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新世界魔導士セリナ  作者: 葵彗星
33/59

第33話 陽動作戦

「こ、こんなことって……」


「嘘でしょ、アグネス……先生が」


「ま、まだ死んだって決まったわけじゃ……」


「ど、どうすればいいの?」


 セリナ達は動揺するしかなかった。もはや模擬戦どころの話ではない。誰が優勝するとか、さっきまで悠長に話し合っていたのが嘘のようだ。しかしミリアだけは一人冷静だった。


「どうするもこうするもないでしょ!私達にできることって言ったら……」


「ミリア、何か策があるの?」


「今から急いで、応援を呼びに行くの!」


 ミリアの提案は確かに名案だった。しかしその提案にセリナだけは反対した。


「まだ避難できていない生徒がいるわ。彼らを放っておけない!」


 そう言いつつ、セリナはアグネスがぶつかった倉庫を指差した。その倉庫の窓の中に逃げ遅れた生徒らが、不安げな顔のまま隠れている。その中にレイリスの姿もあった。


「だからって……私達に相手できるわけ……」


「セリナ、あんたの気持ちはわかるけど……」


「ロゼッタとフィガロ、あの二人がなんとか時間を稼いでくれるわ。だから……」


 その時だった。なんと既に逃げていた生徒の一部が戻ってきた。それだけではなく、あろうことか巨鴉相手に攻撃術を仕掛けている。


「お前ら、早く逃げろー!!」


「俺達が引き寄せる、だから今の内に!!」


 どうやらセリナと同じ気持ちの生徒はほかにもいたのだ。自分達が囮になり、その隙に生徒達を安全に避難させる作戦だ。カティアとミリアが思わず唖然とした。


「あの子たち……」


「なんて度胸!」


 もちろんそれを見たセリナも黙っているハズがない。その生徒達の元へ急いで駆け寄った。


「あぁ、セリナ!!」


「もう、あの子まで!!」


「私も行くわ!」


 なんとオルハまでセリナに同調してついて行った。


「私達はどうするの?」


「どうするって……」


 男子生徒達が必死に巨鴉を引き寄せる。彼らの攻撃術に反応した巨鴉も黙ってはいなかった。すかさず口から炎を吐き出し、反撃した。


「危ない!!」


「怯むな、水球アクアスフィアで応戦だ!」


 生徒が放った水球は巨鴉の炎を掻き消した。しかしそれならばと、巨鴉はもう一段階上の威力を誇るであろう炎を吐き出した。


「くそ、今度のはデカいぞ!!」


「狼狽えんじゃねぇ、あれしきどうってこと!!」


 だが次はそうはいかなかった。生徒らが放った水球は多少炎の威力と速度を弱めた程度に過ぎず、降りかかろうとしていた。


「マジかよ!?」


水盾アクアシールド!!」


 その時、生徒らの前に女子生徒が立ちはだかった。その水盾に被せるように、自らも魔盾を張り、炎を完全に防いだ。


「あ、あんたは!?」


「セリナ……さん!?」


「あなた達大丈夫!?」


 セリナは真っ先に生徒らの身を案じた。その質問に戸惑いながらも返事をしたが、セリナは一歩前に出て自らを巨鴉に注目させた。


「ここは私が引き受ける。あなた達、急いで校舎に行って応援を呼んできて!」


「それはいいが、あんた一人で!?」


「一人じゃないわ!」


 その時もう一人の女子生徒の声が聞こえた。セリナが振り返るや否や、その女子生徒はすかさずセリナに治癒術をかけた。


「オルハ!?」


「もう模擬戦とかないからね」


 オルハの治癒術のおかげで、減っていた体力と魔力も回復した。そしてそこに二人の女子生徒も駆け付けた。


「カティア、ミリア!」


「もう、あんたったら……」


「あとで、虹色焼きパンおごってね!」


「ミリア、治癒は?」


 二人とも筆を構え、戦闘準備は万端だ。だが明らかに疲れが出ていたミリアはなぜか全快している。


「こんな時のためにとっておいたの!」


 服の内ポケットから取り出した空の小瓶を見せたが、セリナには意味不明だった。だがそんなことを気にしている場合ではない。


 巨鴉は再び口から炎を吐き出そうとしていた。


「カティア、わかってるよね?」


「わかってる、私の水盾で防いで……」


「私が回復させるわ!」


「いや、待ってオルハは……」


 ここでセリナがある大事な作戦を思いついた。


「オルハは、先生を治癒して!」


「えぇ、そんな……」


 オルハもセリナの言いたいことはわかっていた。アグネスもまだ死んだと決まったわけではない。気を失っているだけかもしれない。しかし、自分達が立っている場所から倉庫までの距離は100メートル近く離れ、その間に巨鴉が立っている。


「私達があいつを引き付けるから、オルハは隙をついて全速力で走って!」


 オルハは躊躇っている。だがセリナの主張にカティアも同調した。


「今の状況で一番戦力になるのは、間違いなく先生よ。だから……」


「わかったわ。ちゃんと引き付けてね!」


「任せてよ、私も中学時代は災魔倒したことあるわ、精鋭級だけど」


 ミリアのその言葉はほかの3人にとって心強いのかどうかわからなかった。直後、巨鴉の口から夥しい量の炎が吐き出された。カティアが全力で水盾を張った。4人全員を覆い尽くすほどの量とあまりの火力に圧倒されたが、その炎は水盾によって防がれた。


「ぐぅうう、あ、熱い……」


「カティア、頑張って!!」


「喰らえええええ!!」


 ミリアが、脇から飛び出し、全力で火柱フレイムピラーを10メートル先にいた巨鴉に向けて放った。が、胴体に直撃させるも巨鴉はまるで動じなかった。


「そんな……」


 動揺するミリアへ巨鴉の視線が移動する。今度の標的は決まった。巨鴉は長い腕を上空に伸ばし、ミリアに叩きつけようとしていた。


「ミリア、危ない!!」


 だが巨鴉は攻撃しなかった。ミリアの右前方、フィガロが巨鴉の腰めがけ強烈な土球サンドスフィアをぶつけ、注意を反らしていた。


「お前の相手は俺だ、かかって来い!」


「フィガロ!!」


「ミリア、俺が盾で防御する。構わず攻撃し続けろ!」


「わかったわ」


 今度はフィガロとミリアによる連携が始まった。その言葉通り、フィガロが石盾ストーンシールドを張り巡らし、ミリアがその横からひたすら火球フレイムスフィアで応戦していた。


「私もいるわよ!」


 その光景を見てカティアも加勢する、水球をひたすら浴びせた。複数からの攻撃にさすがの巨鴉も巨大な翼で体を覆い、防御態勢に入った。


「効いてるぞ、これなら行ける!」


「オルハ、今がチャンス!」


「わかってる!」


 オルハが全速力でアグネスの元へ向かった。そしてセリナも攻撃術を放とうと、筆を構えた。


(怖がらないで私……集中して……あの巨鴉を……倒す!)


 だがここでセリナはあることに気づいた。いや、正確には気づきたくなかった事実だ。


(待てよ、あの災魔の正体って……)

第33話ご覧いただきありがとうございます。捕捉しますと、ミリアが取り出した小瓶は回復薬です。次回でいよいよ決着!

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