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【32】翻弄される男(4)

 謎の変態(赤池)が舞踏会場を騒然とさせた一件が耳に入ったことで、地下の戦闘は一時中断状態に。

 爺さんとの戦いが佳境を迎えてはいるものの、今日の統括の総責任者である公爵は、立場上騒ぎを放置することもできない様子。


 劣勢を覆すべく動くなら、今しかない。


「どうする爺さん、悠長に考えてる時間はねぇぞ?」

「…やれやれ、やはり勝てはせんか。歳はとりたくないものだ。ならば予定通り、楔を打つまでが…ワシにできる限界なのだろう。」

「ああ、他に何かあるならそうした方がいいな。持久戦になればなるほどアンタにゃ不利だろ。で、楔ってのは具体的になんなんだ?」

「それはまぁ、アレだ…。キミは今日まで、この社会の上層部に魔族が入り込んどるなんて知らなかったろう?」

「そうだな。知ってたらもっと危機感を…」

「上の階でのんきに宴に興じている者達はな、彼奴が魔族とは知らぬのだ。かつて秘密裏に結ばれた休戦時の盟約…それを知る人間の多くは、命を狙われることを恐れて堅く口を閉ざしておるからな。」

「なるほど。だからそれを広く知らしめて…敵を社会的に殺そうってことか。魔族どもを人間社会から弾き出そうってわけだな?」

「そうだ。口で言っても誰も信じなかったが、あのおぞましい姿を見れば話は変わるはずだ。」

「確かに人の目を覚ますには十分なインパクトだろうが…ったく、大仕事じゃねぇかよフザけやがって…!で?俺に何をしろって?」

「ワシが奥義で上までの道を通す。お前さんには、技を繰り出すまでの時間稼ぎを任せたい。」


 当然といえば当然だが、この状況下で傍観者のままでいられるわけもなく…人類の命運の一端を強制的に握らされてしまったバリー。

 どう考えても拒否できる状況ではない。


「何分だ?」

「十五…十分は欲しいな。力を溜める時間も必要だが、なによりこの真上は舞踏会場だ、直線上に人の気配が無くなった一瞬を狙わねばならん。」

「あの化け物を相手に十分か…どう考えても呪技の使用は避けられねぇなぁ。」

「何かあるかね?キミは手ぶらのようだが…」

「…無くはねぇよ。どうにも気は進まねぇが…な。」


 バリーは内股を閉じ、手を股間に当て、前かがみの姿勢をとった。まるでオシッコを我慢している感じのポーズだ。


「その構え…バリー君、まさか…!」

「技名は『尿意乱舞』。繰り出せば強烈な尿意を催し…それを我慢すればするほど攻撃力が高まる呪われた技だ。リスクは…まぁ察してくれや。」


 こっちも社会的に死ぬ系のやつだ。




「やれやれ…少し状況が変わった。貴様との戦いはひとまずお預けとさせてもらうぞ剣聖よ。」


 バリーが覚悟を決めた頃、衛兵と話していた公爵が戻ってきた。

 口ぶりからして、上の騒動を収めに行くつもりのようだが、変身を解かれてしまっては目的を達することはできないため、バリーはなんとかして現状を維持しなくてはならない。


「オイオイ逃げる気かよ?つーかテメェ、敵は爺さんだけだと思ってねぇか?」

「…立場をわきまえろ小僧。そのまま隅で大人しくしていれば、見なかったことにしてやる。」

「ありがてぇ気遣いだが、その必要は無ぇよ。別に隠れてたわけじゃねぇしな。」

「強がるな。震えてるじゃないか。」

「ハハッ!安心しな、これは違う理由だ。」


 決して安心できる理由ではないが(尿意)。



「フン…まぁいい、立ちはだかるなら屠るまでよ。しかし、ただでさえ脆弱な人間風情が武器も持たず魔族に挑もうなど…むぅっ!?」


ガキィイイン!


 バリーの攻撃。

 公爵は慌てて防御した。


「なっ、素手で攻撃だと…!?だが今の金属音は…」

「武器が無ぇだ?だったらこの体を武器にするまでさ!頼んだぜ、『おしゃべり大明神』!」


「フォオオオオオオオオオ!!」


 バリーの背後に、雄叫びを上げる謎の小太りのオッサンが現れた。


「精霊か…?舐められたものだ、そのような雑魚に…」

「違ぇよ、そいつはただの出歯亀だ!攻撃するのは…あくまで俺だ!」


 そう言って拳を振りかぶるバリー。

 だがその後に続けて、奇妙なことを口走った。


「赤池はこれまで八事に告って118回振られてる!まぁ当の八事は告られたと気付いてねぇがな!」


キィイン!


「あ?貴様、何を訳のわからん…」

「あと赤池は実は、ワンチャンまだサンタはいるんじゃねぇかと思ってる!あと奴は、“屁か糞か”のギャンブルに負けて今でも年イチでウンコ漏らしてる!」


ガキン!ガキィイイイン!


「くっ、まだ続けるか!ふざけるのも大概に…む?『おしゃべり大明神』…!?」

「あん?なんだよ知ってんのか?」

「フン、忘れんなよ呪技はそもそも魔族の生まれだ。魔族を率いる者が知っていても不思議ではあるまい。」

「そうかよ。じゃあネタバラシは要らねぇな。」


<おしゃべり大明神>

 口の堅さと引き換えに肉体を硬くする呪技。

 効果時間中は全身が硬質化する反面、どんな秘密もペラペラ喋ってしまう。

 普段口が堅い人ほど効果は大きく、友達を失うリスクも高い。


「チッ、やっぱこの場にいねぇ奴の話じゃ…リスクが低い分効果がイマイチだな。拳が痛ぇや。まぁその方が尿意が紛れていいが…困ったな、これ以上の重ねがけはさすがに…」


 ろくな呪具も無い状況であるため、どう見ても分が悪そうなバリー。

 そんな困った様子の内股の彼を見て、公爵はその正体に気付いたようだ。


「そうか貴様、『呪技使い』か。やれやれ、呪いを駆使するそのスタイルは明らかにコチラ側…性根も歪んでいるはずだ。なぜガサカの側につく?」

「あ?誰の性格が悪魔的に悪ぃって?職業は関係無ぇよ自前だっつーの!まぁ強いて言うなら、ハメられたんだよあのクソジジイに。」

「ならやはりコチラ側じゃないか。」

「…お?」


 公爵の的確な指摘!

 バリーに10の動揺を与えた。


「ま、まぁ確かにある意味そうだが…物語の登場人物としては、残念ながらそっち側には行けなくてな。」

「そうか、ならば死ね。急ぎ向かわねばならん場所があってな。」

「あぁ、だったら問題無ぇよ。わざわざ行かねぇでも送ってもらえばいい。」

「送る…?」


 バリーはニヤリと笑い、そして叫んだ。


「今だ爺さん!遠慮するな、俺ごとやれ!」

「うむ、そのつもりだ!」

「やっぱりちょっとは遠慮しろや!」


 公爵の死角から、力が溜まったらしい爺さんが現れた。

 そして今まさに必殺技を繰り出そうとしている。


「なっ!ガサカ貴様、いつの間に力を溜め…」

「我が最強の剣風で、舞い上がるがいい悪鬼ども!」

「テメェ、クソジジイ!なに複数形で言っ…」


「食らえ、『蛇頭剣技:昇竜天』!」


 爺さんは剣を振り抜いた。

 凄まじい剣風が天井を貫き、公爵とバリーを巻き込んで舞い上げた。


「ぐわぁあああああああああああああああ!!」




ズッガァーーーーーーーーーーン!!!




 轟音とともに床に大穴が空き、土埃が立ち込めた舞踏会場。そこに現れたのは、体長が3メートルを越える怪物…そう、悪魔公爵だ。

 変身後の公爵のおぞましい姿に、その場の貴族達がパニックに襲われたのは言うまでもない。爺さんの思惑通りだ。


「なっ、なんだあの化け物は…!?」

「ひぃいいいいい!!」

「ななな、何をしている!?早く私を逃がせ!安全なところへ!」

「お、押さないでください!押さ…うわぁあああああ!」


 タイミング的には赤池達が逃げ去った後であるため、一部は彼らを追って出て行ってはいたものの、会場にはまだ大多数の貴族達が残っていた。

 あとはこの場で公爵の正体を明かすことができれば、爺さんの目的は達成となるわけだ。


「ぬぐぅ…!おのれガサカめ…これが狙いだったか…!そして若造、貴様も…!」

「あ?俺にキレんなよ。言ったろ?俺も爺さんにハメられた被害者だってな。」


 かなりの衝撃で巻き上げられ重傷を負った二人だったが、それぞれ懸命に防御したらしく致命的なダメージは負っていないようだ。


「たった二人の人間のせいでまさかこんな…って貴様、物陰で何をしている!?」

「あ~、緊迫した状況下で悪ぃがちょっと待て。その方がお互いのためでもある。ふぃ~~~…」


 バリーはかろうじて“膀胱破裂”の危機を乗り切った。



「さーて、あと何分かな?こっから先についても俺は全然聞いてねぇんだわ。だから爺さんを待たねぇといけねぇ。」

「優位に立った気でいるな?まだ何もバレてはおらんし、仮にバレても全員始末すればいいこと…」

「ハハハッ!まぁ今後の状況次第じゃ、俺としてもその方が助かるわ。」

「な、なに…?」

「これから使う技は、できれば俺も使いたくはなかった。」

「貴様、まさか命を代償とする呪技を…!?」

「見せてやるよ。いや、できれば見せたくはねぇが…」


 バリーは下腹部を押さえ、苦悶の表情を浮かべた。



「破滅の身体強化術…その名も、『便意大乱舞』。」



 いろんな意味で大惨事の予感が。

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