【23】荒れる仮面舞踏会(2)
「あ…荒ちゃん!?」
「アッキー!!」
騒然とする舞踏会場で邂逅した、赤池とアラータ。
一方は全裸に仮面&マント、もう一方は器が貴族で中身が女子大生という異常な二人だが、状況が状況なだけに細かいことは後回しだ。
「アッキー、今…」
「皆まで言うな荒ちゃん。どんな状況かは見りゃわかる。」
「ごめん、こっちは見てもわかんないんだよね。なんで今アッキーがそんな攻めた格好してるのかアタシ全然わかんない。」
「奇遇だな、そこに関しては俺もだ。」
多分この場の全員がそうだった。
「でもまぁ、今はそれどころじゃないだろ?見たとこ悪役令嬢らしく、見事に断罪イベント真っ最中っぽいし。」
「あー、うん。色々頑張ってはみたんだけど、結局回避できなかったわー。」
「わかるわかる。例の“強制力”だろ?ところで、この先自分がどうなる感じかはわかる?“処刑系”じゃなくて“婚約破棄系”ってことは、この後は領地に飛ばされる感じかな?」
「んー、どうだろ?さっきまではワンチャンあったかもだけど、半裸の男と仲良しなのが発覚した今…ねぇ?」
「ふむ、婚約破棄に半裸フレンド…ツーアウトってところか。」
「いや、野球で例えるなら“ゲームセット”だと思うよ?」
見渡すと、あっけに取られていた衛兵達もようやく平静を取り戻したようで、気付けば周囲を囲まれてしまっていた。
そして、少し距離を取って様子をうかがっていた王太子も戻ってきた。
「アラータ、貴様…これはどういうことだ?」
若干恐る恐るといった感じではあるが、威圧的に問い詰める王太子。
そんな彼の態度にアラータは、反射的にキレ返した。
「いやいやいや、アンタがそれ言う?婚約者がいるにも関わらず他の女を伴って舞踏会来てるだけでもあり得ないのに、悪びれもしないどころかアタシが悪さした感じで婚約破棄とか、それこそどういうこと?この国の倫理観マジ終わってない?てかなんで舞踏会で婚約破棄なわけ?なに余興?余興なの?会を盛り上げる小粋な演出なの?違うよね?どう考えても場違いじゃない?」
「くっ…!ご、誤魔化すな!全て話せ!隠し立てすると容赦せんぞ!?」
「ほほぉ、この俺に隠すなと?」
「いや、貴様は隠せ!少なくとも前は隠せ!」
この状況で臆する気配の無いアラータと赤池。
だがこのまま煽り続けると“処刑系”に発展してもおかしくない。
「で、この後はどうするのがセオリーなのさアッキー?思わず勢いで言いたいこと言っちゃったけど、どう考えても悪化したよねこれ…?」
「いや~、俺もわかんないや。婚約破棄イベントって大抵は悪役令嬢が去って終わりだからさぁ。まぁ相手は王族だし、下手に逆らったら大変なことになるのは確かだな。」
「大変なことって…今みたいな?」
「そう、今みたいな。」
「じゃあこれ…詰んだ?」
「まぁ、このままだと…なぁ?」
ジリジリと近づいてくる衛兵達。
そんな中、ついに王太子からの号令がかかった。
「もういい、まずは捕らえろ!変態の方は、抵抗するなら殺しても構わん!」
「ちょ、ヤバくないアッキー?あっ、もしかして『冒険者』とかになって強くなってたりしない?剣とか魔法が使えたり…」
「おっ、察しがいいな。合ってるっちゃ合ってるけど…ほら、今は武器が股間のマグナムしか…」
「いや、そういうのいいから。」
そうこうしているうちに、衛兵に槍を突き付けられ、壁際に追い込まれる二人。
万事休す…と思われた、その時―――
ガシャーーーーン!
窓ガラスが割れ、投げ込まれた発煙筒から大量の煙が噴き出した。
「今だ!早くこっちへ!」
そして、外からウエイダの声が。
どうやら彼は、こうなることを見越して脱出のために動いていたようだ。
「そ、その声…植田か!?」
「いいから早く!この煙が晴れたら終わりだぞ!」
「えっ、ウエピー!?なんでウエピーが!?」
「嬢ちゃんも早く!話は後だ!」
「植田…!助かったぜ植田!よし行こう植」
「いや、さっきから名前連呼してんじゃねーよ!足がつくだろうが!しかも俺だけが!」
逃げ切るまでのハードルが上がった。
そして、全力で逃げること数十分。
思いのほか順調に逃げ切ることに成功した三人は、城下のとある酒場の二階にある隠し部屋で一息ついていた。
「ふぅ~、なんとか助かったなぁ。無事逃げ切れて良かったな荒ちゃん。」
「だねー。でもあのドレスのままじゃ走れもしなかったし…うん、ホリタンにはマジ感謝だわー。」
赤池達を危険な舞踏会に送り込んだ張本人である商人ホリタだが、その一方でアラータの着替えや三人分の変装道具など、脱出用のアイテムを多数用意していた。
他にも逃走ルートの確保やこの隠れ家の手配など、持てる力のすべてを尽くしてアシスト。脱出の成功に大きく貢献していたのだった。
「感謝だぁ?何言ってんだよ嬢ちゃん、俺には恨みしかねぇぞ。あのクソ商人め…肝心なこと言わず酷ぇ目に遭わせやがって…!」
ウエイダは利用されたことに納得がいっていないようだ。
しかし、その話題はアラータによって軽く流された。
「あっ、そういえばウエピー!もうアッキーと合流してたんだね!」
「あーー…さっきから言ってるそのウエピーって、アカイケの言う植田のことだよな?残念だが他人の空似だぞ。」
「…てゆー設定?」
「みたいだぜ?」
「違ぇーよ!って、お前まだ疑ってたのかよアカイケ!?だから別人だっての!」
「んじゃさ、とりあえずお互いの近況報告会しようぜ。俺も荒ちゃんがなんでこっち来てんのかとか知りたいし。」
「あぁ、俺からも頼むわ嬢ちゃん。どうせ荒唐無稽な話なんだろうが…何かしら自分を納得させられる材料が欲しい。」
「あ、うん!オッケー!」
そんなわけで、お互いが今までどのような道を歩んできたのかを報告しあった二人。ウエイダも興味深そうに聞いていた。
「なるほどな…つまり嬢ちゃんも、アカイケと同じ異世界から来たってわけだ。えっと…アラータでいいのか?」
「うん。物語のキャラとしては勝手に名前変えるの駄目だと思うし、そっちで呼んで。あ、でも追われる身としては偽名名乗った方がいいのかなぁ?」
「んー、大丈夫なんじゃね?ホリタンが用意した庶民の服にも着替えたし、長かった髪もあっちの荒ちゃんと同じくらいの長さにバッサリ切ったし。そうそうバレないっしょ?ほら、コミカライズだと大抵、髪型違えばもはや別人だし。顔は一緒でも。」
それは言っちゃ駄目なやつだ。
「確かに、思ったより簡単に撒けたよね追っ手。アタシら変装うますぎ?」
「まぁアカイケは単に服着ただけだけどな。」
半裸のインパクトが強すぎた。
「で…これからどうすりゃいいかな俺ら?夢絵本うんぬんの話もあるけどさ、まずは無事に王都から逃げ切るのが優先だよな?誰も荒ちゃんを知らない所まで…」
「いや~、それはちょいとばかり骨かもしれやせんねぇ。その御方、かなり顔が広いでやすから。」
「あっ!テメェは…!」
ホリタが現れた。
ウエイダは恨みがましく睨みつけた。
「まぁそう怒るなよ植田。確かにホリタンのせいで酷い目にも遭ったけど、おかげで荒ちゃん助けられたわけだし、ちゃんと逃げる手立ても用意してくれてたわけだしさ。」
「…チッ。お前に正論言われちゃ、反論するほど惨めになるな…。今回は退いてやるよ仕方ねぇ。」
ウエイダは渋々諦めた。
「だが、報酬は弾めよ?なんか俺らが助けられたみたいな感じになってるが、そもそもアンタが持ち込んだ厄災だ。行かなきゃピンチにもなってないわけだしな。」
「ええ、もちろん。金でも物でも、もしくは…ねぇ?」
「ん~~…やっぱ今は金だよなアカイケ?」
「いや、俺は“もしくは”の先に興味が。」
「邪念は捨てろ。残念だがお前が思ってるようなムフフなやつは多分無いぞ。」
「まぁ、ありやすけどね?」
「らしいぞ植田?」
「…聞くだけ聞こうか。」
「いやいや、アンタらアタシがいること忘れてない?まぁメッチャ聞くけど。」
「そうでやすか。それじゃあ…」
詳しくは割愛します。




