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【30】翻弄される男(2)

「え?悪魔?討伐…?えっ…?」


 気楽にパーティーに参加するだけかと思いきや、なにやら物騒な話になってきて困惑するバリー。だが爺さんは至って真面目なようで、ボケをかましているようには見えない。


「ちょ、ちょっと待て爺さん!待ってくれ、あまりにも情報が足んねぇ…!」


 まるで物語の主人公であるかのように、颯爽と死地へと乗り込もうとする爺さんを、バリーは必死で止めた。


「む?なんだねバリー君、ただでさえ遅れているというのに…」

「遅れたのはアンタのせいだろ?それに、いくらなんでも説明が無さすぎる。これじゃまともに護衛なんかできねぇよ。」

「ふむ…それもそうか。ではどこから聞きたい?」

「できれば全部聞きてぇとこだが…とりあえず、“悪魔公爵”について教えてくれよ。他は必要なら追加で聞く。」

「いいだろう。少し長くなるが…まぁまだ宴は始まったばかりだ、問題も無いだろう。」


 爺さんはゆっくりと歩を進めながら、静かに話し始めた。


「このエリン大陸には四つの大国があるのだが、それぞれに『悪魔公爵』と呼ばれる魔の者がいて幅を利かせているのだよ。彼奴らがいる限り、魔族と人族の戦いは決して終わることはない。」

「魔の者…?」

「そう。自らが魔物であり、そして魔物を率いる者だ。」

「なっ…!?てことは、もしかして…壁の外で襲ってくる魔獣は…!」

「ふむ、元を辿れば皆、彼奴らの手先だよ。まぁ末端の冒険者が狩っているのは、知能の低い雑兵ばかりだろうがね。」


 爺さんは当たり前のように話したが、バリーにとっては寝耳に水の話だった。なぜなら魔獣は本能に従って襲ってくる野獣であり、そこに誰かしらの意思が介在するとは考えられていなかったからだ。


「マジかよ…悪の元締めがいるとか考えたことも無かったわ…。だがまぁ物語なわけだし、そっちの方が合点がいくか。」

「ほぉ、思ったより驚かんようだな。世間的には知られとらん話のはずだが。」

「ま、こっちも色々事情があってな。にしても悪魔公爵…あ、てことは王様もいるのか?」

「ああ、『悪魔王』がな。だが、その存在については多くが謎に包まれておる。」

(王か…そいつが“本編”のラスボスなのかもしれねぇな。となると…)


 もしもバリーの読み通りなら、第一部完の鍵は各国の『悪魔公爵』が握る可能性が高い。


「だがちょっと待てよ爺さん、敵は今から向かうこの宮殿にいるんだよな?人が普通に暮らす壁の中…最も安全な場所にあるはずの城内に、モンスターがいるってのか?一体どこに隠れて…」

「隠れてなどいないさ。彼奴らは闇に潜むでもなく、堂々と人として動いているのだ。」

「堂々と…まさか各国の…人間の公爵として普通に生きてるってことかよ!?」

「うむ…。先の大戦を休戦とするにあたって、人類側は受け入れざるをえなかったのだよ。苦渋の決断だった。」


 爺さんが言うには、かつて百年続いた人族と魔族の戦いは魔族が優勢のまま終盤を迎え、人族側は疲弊しきっていた。そこに魔族側より、ある提案があったのだという。それは、“休戦と引き換えに、高位魔族に人間界での一定の地位と権力を与える”ということ。

 人々は悩んだ末、その提案を受け入れた。そして各国の公爵に据えられた高位魔族は、人の世界で暗躍し始めたのだという。


「なるほど。“滅ぼす”より“乗っ取る”の方が得るモンが多いもんな。力任せに襲ってくるよりタチが悪ぃわ。」

「ああ。彼奴らはとても狡猾だ。このままではいつか…この世界が魔族のものとされてしまう。」

「理由はわかった。だがもしそうなら、俺ら二人で何ができんだよ?」

「フホホ。まぁせいぜい楔を打つ程度だろうなぁ。決して倒せはしまい。だが人類にとっては大きな意味を成すだろう。」

「お、おいおい…そのために俺に死ねってか?出会ったばかりのこの俺に…?」

「ちゃんと言ったろう?よく知りもしない相手を安易に信用するような者は、すぐに死ぬと。気が済むまで疑えとな。ホホホホッ!」

「雇用関係の前に俺らは友人だ…とも言ったぜ?」

「生死を共にする戦友…素晴らしいじゃないか。何も間違ってはおるまい?」

「いや、“生”の方の時間制限がだなぁ…」

「気にするな。人生なんぞ、過ぎてみれば一瞬の花火だ。」

「くっ…!」


 どうやら口で勝てる相手ではないらしい。


「…ったく、どっちが狡猾だよ…。天然どころかとんだ曲者じゃねぇかテメェ…」

「ま、年の功ってやつかのぉ。口だけは達者でな。」

「チッ、食えねぇジジイだぜ。」

「そりゃそうだ、なにしろジジイだしな。その点キミは好まれるかもしれんぞ?」

「そんな物理的な意味で食えねぇとは言ってねぇわ。つーかやめてくれよ縁起でもねぇ。」


 今晩のビュッフェコーナーに並ぶ可能性も無いではない。


「ハァ…やれやれ。だからさっき、“無駄に人数だけ集めても意味は無い”とか言ってたわけだ。」

「うむ。死んでしまうしな。」

「もはや濁す気ゼロかよ。今から連れてく奴を前によくそんな…」

「ホホッ、臆したかね?」

「…ハァ、まぁいいや。もうなるようにしかならねぇと…割り切ることにした。」


 どう考えても死にそうな流れではあるが、仮に死んだとしても本から追い出されるだけであるため、バリーはこのまま流れに乗ってみることにした。もしかしたらそれが、絵本の攻略において功を奏す可能性も無くはない。


「ところで爺さん、アンタ見た感じ魔導士っぽいし…たった二人で巨悪に挑もうってんだ、当然強力な魔法とか使えたりするんだよなぁ?」

「魔法?ちぃーーーっとも使えんよ。すまんね見掛け倒しで。」

「マジかよ…じゃあガチでただ死にに行く気なのかよ?」

「いやいや、殺し方にも色々あるだろう?彼奴らが人間社会に居座っていることを逆に利用してやろうと思ってな。」

「…そうか、“社会的な死”ってやつか。公爵の座から引きずり下ろして、敵軍の力を削ぐってことだな?」

「ま、だからといって安全かというと普通に死ぬがな。」

「だろうな…」


 結局死ぬっぽい。



「さて、そろそろ入ろうかバリー君。そうこうしているうちにパーティーが終わってしまっては笑い話にもならん。」

「いや、元から全く笑えねぇ話だがな…って、そうかよ着いちまったか…」


 気付けば二人は、宮殿への入口となる門の付近まで来ていた。

 これ以上近づくと衛兵からの目も厳しくなる。この先についてルールを決めるなら今しかない。


「だがよぉ、なんか作戦とか無ぇのかよ?せめて行動指針くらい…」

「基本は別行動。キミは可能な限り、場を引っ掻き回してくれればいい。」

「チッ、陽動か…。その間、爺さんは何を?」

「まぁまずは夕飯だな。」

「そこは一緒に食わせてくれよ!その状況で一人で暴れたら俺、ただの迷惑な客じゃねーか!魔族に悪者扱いされるとかお互い立場的に複雑だろうが!」

「確かにそうだな。ではひとしきり楽しんでから、事を起こすとしようか。」

「その“ジョークじゃなかった”みたいな感じやめてくれよ…」


 魔族より爺さんの方がヤバい気も。


「あぁそうだ、ちなみに今回の宴…表向きは王家が主催ゆえ、彼奴も悪目立ちしたくは無いはずだ。あちらから吹っかけてくることは無いだろう。安心したまえ。」

「後で吹っかけるつもりの奴に言われてもな…。ところで、表向き…ってことは裏があるんだな?」

「知る必要はない。それを防ぐために、ワシはここに来た。」

「…ま、知らぬが仏ってこともあるか。いいぜ、行こうか。」

「ああ。己の身の安全のため魔族側に寝返ろうという愚かな貴族どもを秘密裏に集め、国家転覆を企てんとする悪鬼ども…絶対に見過ごせぬ!このワシが食い止めてみせるわ!」

「って結局言っちゃってるし!!わざとだろテメェ!?」


 バリーはここでリタイアかもしれない。

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