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【22】悪役令嬢の目覚め(2)

 『悪役令嬢』として転生してしまった『アラータ』こと荒畑は、相棒となった妖精『イッシャ』と共に、早速情報収集を開始。

 だが―――


「んー…なんか…多分だけどさ、アタシの未来…かなりヤバくない?」

「うん、ヤバいね。そう遠くない未来に死ぬんじゃない?」


 使用人達からさりげなく聞いた話、少しずつ戻ってきた元のアラータの記憶、そして彼女が日々書き留めていた日記から、今どのような状況なのかが大体見えてきた。


 ・アラータは公爵家の令嬢で、王太子(継承順位が第一位の王子)の婚約者

 ・婚約は政略的なもので、双方に愛情は無い

 ・王太子は最近現れた庶民出身の少女ヒロインに夢中

 ・アラータは高飛車で性格が悪く、人望は無い


「参ったなー。聞いた話の行間読んだりみんなの顔色から察するに…だいぶクズじゃないアタシのアラータ?」

「うん、ヤバいね。アラータ的には“ヒロインに嫌味言ったりちょっと嫌がらせしただけ”って認識だった時点で、もう救いようが無い感じ?」

「だよねー。やっぱ駄目だったかー。ワンチャン無かったかー。」

「ん?ワンチャンって?」

「あ、うん。悪役令嬢にもパターンはあってね?実は悪人じゃなくて、“ヒロインの礼儀がなってないから注意のために厳しく接してた”とか、“ヒロインにハメられて悪役に仕立て上げられた”とかあるから、アタシももしかしたら…って期待してたんだけど…ヤバいじゃん、ちゃんと悪役してるじゃんアラータ。」

「まぁ見事に役割果たしてるし、物語のコマとしては優秀なんだろうけどね。」

「あ~、確かにそうだね。異世界ものに限らずだけど、“悪役には悪役なりの正義が”みたいな、“事情を聞いたらそんなに悪人じゃない”ってパターンとか萎えるもんね。やっぱ悪役は振り切っててくれないと、倒した時の爽快感が無いし。」

「そうなると、『夢絵本』のキャラクターとして入ってきて、アラータという悪役令嬢に宿ったキミの役割は…?」

「悪役令嬢として華麗に舞い、そして儚く散れ…ってことかぁ~。だったら仕方ないね…。イッシャ、なんか手頃な魔法とか無い?王都を爆破できるレベルの。」

「いや、それ『魔王』の所業だから。まぁそれも生き残る方法の一つではあるけども。」


 なるべく避けたい最終手段だった。




「さて、どうしようかね…あっ、小声小声…っと。聞こえるイッシャ?」


 状況を好転させるべく、庶民風の服に着替えてこっそり街へ出たアラータ。

 無事に生き延びるためには、身の回りから得る情報だけではまだまだ足りない。


「ん?イッシャ?どこ行っちゃったの?そういえば途中から声がしなくなった気がしないでもないかも。」


 行動力の塊であるアラータは、一緒に来たはずのイッシャを知らぬ間に振り切っていた。

 するとその時、恰幅のいい中年女性が話しかけてきた。


「あっ、いた!捜してたんだよアラちゃん。ホレこれ、さっきのお礼だよ。」


 女性は謎の大きな果物を手渡した。


「あ~また会ったねオバちゃん。お礼とかいいのに。」

「そんなこと言うもんじゃないよ。遠慮せず受け取りなって。」

「いや、あんまり美味しそうじゃ…」

「そんなこと言うもんじゃないよっ!」

「アハハ!冗談冗談♪それさっき別のとこで食べさしてもらったけどメチャ美味しかったし。だから嬉しい!」


 持ち前の社交性を活かし、早くも街に馴染んでいるアラータ。

 すると今度は、少しガラの悪そうな、それでいてエプロンをかけたガタイのいいオッサンが現れた。


「よぉアラちゃん、さっきは助かったよ。」

「あぁ、噂をすれば…。こちらこそありがとね八百屋のオジさん。果物美味しかったよ。」

「おや?なんだい、アンタもアラちゃんの世話になってたのかい?」

「おうよ。おかげでカミさんの雷が落ちずに済んだぜ。」

「ハハハッ!そういう話かい。相変わらず仲いいねぇ~アンタんとこも。で、何してやったんだいアラちゃんは?」

「え?なんか奥さんがヤバいの詠唱し始めたから…後ろからゴンッ!と。」

「そういうガチの雷!?しかも解決方法が荒っぽいねぇ!」



 その後も何人かに声をかけられたアラータ。

 とてもつい先ほど初めて街に来た人間には見えない。


「え、なんでちょっと離れた小一時間の間に、こんなに知り合いできてるの…?」


「あ、イッシャ!どこ行ってたの?捜そうとしてたんだけどー!」

「捜してはなかったんだね…」


 人気が無くなったタイミングを見計らって声をかけてきたのは、街について早々にはぐれてしまったイッシャ。

 捜し回ってやっとのことでアラータを見つけ出したようで、かなり疲れた顔をしている。


「やっぱいいね、下町のこの人情味ある感じ。おかげで友達たくさんできたよ。」

「社交性が高いのはわかってたけど…想像以上だったよ。凄い人気だったね。」

「うん。もしかしたらアタシ、職業『テイマー』なのかも。」

「いや、友達を“モンスター”扱いはどうだろ。」


 むしろアラータの方がコミュ力モンスターだ。


「てかさイッシャ、なんで合流するのに時間かかったの?アタシ結構派手に動いてたよ?」

「あー、最初見失った時にさ、なんか怪しげなマント被った集団を見かけてさ。もしかしたらアラータが人さらいにでもあったのかと思って…ちょっと追いかけたんだよね。」

「えっ、マジ!?なんかありがと…でも気になるねそいつら。何者だったの?」

「なんかね、ちょっと見た感じ…多分だけどアレ、『奴隷商』だね。」

「うわっ、奴隷!キタコレ!」

「あ、もしかしてラノベってやつでもあるあるな感じ?」

「うん、メッチャよく見たねー。『からあげグランプリ金賞』くらいよく見かけたねー。主に男主人公ものの作品に出てくる印象だけどさぁ。例えば戦闘力の乏しい主人公が買って自分の代わりに戦わせたり、美少女奴隷集めてハーレム作ったり。やっぱりアレ?やっぱ『獣人』的な?」

「あー、いたいた。チラッと見えただけでも何人かいたね。」

「やっぱりかー。アタシが見たやつでも結構多かったもん獣人奴隷。じゃあさ、耳とか尻尾とか違うくらいで基本的には人型なわけ?」

「まぁそんな感じだね。なに、興味津々?」

「うん、すんごい気になる。耳が獣耳なら、じゃあ人間だったら本来耳があるべき場所はどうなってるかなって思うじゃん?でも漫画だと髪の毛で隠れてて見えないのが普通だから、見てみたいよね。髪めくって。」

「なんか動機が不純なところがさすがだね。」


 イッシャはだいぶわかってきた。


「にしても奴隷商かー。やっぱ放っといちゃヤバい奴らじゃないの?それともこの国は奴隷が合法な感じ?」

「普通に違法だよ。でもまぁ、人が多い街だからね。人込みに紛れていろんなのが入ってくるんだよ。」

「ふーん。なんか物騒だねー。うっかり爆死とかしてくんないかね?」

「キミの発想もなかなか物騒だけどね。」

「んー、じゃあ放っとけないかー。あ…もしかして、そいつら滅ぼしたら国から感謝されちゃう?死亡フラグ回避できちゃったりするかな?」

「あー、あるかもね。ワンチャンあるんじゃない?」

「マジで!?やったぁー!」


 アラータは一筋の光明を見出した。


「よーし!そうと決まれば善は急げ!早速向かおっか、爆破に!」

「さっきの物騒なのはジョークじゃなかったんだね…」


 イッシャはまだちょっとわかってなかった。


「というか、人を手にかけることは問題ないの?奴隷商は悪人とはいえ普通に人間だよ…?」

「大丈夫。今アタシ本の中に…“フィクション”の中にいるから。」

「あれ?さっきその説は否定してなかったっけ…?」


 アラータは柔軟な発想の転換ができる子だった。


「なんてね。冗談だよ。闇雲にドカーンしたら奴隷ごとドカーンだし。」

「そっか、なら良かったよ。」

「どうすれば悪人だけドカーンできるか考えないとね!」

「ちっとも“なんてね”じゃないから驚きだよね。まぁ…うん、いいけど。」


 イッシャは程よく見放すことにした。



「さっ、行くよイッシャ!」



 三日後、奴隷商グループは滅んだ。

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