。


「でも、ほかに方法があるでしょ?」


「もしかして……」


 バーバラもほかの選択肢の存在は知っていた。


「マブーレの秘石パールね」


「今在庫は……?」


「ないわ。仮にあってもそこから秘薬を精製するのに一週間かかる」


「そこまで彼の体もつ?」


「わからないけど、取り敢えず手配はしてみるわ」


「一刻を争うってことね……」


「それより、アグネスがまさか大怪我負うだなんてねぇ……」


 バーバラがアグネスを蔑んだような目で見た。


「しょうがないじゃないの、将軍級相手に魔力拘束具タイドアップつけてたらね。結果的に封印できたからいいでしょ?」


「そんなことより、どうしてレベル10以上も出したの?」


 バーバラのその質問にソニア、そしてアグネスが思わず目を合わせた。


「今……なんて?」


「攻撃レベル10よ、簡易型レベル測定器見てないの?」


 そう言いながらバーバラは左手から、小型の機械装置を取り出した。その機械装置は円形の時計のようになっており、中心から長い針が複数本出ていた。その針の内の一本が10.2の数値の部分で止まっていた。それを見たソニアとアグネスは目を疑った。


「因みに、精密測定班の報告でも10.3は記録してたわ」


「どういうこと……?」


「だから、それを聞きたいのはこっちよ。レベル10以上で攻撃したら、どうなるか知ってるでしょ?核に直撃でもしたら……」


 ソニアが黙ってアグネスを向いた。彼女が何らかの真相を知っていると察知したが、アグネスは思わず目を反らした。


「アグネス、どういうことか説明してくれる?」


「……」


 アグネスは黙っていた。バーバラとソニアも不審感が拭えない。


「あなたじゃないの、もしかして?」


 やはりアグネスは黙っていた。そしてソニアも、バーバラと同様ポケットに入れていた小型の測定器を出した。その数字はやはり同じ値を示していた。


「巨鴉を倒した張本人、じっくり面談しないとね」



 セリナ達は教室で一段落ついていた。魔導学園エルグランド一日目の授業の時間は終わりを迎えようとしている。


 恐怖と混乱に満ちた災魔との戦いが今では嘘のように、教室はのどかだった。理由は大多数の生徒が既に校舎内にいたこと、あの惨劇を目の当たりに体験した生徒は数少ない。そして負傷者も少なかった。


 アグネスが10分間の休憩を与えていたことが幸いしたのだ。もちろんそれはただの偶然、本来ならもっと多くの生徒が被害にあってもおかしくない。


 セリナ達と同様、あの惨劇を目の当たりにした生徒は恐怖に満ちた様子で、周りの生徒らに一部始終を語っていた。そしてセリナ達も一人の男子生徒に同じ話をしていた。その男子生徒はセリナ達が教室に戻る途中で合流したが、まるで何事もなかったかのような表情で「何かあったの?」と聞いて、思わず面食らった。


 彼は休憩の最中、熟睡していた男子生徒を校舎内まで運んでいた。だが戻る際、彼の腹具合が悪化し、トイレにずっと籠りっきりになっていた。


「全くホークの奴にはあきれるわね……」


「本当にトイレの中にいても気づかなかったの?」


「仕方ねぇだろ、あそこのトイレ確か座学用の自習室と隣接してて……」


「そうか、自習室って防音サイレントの結界張られてるんだっけ」


「それが隣まで広がってたんだ。おかげで外で何が起きていたのかまるでわからねぇ」


「私達が死にかけていたっていうのに……」


「死にかけていたって言われてもなぁ。将軍級ってそんなにヤバい奴……?」


 ホークのその言葉に一同強烈な睨みを返す。明らかに空気が読めない発言だったのを、ホークも悟った。


「ご、ごめん。そうだよね、俺も力になっていたら……」


「まぁ、あんたがいても戦力にならないから……」


「はぁ、そこまで言うことないだろ。俺だって災魔倒したことあんだぜ!」


「何級よ?」


「へ、兵士級……」


 その言葉にセリナ達は愕然とした。


「兵士級って、あんたマジで言ってんの?」


「け、けっこう強かったぜ……」


「兵士級の上が将軍級、じゃないからね」


「兵士級の上は……精鋭級だろ?」


「その精鋭級と将軍級じゃ天と地ほどの差があるのよ、中学で履修済みでしょ」


 その言葉にホークも絶句した。自分がいかに頓珍漢な発言をしたかを思い知った。


「す、すまねぇ。俺馬鹿で……」


「べ、別に気にしなくていいから。それよりホーク、ザックスはどうしたの?」


「あいつならまだ熟睡中だよ」


「うわ、まだ寝てんの?」


「さっきロゼッタに聞いたら、後1時間は起きないって言われたよ。まぁ、筋力馬鹿だから仕方ねぇ」


「筋力馬鹿って……」


「そのロゼッタも熟睡中だけど……」


 ロゼッタがセリナ達の席の隣で、机に畳んだタオルを置いて枕代わりにし、熟睡していた。セリナはどうして彼女が熟睡していたか嫌というほどわかった。


「彼女、さっきの戦いで大活躍したから……」


「消費の激しい魔盾シールド連発したら、そうなるよ。仕方ないわ」


「正直、いろいろと聞きたかったけど……」


「ロゼッタって何か知ってんの?」


「彼女、憑依ポゼッションについても知ってたわ。トールから巨鴉が出てきた時も、それほど動じなかった」


「まぁ、元々人形みたいな顔しているから」


「オルハですら、知らないのよね?」


「憑依っていう単語は初めて聞くわ、だけど……」


「だけど……何?」

第36話ご覧いただきありがとうございます。簡易型レベル測定器は、1日で魔術の攻撃レベルを最大50回測定できる装置です。1日経つと全ての針が元の位置に戻されます。


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