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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
34/59

第34話 炸裂!巨大スフィア

 思えば、目の前にいる災魔はどこから登場したのか。遡ればそれは、トールという一人の男子生徒の体から出てきた。つまり、今ここで巨鴉を倒してしまうと、彼はどうなるのか?


(トールが……死ぬ?)


 さっきから腕を交差させ、じっとして動かなかった巨鴉、その巨体がついに動き出した。なんとさっきまで体を覆っていた翼が見る見るうちに、羽が削ぎ落され、全身が露わになってきた。


「行けるぞ、これなら!!」


「攻撃緩めないで!!」


「セリナ、何やってんの?攻撃して!!」


 しかし巨鴉の様子が変わった。顔の前で両手を交差させていた体勢から、すぐさま両腕を腰のあたりまで降ろし、気を溜め始めた。


「何しようとしてるの!?」


「まさか、あれは!?」


 オルハが何かに気づいた。しかし遅かった。


「え!?」


 直後周囲にいたフィガロ、カティア、ミリア、オルハ、そしてセリナまでが何かで弾き飛ばされた。一瞬何が起こったのか、まるでわからなかったが、それでもセリナは全身を地面に叩きつけられた痛みをなんとかこらえ、今の攻撃術を推測した。


(い、今のは……衝撃波サージ!?)


 ミリアとカティア、オルハ、フィガロは接近していたためか、衝撃波をまともに喰らい、未だ立ち上がれずにいた。セリナだけ離れていたこともありなんとか立ち上がったが、それでもダメージは大きかった。近くにあった木ですら薙ぎ倒され、その威力の高さを物語っていた。


(これじゃまともに近づけない、どうすれば……)


 そんなセリナの思考など考慮することもなく、巨鴉は再び気合を溜め始めた。そして今度は、唯一立ち上がっていたセリナ目掛けて衝撃波を放った。


「うっ!?」


 だがその衝撃波がセリナには届かなかった。防御術をかける暇もなかったが、目の前にはいつの間にかロゼッタが立っていた。


「あなた、いつの間に!?」


 ロゼッタの魔盾シールドによって衝撃波は防がれたものの、それならばと今度は腕を再び伸ばし、叩きつける攻撃をした。その攻撃すら魔盾で防いだが、本来今守るべき対象は自分ではないと悟ったセリナはロゼッタに注意した。


「ロゼッタ、私のことはいいからみんなを!」


「あなたを守らなくちゃ駄目なの!」


「え!?」


 彼女の言っていることが理解できない。だがその答えをすぐロゼッタは口に出した。


「あなたなら、奴を倒せるわ!」


「どういうこと!?」


「説明は後!早く1限目で出した、あの術を放って!」


 人形のようにおとなしかったロゼッタが嘘のように、熱の入った言葉でセリナを説き伏せる。そのあまりの迫力に圧倒されたセリナだったが、それでもセリナが攻撃を躊躇う理由があった。


「あなたも知ってるでしょ、あの災魔の正体は……」


トールのことは心配ないわ!」


「そんなことどうして言い切れるの!?」


「だから、説明してる暇はない!早くあの術で攻撃……」


 その時、巨鴉の腕による叩きつける攻撃が再び襲い掛かった。その攻撃も防いだがロゼッタも苦悶の表情を隠せない。


「は、早く攻撃して……これ以上は私も……」


 ロゼッタの顔から汗が吹き出し、したたり落ちていた。制服ですら汗でびしょ濡れになっていた。巨鴉の放つ炎で周囲が熱くなっていたのに加え、魔力消費の激しい魔盾で攻撃を防ぎ続けたことで、彼女の体力消耗は誰の目にも明らかだった。


 ダリルを圧倒したロゼッタだったが、目の前にいた巨鴉だけは別格の強さなのだ。さすがのセリナも彼女の様子を見て、気が変わらざるを得なかった。


「わかったわ。やってみる!」


 意を決したセリナが筆を両手で構えた。だがここでセリナにはもう一つ気がかりなことがあった。


 模擬戦で二回戦ともくっついていた、謎の虫の存在だ。もちろん今はそんなこと気にしている場合ではないが、虫が苦手なセリナはそのことを思い出し、筆の先端の付け根を確認した。


 だがそれは杞憂だった。模擬戦とは違い、虫はどこにも張り付いていない。それを確認したセリナは、意を決して集中した。


(今はロゼッタを信じるしかない!集中して、集中……)


 巨鴉は再び手で叩きつける攻撃をしようとした。ロゼッタの体力がいつまでもつかわからない。セリナの心が若干焦った。


「私のことはいいから、とにかく集中して!」


 その時だった。巨鴉の背後から強烈な光が放たれたかと思うと、直後巨鴉の体勢が崩れた。そして直後にバーンという轟音まで鳴り響いた。その轟音はセリナとロゼッタも聞き覚えがあった。その音と光を発した張本人が、巨鴉の背後に立っていた。


「なんか妙に騒がしいと思ったら……面白え奴いんじゃん」


 聞き覚えのある男子生徒、そして見覚えのある金髪の髪型、2人ともその男子生徒が誰かすぐにわかった。


「ダリル!?」


「去年倒した竜は精鋭級だったらしい。お前は間違いなく将軍級だな、となりゃ……」


 ダリルは体中から火花を出した。闘争心の高さが嫌でも伺える。


「俺が相手してやるよ、化け物!!てめぇを倒して、俺は英雄になる!!」


 直後筆から、これまでにないほど特大の雷球を作り出した。そのあまりの大きさにセリナも驚愕した。


(凄い、なんて大きさ!)


「喜べ化け物!俺の最大級の雷球ライトニングスフィアが味わえるんだからな!」


「ダリル、下がれって言ったのが聞けないのか?そいつはマジでヤバい!!」


「ブラッドは引っ込んでろ!コイツは俺が倒す!」


 後ろにいたのはブラッドだった。彼の忠告ですら無視し、生成した特大雷球を巨鴉めがけ発射した。そして巨鴉に直撃し、さっきよりも強烈な光と轟音を起こした。


「どうよ、俺の本気の雷球は……」


 しかし直後ダリルは信じられない光景を目にする。なんと確かに直撃したかに見えた雷球を、巨鴉は顔の前で両手を交差させ耐え抜いたのだ。そして何事もなかったかのように、直立している。


「なん……だと……?」


「そんな……」


「無駄よ、その程度じゃ」


 そしてその直後、唖然としていたダリルの体が真横に吹っ飛んだ。完全に隙だらけだったダリルは避ける動作すらしなかった。巨鴉の腕で、ダリルは地面に叩きつけられ、再び静かになった。


 それを見たセリナは完全に自信を無くした。


(確かに雷球は直撃したはず。防御術を張っているような様子もなかった。いくら両手で防御したと言って、あの全力の雷球をまともに喰らっても倒れないなんて……)


「セリナ、今がチャンス!奴が後ろを向いている隙に」


「で、でも……」


 今の雷球の攻撃を喰らった巨鴉の様子からして、自信を無くしたセリナだったが、その心中をロゼッタも察した。


「大丈夫だから、あなたの力なら倒せる!私を信じて」


「……」


「彼が作った機会、無駄にするの?」


 その言葉を聞いてセリナもハッとした。もちろんダリルにその気はさらさらない。しかし彼の攻撃により、今最大のチャンスを迎えたのは事実だ。それどころか、巨鴉はダリルの背後にいたブラッドの存在にも気づき、彼に攻撃を加えようとしていた。


 つまり今巨鴉は、完全にセリナ達に対して無防備だ。


「わかったわ!」


 セリナは遂に意を決し、再び筆を両手で構え先端を巨鴉に向けた。目を閉じ全力で魔力を手先に集中させた。どうしてロゼッタが自分のことをこれほど信頼しているのか、気にしている時ではない。


(お願い……私に……力を……!!)


 これまでにないほどの強い魔力の鼓動をセリナは感じた。自分の体が浮いてしまいそうな奇妙な感覚になった。そして目を閉じていたにも関わらず、強烈な光を感じた。


(これは……!!)


 筆の先端から巨大な球体は確かに1限目で出した水色と緑色、2つの色を呈していた。互いに超高速で回転し合い、やがて一つの巨大なスフィアへ合体した。


 そしてセリナがさらに魔力を集中させたその直後、スフィアが一直線に巨鴉の胴体目掛け放たれた。


「グボォオオオオオオオオ!!」

第34話ご覧いただきありがとうございます。セリナの放った術の正体は数話後で明らかになります。


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