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【06】遺志を継ぐ者達

 赤池が行方知れずになり、自暴自棄になりかけた植田だったが、なんとか復活。

 共通の友人である荒畑、平針、八事を学食に呼び集め、赤池がする話以上の荒唐無稽な話を始めようとしていた。


「俺が今から話すのはあくまで俺の一意見であり、ただの妄言だ。まぁ気晴らしだと思って少し付き合ってくれ。」

「えっ、ごめんねウッちゃん…ちょっと考える時間ほしい。」

「いや誰も告ってねーから。というか前向きに考えないでいいよフッてくれよ。」


 ちょっぴり天然系な八事に水をさされた植田だが、気を取り直して話を続けた。


「なぁ平針、アイツは…赤池は本当に、死んだと思うか?」

「ハァ?んなもん見てたお前が一番よくわかってんだろ?トラックに撥ねられて川に落ちて十日も見つからねぇ…。あの赤池がだぜ?来んなっつっても寄って来る、あのウゼェ奴が行方不明なんだ…わかんだろ?」

「じゃあ聞くが、逆に…アイツの死を証明するには何が必要だろうか。」

「死を証明…?そりゃあ死体を見りゃ…って、テメェまさかくだらねぇ屁理屈こねる気じゃねぇよなオイ?」

「あ~、悪いがそのまさかだわ。」

「それってさウエピー、例えるなら“シュレディンガーのアッキー”ってこと?観測するまではまだ死んでない的な?」


 平針と同じく、荒畑も植田が何を言いたいのか察したようだ。


「別に量子力学とか持ち出すつもりはないが、まぁ言いたいのは確かにそんな感じだよ。“まだ死んだと確定してはいない”ってことな。」

「だから、可能性がゼロじゃないうちは諦めない…ってわけね?」

「ああ。絶対に諦めないからな…アイツなら。だから可能性はゼロだと、完全に論破されるまで考えたいんだ。悪いけど協力してほしい。」


 いつもは赤池を論破する役の植田だが、今回は逆の立場を望んでいるようだ。

 まったくもって彼らしくないが、気持ちはわかるので誰も否定はしなかった。


「なるほどねー。じゃあまず前提を確認するけど…ウエピーはさ、アッキーは…異世界に行ったと考えてる。でオーケー?」

「ああ、その線で考えたい。馬鹿げてるってのはわかってるんだがな。」


 赤池と異世界トークの経験がある荒畑はすんなり前提を受けれたようだ。

 しかし、事情を知らない平針は当然意味が分からない。


「マジかよオイ…。つーか異世界行ったとかじゃなくてお前に乗り移ってんじゃねぇか赤池?そんで脳を奪おうとしてるとか…」

「いや、失礼なこと言うなよ。だがもし仮にそうだったら殺してくれよな。俺にまだ少しでも理性が残ってるうちに。」


 あんまりな言われようだった。


「ま、いいや続けろよ植田。テメェを論破する側に回るってのも面白そうだ。」

「そだね。まずはウエピーがそう思う根拠を教えてよ。」

「そうだなぁ…まぁ、まずはさっきから言ってる通り、まだ見つかっていないってことだな…アイツの死骸が。」

「いや、死骸て。虫じゃないんだから。」


 やっぱりあんまりな言われようだった。


「あんな浅いドブ川なのに十日も見つからないとか、正直理由がわからん。どこかに消えたとしか思えない。」

「あー、確かにそうだよね~。じゃあ他には?どんどん言ってって。」


 荒畑に促され、植田はまくし立てるように続けた。


「世の中にはさ、前にお前らが話してた『浦島太郎』だけじゃなく、『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』、近代映画なんかも含んだらもっと…異世界に触れてる作品はたくさんある。だが創作活動において、1を10にするよりも0を1にする方が難しいとも聞く。そう考えると、それらの作品は本当に全部が全部…ただの空想なんだろうか?」


「また、近年の日本の年間行方不明者数は八万人を超えてるんだ。中には事件に巻き込まれた人とか自ら行方をくらませた人とかいるんだろうが、果たして本当に…その人達の全員が全員、今もこの世界にいるんだろうか?」


「あと今回の“まだ死んでないかも説”からはズレるが、人は死んだらどこに行くのか…もしかしたらその場所こそが異世界かもしれない。そうなると、仮に死んでたとしても異世界には可能性が見出せるんだよ。」


 植田の話はあくまでどれも可能性の話でしかなかったが、それだけにどれも間違いだと証明することもできない。

 他の三人は植田が話し終えた後、どう返すべきかしばらく考えあぐねていた。



「…ねぇ、ウッちゃん?」


 そんな中、最初に口を開いたのは八事だった。


「しゅれびんがーって…何?」

「やけに静かだなと思ってたらそういうことか。そんなに前からか。いや…いいんだ、無理について来なくても。どうせただの空想だしな。」

「で、でも!私は信じるよ!ウッちゃんはきっと合ってるよ、うん!」


 八事は赤池以上に深く考えないタイプだった。


「アタシも否定する気は無いよん♪ま、そうじゃないと救いが無いしね。」


 どうやら荒畑も植田の口車に乗ることにしたようだ。

 しかし、残った平針は相変わらず険しい顔をしている。


「ま、そうだよな平針。お前みたいなリアリストには理解できないと…」

「…で、具体的にどうする気だ?」

「え…?」


 鼻で笑うか罵倒するかのどちらかだと思われた平針からの、まさかの質問。

 一瞬植田は聞き間違いかと思ったが、どうやら違うようだ。


「テメェのことだ、“行こう”とか言うってことは何かしら当てがあるってことだろ?言えよ、聞いてやっから。」

「ど、どうしたんだお前…?普段なら、赤池が今みたいな話したら聞き終わる前に潰しにかかるくらいなのに…」

「まぁ、いつもの俺ならそう言うんだろうが…な。」


 平針は他の二人に目配せしてから話を続けた。


「実は俺達三人、同じ日に…アイツが夢に出てきてんだよ。三日前のことだ。」

「なっ、三人とも…夢に…?」

「ああ。もし偶然じゃないならお前もと思ったんだが…見なかったのかよ?」

「夢…三日前…?あ、それ屋台のラーメン屋で朝まで飲んだくれてた日だわ。死ぬほどゲロ吐いた日だ。」

「へぇ、お前がそんなになるまで飲むとか珍しいじゃんか。」

「いや、ラーメンが死ぬほどマズくて。」

「ラーメン屋でラーメンが死ぬほどマズいとか何がしてぇんだよその店主は?」


 確かに向いてないにも程があった。


「にしても、そうか夢か…。どうりですんなり話が通ったわけだ。ちなみにどんな夢だったんだ?じゃあ…まず八事。」

「あ、えっとねー。私の夢では、なんか言いたそうだったけど…結局うまく聞けなかったよ。」

「あー…まぁたまにそういう時あるよな、アイツ。ある特定の条件下でだが。」


 八事を前にした赤池は、ここぞという時にうまく話せなかったことが何度かあった。

 そんな彼の恋心は傍から見てもバレバレだったが、残念ながら本人だけには全く届いていなかった。


「じゃあ荒畑は?お前なら聞き上手だから何かしら聞けたんじゃないのか?」

「え?んー、まぁ聞けたって言えば聞けたけど………言ってもいいの?」

「よ…よくわからんがやめといた方が良さそうだな。」


 植田は凄まじく気になったが、何か嫌な予感がしたのと今回の件には関係ないだろうことが伝わってきたため、詳しく聞くのはやめた。


「じゃあ最後に平針…お前は?」

「もしもの時は“自分のPCを壊してくれ”と。」

「あー…」


 多くの男子共通の願いだった。



「とまぁそんなわけでよぉ、夢見たっつっても特に何の情報も無くてな。俺ら三人じゃお手上げだったってわけだ。」

「だからウッちゃんを待ってたんだよ!ウッちゃんなら何かわかるかもって!」

「アッキーがバリーに言った“もしもの時は”…ってことは逆に、そうじゃなければ壊さなくていい…つまり戻れる当てがあるとも受け取れるんだけどさ。そっから先がね~。どうかなウエピー?」


 三人は期待に満ちた目で植田を見ている。


「そうだなぁ…。俺はさ、異世転移のきっかけって言うと、“不思議アイテム”、“不思議スポット”、あと“不思議イベント”…この三つが浮かぶんだ。」

「あ、アタシもそれ前にアッキーから聞いたわ。その時は“不思議イベント”からの浦島太郎談義になったけど。」

「俺が今回言いたいのは“不思議アイテム”…具体的には、コレだ。」


 植田はラーメン屋台で謎の爺さんからもらった絵本を取り出した。

 その薄汚れた見た目に平針は顔をしかめた。


「な、なんだよそれ…?確かにそれっぽいっちゃぽいが、これは…?」

「『夢絵本』…かつてドイツの作家『ライナー・ローゼンバーグ』が描いた絵本の総称だ。この夢絵本に選ばれた奴は、本の中の“夢の世界”に行けると言われてるらしい。」

「へぇ~、なるほどねー。ウエピーはそこが“異世界”だって言いたいわけね?」

「ああ。三日前にもらって以来いろいろと調べたんだが、情報が少なくて詳細はいまいちわからん。でも…可能性はゼロじゃないと、そう思ってる。」

「けどよぉ植田、仮にその本で異世界に行けたとして、赤池の野郎がガチで異世界にいたとして、その二つが同じ世界だって保証は無ぇんじゃねーのか?」

「確かにそうだな。でも同じである可能性もゼロじゃない。今はとにかく、ゼロじゃない可能性にすがるしかない。」

「ふーん。ま、最初から突飛な話だしな。今さら可能性がなんだって言いだすのは野暮か。」


 どうやら目指すべき道は決まったらしい。


「えっと、えっと、じゃあ具体的には何すればいいのかな?」


 イマイチ話についてこれていない様子の八事は、植田に説明を求めた。


「ん~、やっぱまずは調査だな。夢絵本についてもっと知らないことには話は進まない。」

「わ、わかったよウッちゃん!市の図書館とかでも調べてみるね!」

「じゃあアタシは文系のみんなに聞いてみよっかな。顔の広さには自信あるしね。バリーは?」

「あ~、場合によっちゃゼミの教授が詳しいかもしんねぇ。当たってみるわ。」


 こうして、傍から見れば荒唐無稽としか思えない一大プロジェクトが発足した。

 発起人の名は『植田コウジ』。


「じゃあまぁ方向性は固まったってことで…一旦バラけようか。」


 幅広い人脈と抜群の順応性を誇る『荒畑ムツミ』。


「オッケー。んじゃ、何かわかったら都度共有ってことで。」


 ガラは悪いが意外と面倒見のいい男、『平針ミキオ』。


「ま、しゃーねぇな。アイツにゃ五千円貸してんだ、取りっぱぐれるわけにもいかねーしよぉ。」


 そしてチームのマスコット的存在、『八事ミク』。


「よーし!じゃあみんな、頑張っていこーね!」



 消えた『赤池アキラ』との再会を果たすべく、動き出した四人。

 いい歳した大人の男女が昼の学食で堂々とする話でもなかったため、例のごとく周りの学生から無駄に注目を集めていたが、もはや慣れっこの植田や荒畑、終始ぼんやりの八事は特に気にしておらず、平針だけが戸惑っていた。


「チッ、んだよジロジロ見やがって…ウゼェな…ったく。」

「ま、気にするなよ平針。やると決めたら、なりふり構っても仕方ないさ。俺達は何がなんでも絶対に…」



「異世界に、行くんだから!!」

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