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【25】最後のピース

 時は少し遡り、日本。

 ニッシーこと西高蔵のツテを使い、闇ネットワーク上のコミュニティ『~夢の彼方まで~』に参加することとなった植田一行。コミュニティの管理人とのWEB面談が間もなく開始される。参加者は植田、荒畑、平針、八事、補佐として東別院教授とリモート参加のニッシーの計六名だ。


「わかってると思うが、俺や東はあくまでもオブザーバーだぞ?後はお前らがやれよな。」

「そうだね。見たところ植田君が適任かな?平針君だと盛大に揉めそうだ。」

「やかましいですよクソ教授。でもまぁ確かに俺は向いてねぇ、交渉は任せたぜ植田?邪魔しねぇように俺は基本的に黙っとくわ。あぁ、八事もな。」

「う、うん!そうだよね!あ、でもウッちゃんがどうしてもって言うなら一曲くらい…」

「いや、是非とも黙っといてくれ。せめて歌うのは勘弁してくれ。」

「アタシも基本的には黙っとくねウエピー。んで、ここぞって時にボケるわ。」

「いや、なんなら二時間くらいどっか行っててくれ。」


 植田の孤独な戦いが始まる。




「ようこそ諸君。私がこのコミュニティの代表を務めている『カミサワ』だ。よろしく頼むよ。」


 そして面談が始まった。

 画面に映し出されたのは、六十代くらいと思われる、薄く色の付いた丸メガネをかけた白髪交じりの男性。線は細いがどこか貫禄がある。


「先ほどもらった紹介文で大まかな事情は把握したつもりだが、もう少し詳しく聞かせてもらえるかな?」

「あ、はい。じゃあ俺から…」


 簡単に自己紹介を済ませた後、植田は伏せるところは伏せつつ、これまでの経緯を説明した。


「ふむ…なるほどなるほど。行方不明になった友人が異世界に飛ばされたんじゃないか…と。それはなかなか…」

「無理ありますよね、わかります。でも可能性は…」

「あー、いやいや。そこを否定できる立場じゃないさ。『夢絵本』を知る者にとって、異世界転移はもはや夢物語ではないのでね。」


 “頭大丈夫か?”と言われるのを覚悟していた植田だったが、カミサワは特に疑う様子も無かった。


「つまり、アナタには既に…異世界に行った経験があると?」

「ああ、過去に別の作品で…ね。そうでなければ、この本にこれほどの時間や金を費やす気にはならなかっただろうよ。」


 なんとカミサワは、異世界に行ったことがあることを簡単に認めた。

 傍から見たら完全にヤバい奴だ。


「最初はもう五十年も前になるかな。かつて少年だった私が、偶然迷い込んだあの世界…あの神秘的な光景は、未だにこの胸を焦がしてやまない。」

「意外とあっさり話してくれるんですね。もっと濁されたりするものかと…」

「ここに辿り着いた時点で、キミ達はある程度は知る権利を持っている。私は時間の無駄遣いが嫌いでね。」

「なるほど。では、俺達が本の中に…異世界に行く方法を教えてください。」


 植田は単刀直入に尋ねた。


「んー。まぁそもそもがそういうコミュニティだし、何も珍しい問いではないのだが…なぜだろうな。他の野心に燃える者達よりも、キミらが真剣に見えるのは。」

「まぁ、ワラにもすがる気持ちで来てるんでね。可能性が少しでもあるなら、挑戦したいんですよ。」

「ふむ、では先ほどの問いの答えだが…そうだなぁ…答えは“YES”であり、限りなく“NO”に近い。わかるかな?」


 意味ありげな回答。何事もハッキリさせたいタイプの荒畑が黙っていられるわけがない。


「え、なにそれトンチ?一休さん呼んできた方がいい感じ?」

「悪い荒畑、ややこしくなるから黙っててくれ。いや、違うな…」

「え?違うって何が…?」

「悪いのはお前だわ。」

「律儀にありがとね。ちょい黙っとく。」

「さて…」


 荒畑を黙らせた植田は、顎に手を当てて少し考えた。

 時間の無駄遣いが嫌いと言ったカミサワが明確な回答を避けたということは、自分で考えろということ。ここで舐められるわけにはいかない。


「つまり、俺達には到底満たせない…厳しい条件があるってことですね?見た目で決め付けるってことは、年齢、地位、収入…?」


 考えをまとめきれていない植田は、話しながら考えることにした。


「本の中に入るって仕組みから推察するに、夢絵本は読者が本の中に入ると、その中の誰かしらの役が割り当てられるはずだ。しかし、物語に影響を与えるようなメインキャラクターの数は限られている。その枠がもう埋まっているか、もしくは物凄く高額か…ということですか?」


 なんとかそれらしい答えを導き出した植田。

 するとカミサワは、手を叩いて喜んだ。


「ハッハッハ!なかなかの洞察力だ、まさにその通りだよ。仮に入れたとて、村人の行ける範囲には制限がある…人捜しは難しいだろう。だが自由度の高いキャラクターへの割り当ては高額だ。一介の学生には手は届かんよ。」

「割り当てってことは、どのキャラになるか選べるんですか?」

「そういう意味だと正確には正しくはないが、まぁある程度はね。やはり物語の進行上、先に入った者に重要な役割が与えられる確率が高いのだよ。それゆえどうしても、先行する権利ほど割高になる。」


 条件は厳しいものの、夢絵本についての知識が深まるのは喜ばしいこと。だが同時に、カミサワがあまりに簡単に話し過ぎていることが植田は気になった。


「でもいいんですか?こんな話を初対面の俺達に…」

「情報を集めるには、こちらもある程度の情報は出さねばならん。それは仕方がないことだ。」

「俺達が外で漏らしたとしたら?」

「ハハハッ!なんら脅威にはならんよ。まぁ中途半端に知る者が増えて、偽の情報がはびこるようになっては困るし…多少の手は打つがね。」


 カミサワは意味深な笑みを浮かべた。

 どうやら敵に回すべき相手ではないようだ。


「というわけで、残念ながらここまでだよ。情報を与えることで無駄に期待を持たせたようで申し訳ないがね。」


 先ほどは曖昧に答えたカミサワだが、今度ははっきりと“NO”だと告げた。

 だがしかし―――


「…いいや、まだだ。」

「なに…?」


 消えた友を捜しに異世界にまで行こうという男が、そう簡単に諦めるわけがなかった。


「さっきアナタは、情報を集めてると言った。夢絵本についてはもう十分に知っていそうなアナタが、市場を荒らされかねないリスクをわざわざ冒してまで、得たい情報とは一体何でしょう?しかもそれは、俺達が持っていてもおかしくないもののはずだ。だからここまでは親切に話した。違いますか?」

「ほぉ…まだ粘るかね面白い。いいぞ、もっと攻めて来たまえ。」

「アナタには十分な知識がある。恐らく地位や金もあるんだろう。そんなアナタはまた絵本の世界に入りたいと思っていて、だから情報を集めている。枠を得られる力があるのにまだ足りない…となると、足りないのは…そうか“枠”の方か。」

「!!」


 カミサワの目付きが変わった。


「俺達もここに来る前にだいぶ調べたけど、幻の作家ライナーが遺した夢絵本…眉唾ものなのを含めれば情報は多少はあった。けど、その現物を持ってるって話は皆無でしたよ。でもこのデジタル全盛の時代に写真の一枚も上がってないのがどうにも気になってたんだ。誰かが規制してるのかと思ってたんだけど、実はそうじゃなくて…」


「…ああ。無いんだよ、単純にね。」


 植田に核心を突かれ観念したのか、カミサワは新たな情報を出してきた。


「実際には無いことはない。私と私の仲間達の手元には現在、大枚はたいて手に入れた三冊の夢絵本がある。だが訳あって、それらでは私の目的を満たすには足りんのだよ。」

「だから、別の夢絵本を探してると?」

「そうだ。そのために広く情報を集めている。そして今回もまた空振りだった…。まぁ楽しませてはもらったがね。というわけだ、すまんが今日はもう…」

「…今、手持ちの三冊では“足りない”と言いましたね?つまり、欠けたピースが見つかればいいわけだ。」

「ハハッ、実に聡い子だ。どうだ、学校を出たらウチに来んか?お前さんなら優秀な幹部として、いつか―――」


「“いつか”じゃ困るんですよ。“今すぐ”で、お願いします。」


 そう言って植田が取り出したのは、ラーメン屋で老人から譲り受けた古ぼけた夢絵本。

 それがカミサワが求めていた最後のピースだということは、彼の表情が露骨に物語っていた。



「…詳しく聞こうか、小僧。」

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