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【08】始まりの街

「んっ…んん…?」


 赤池が目を覚ますと、そこは見知らぬ森だった。


「おー、来たねー見知らぬ森!予習した通りだな!」


 今のこの状況は、確かに先日植田と語り合ったパターンに当てはまりはするが、普通の人間ならばそれでも戸惑うところ。しかし、赤池は至って普段通りだった。


「そうなるとこの後、モンスターとかモンスターに襲われてる誰かに出会いそうだけど、その前にまずは…そう!“ステータス”!」


 赤池は前方に手をかざし、それっぽく唱えた。

 だが何も起こらなかった。


「出ないか…『ステータスウィンドウ』。でもまぁ、能力が秘められてるってのもそれはそれでアリだよな。よし、じゃあ行くか!」


 相変わらず無駄に前向きな赤池は、臆することなく出発した。

 その後はしばらく、特に当てもなく勘だけを頼りに獣道を突き進む赤池。すると途中で、いかにも何かしらのイベントが起こりそうな湖に辿り着いたのだった。


「んっ、人影…?なんか誰かが水浴びしてるような…ハッ!これはつまり…早速ヒロインとの出会い的な!?いや、でも乙女の裸を覗き見るとかそんな…そんな…のは、男のロマン!仕方ない!」


 赤池は自分に都合よく解釈した。

 そして水浴び中の…婆さんと目が合った。


「うぐっ、ひ…『ヒール』!!」


 赤池は両目を押さえて叫んだ。

 だが何も起こらなかった。


「いや、勝手に目にダメージ負うでないよ失敬な。誰じゃいお前さん?」


 浅黒い肌に少しとがった耳をしたその老婆は、覗かれたことに動じることなく冷静に赤池を睨み付けた。



「俺は赤池。異世界から来たんだ。」


 老婆が着替え終わるのを待って、赤池は自分に起きた出来事を話して聞かせた。


「へ~、異世界転移ねぇ…。アンタ頭大丈夫かい?」

「頭?石頭なのが昔から自慢なんだ。どんなに強くぶつけてもなんともない。」

「そうかい、それは救いようが無いねぇ。」

「ところで婆さんは…何してたの?」

「あー、山菜採ってたらちょいと泥かぶっちまってねぇ。仕方なく洗ってただけさね。もう帰るよ。」

「帰る…ってもしかして街に?だったら案内してよ。俺まだ来たばっかだから何も知らないんだ。そしたら許してあげてもいい。」

「いや、なんでアンタが被害者ヅラしてんだい?覗かれたのはこっちだっ…まぁいい。」


 婆さんは説明を諦めた。

 実に賢明な判断だ。


「悪いが人里は苦手でね、これをくれてやるから一人で行きな。」

「へ?何この変な紙…?」


 赤池は『はじまりの地図』を手に入れた。


「そいつは持ち主の周辺地域とそれまでの足跡が写し出される地図でね。所有者を今アンタに設定したからこの辺りしか載ってないが、街まで行くには十分なはずだよ。」

「おぉ!マジかありがとう!あ…でもごめん、特にお礼とかできるものなくて…」

「そんなもん期待しちゃいないよ。タダでくれてやるからさっさと行きな。」

「これは…もう少し粘ればまだ何かもらえる流れかな?」

「これだけ常識が根本から違うとなると…異世界うんぬんを信じた方が話が早そうだね…」


 あっちでもこっちでもやはり赤池は普通じゃないようだ。




 その後、森を抜けて地図を頼りにしばらく歩くこと約二時間。赤池は小さな街に辿り着いた。

 街の入り口には『ハマジリの街』と書かれている。


「んー、小さいけどそれなりに店とかありそうだし…あるのかなぁ?『冒険者ギルド』…」


 異世界もののお約束である『冒険者ギルド』。もちろんそこから始まる諸々に対する期待もあったが、まだこの世界のことを何も知らない赤池としては、ギルドに所属して誰かに色々と教えてほしいという気持ちの方が強かった。


「えっと、えっとー…あっ、あった!やっぱりあったぜ冒険者ギルド!」


 なにかと気にしない赤池はまだ気付いていないが、神様的な爺さんに気に入られた彼は、言葉や文字を自動翻訳してくれるとても便利なスキルを授かっていた。

 これが無いと物語的にも色々と面倒なので好都合だ。


「すみませーん。冒険者になりたいんだけど、どうすればい…おぉ!やっぱり可愛い受付嬢!しかも猫耳っ娘!さすが異世界!」


 期待していた通り受付嬢が美人だったため、テンションが上がる赤池。


「ニャ、ニャハハ…ニャんかよくわからんですけど、仕事はこニャすニャ!」


 受付の猫耳少女は苦笑いを浮かべつつも、丁寧に色々と説明してくれた。


 このハマジリの街は『オウリック王国』の外れにある田舎街。とても平和らしく旅の始まりの地に相応しいという。

 街は外と内の二重の壁に囲まれている。外側の壁にある門は日中は解放されているが、内側の壁の中に入るには必ず門番のいる関門を通過する必要がある。外側にも露店や宿屋はあるにはあるが、内側の方が値段も安くサービスもいいらしい。

 ギルドに所属できれば内門の通行証が発行されるだけでなく、討伐情報の提供や倒したモンスターの換金など特典も多いため、手っ取り早くギルドに入ろうという輩は多いのだという。


「ところがどっこい!世のニャかそんニャに甘くはニャいのニャ!」

「ニャ、ニャんですとーー!?」

「いや、そこ真似られると私のアイデンティティが霞むんでやめてほしいニャ。」

「オッケー。んで?何が甘くないわけ?審査がすんごい厳しいってこと?」

「あ、うん。まぁ色々と権限持てちゃうからねー。危ニャい奴にはあげられニャいニャ。」

「そうなの?なんか中には荒くれ者もいるイメージだけどな冒険者ギルドって。」

「まぁチンピラ程度ニャら確かにね。でも極悪人は入れニャいように、最初にちゃんと犯罪歴とかチェックするのニャ。てニャわけで、はいニャ!」


 受付嬢は謎の水晶的なものを取り出した。


「こ、これはまさか…手をかざすと俺のステータス的なものをが見えちゃう系の素敵アイテム…!?」

「フッフッフー!そのまさかニャ!」

「ニャ、ニャんですとーー!?」

「いや、だからマジ困るんで。」

「お、おぅ…。そんなマジトーンで怒られるとさすがの俺も反省するわ…」

「さ、いいから早くやっちゃってほしいニャ!」

「オッケー!さぁ、明らかになるがいい我がステータスよ!」


 赤池は水晶的なものをに手をかざした。

 水晶的なものから怪しげな光がほとばしる。


「こ、これは…!」

「こ…これは…!?俺の秘められた力とは一体…!?」


「み、見えニャい…」

「そのパターンかー!んー、そうきたかー!まぁ、いいけど!」


 ラノベによくある展開から、この手の流れは“最高ランク”、“最低ランク”、“見えない”という三パターンが予想できたが、どのパターンも結局は主人公に都合のいい結果になると思われるため、赤池はそのまま受け入れることにした。


「でもさ…見えないってことはギルド入れないってことになるわけ?それだとやっぱ困るなぁ。」

「あぁ、その点は大丈夫ニャ。ステータス的ニャのはニャぜか見えニャいけど、過去に犯罪歴がニャいのはわかったニャ。」

「え、ホント?何も出なかった?」

「ん?ニャにか後ろめたいことでもあるのかニャ?」

「いや、まぁ犯罪とかじゃないけど…子供の頃に落とし穴とか凄いの掘って大事件になったりしたからさぁ。」

「ニャハハ!さすがにそんニャいたずら程度ニャら対象外ニャ。それとも誰か怪我人でも出たのかニャ?」

「いや、“温泉”が。」

「確かに大事件ニャ!てか落ちたらまず人が死ぬ深さニャ!アホかアンタ!」


 赤池は幼少期からヤバい奴だった。


「で…結局のところ俺はどうなるの?まずはFランク冒険者的なのから始めるみたいな感じ?」

「あー、話が早くて助かるニャ。ざっくり言うとそんニャ感じニャ。」


 その後の追加説明によると、冒険者は基本的にAからFの六段階に分けられ、ランクごとに受けられる依頼が異なるという、ラノベ世界でよく見るテンプレ通りの仕様のようだ。


「んじゃ、金も無いし早速依頼とか受けたいんだけど、何かあるかな?」

「もちニャ!ニャにかご希望はあるかニャ?」

「まぁ最初だし、なるべく簡単で安全なやつがいいかな。あとできれば金とか経験値がメチャクチャ手に入って、最終的に王様に気に入られて美人の王女に惚れられるとありがたい。あとはさ、あとは…」



「とまぁそんな感じだけど…先に宿屋おさえてから出直すよ。いつ来ればいい?」

「おととい来やがるニャ。」

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