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小学校で松原龍星は、いつも一人で過ごしていた。
中学生になる龍星の兄は、人並の知恵を持つ者なら慎む暴力行為等の悪行に、周囲とは違う自分との価値を見出す人間だった。姉も同じく人より早い出産が他者の上を行く行為と捉え、中学校を卒業したばかりだったが、一児を連れて市内の何処かで無職の男性と暮らしていた。
血を分け与えた両親、特に自称土建業の父は週六日以上が休日だった。加えて生活保護担当者の説明が理解出来ない時等に、怒声を上げて話を打ち切る人柄だった。親達の言い付けもあり、松原家と、龍星と関わろうとする児童は一人も居なかった。
龍星自身も他児童への暴力行為を繰り返し、授業中も外を眺めてばかりいた。学年主任や教頭、その様子を伝え聞いた校長は、龍星も同類と扱っていた。
しかし龍星の担任は、暴力行為は一年生の頃と比べて減っており、何より学業面での龍星は、解答に不正解を与えた覚えが無かった。まだ二年生の一学期の時点で確信は持てなかったが、龍星の母は一流進学校の中退者だと担任は知っていた。
担任は暴力行為の減少と学業の優秀さを言葉にして、度々龍星を褒めていた。しかし龍星が喜びを見せる事は無かった。一般的に良いとされる行為を褒められる土壌が、龍星の家庭には無かった。
休み時間になると龍星は、一人で教室を出て行った。そして人気の無い廊下を選んで歩いた。近付けば会話を止めたり、距離を空ける同級生達に苛々しない為の、龍星が見付けた方法だった。
人気を避けると必ず、龍星は特別支援学級の前を通った。支援を要する児童達の為に、大声等の刺激が少ない場所に学級は設けられていた。
支援学級から毎回聞こえるのは、トランポリンで跳ねる音だった。窓越しにいつ見ても、トランポリンの主は直樹だった。龍星は、緩んだ体幹の割に真直ぐの跳躍を延々と続ける直樹の姿に、多少の興味を抱いていた。
しかし口にする訳でも、立ち止まる事も無く、龍星はいつも素通りしていた。