大魔王のおにぎり【短編】
勇者に負けた魔王。
「お前は手も足も歯も立たずに逃げ出す事になる。絶対にな。なにせ、あの大魔王様は何もかもが次元が違うのだからな……」
「たとえ、大魔王が相手でも俺は負けない!」
魔王は最後に哀れみの表情をして倒れた。
目の前の勇者が何も知らない井の中の蛙に見えたからだった。
「昔はせんべいとかもボリボリいけたんじゃが、今じゃ歯も顎の力も衰えての、今はおにぎりくらいしか食わないんじゃよ」
その大魔王は穏やかなお爺さんで、勇者は戦意を鈍らせ名乗る事も忘れた。
そして目の前に出されたのはただのおにぎり。
目の前で大魔王が炊き立てのお米を握り海苔を巻いたものだ。
ガチン。
おにぎりを食べようとした勇者の口から妙な音がした。
(な、なんだ!このおにぎりは……、まったく歯が通らない。馬鹿な!俺のレベルは100目前の99でアイテム等で肉体も極限まで強化してあるんだぞ!このおにぎりは一体何レベルだというんだ!!)
「どうかされたかの?」
「い、いえ――」
「大魔王様!大変です!!勇者が大魔王様をねらっ――」
「これでも食らえいっ!」
ドコンっ!
大魔王は庭から土足で慌てた様子で現れた魔族の頭部におにぎりを投げた。
だが、またしてもありえない音が響いた。
「失礼をしたの。じゃが、わしのおにぎりを食えば奴も少しは落ち着くじゃろ」
(く、食えばって……こ、これ何かの凶器だったりするのかな?物理的に静かになったんだけどっ!)
「大魔王様!落ち着くどころか頭部が吹き飛んでます!」
「馬鹿を言うでないわ!おにぎりで頭が無くなるわけないじゃろ!血が出ておるなら傷口に米でも塗りこんでおけいっ!」
ビビッたもう一人の部下は、せっせと米の粘りで頭部を修復し始める。
その姿に勇者もさらにビビった。
「ん?お腹が空いておらんのかの?」
「え、ええ……」
「ならこれはわしが食うかの」
ムシャムシャ。
(ほ、ほんとに食ってる~!?歯も顎も元気じゃん!食べられないせんべいって一体なんだよ!!アダマンタイトかな!?)
内心大パニック状態で冷や汗が止まらない勇者だった。
「暑いのかの?気がつかなくてすまんの。今、冷たいお茶を用意しよう」
(お、お茶って何?このおにぎりの親戚なのかなっ!?)
大魔王は親切心でお茶を用意しようとし、勇者はこの隙に逃げた。
そして悟ったのだ。
大魔王は次元が違うと……、生物として異次元にいると。
勇者は文字通り大魔王には歯が立たなかったのだった。