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【21】悪役令嬢の目覚め

 それは、舞踏会が開かれる半年ほど前のこと。


「ん~~…これは…」


 とある屋敷の一室で、大きな鏡の前に立つ一人の女性。それは一見荒畑のようだが似て非なる誰か。基本的には元の荒畑がベースのようなのだが、髪はお嬢様感のある優雅な巻き髪ロングヘアーで、歳は十代後半に補正されていた。


「アッキーがいなくなって、一週間でひたすらラノベ読み漁ったけど…これはアレだよね、『悪役令嬢系』ってやつ?」


 かなり現実離れした状況ではあるが、相変わらず適応能力の高い荒畑。

 狼狽するすることもなく、自分が置かれた状況について考察を始めた。


「悪役令嬢かぁ…アタシがラノベで読んだ範囲だと、“断罪される要素を排除した結果、婚約破棄されない”、“追いやられた先の領地を改革して大成功”みたいなパターンが多かった気がするけど…とりあえず誰かと結ばれる系は却下だよね。となると…目指すは“無事に追放されるパターン”かー。」


 短期間のうちに、荒畑もそれなりの知識を溜め込んでいた。

 そんな時―――



「なんか…めっちゃ一人で喋るねキミ…」



「えっ!?だ、誰なの今の…えぇっ!?」


 突然聞こえてきた声に、慌てて辺りを見回す荒畑。

 するとなんと、手のひらサイズの妖精が目に留まった。


「うわ出た妖精!アタシが思う“ラノベ三大お供キャラ”のひとつ、それが妖精!あ、ちなみに残りは『古竜』と『フェンリル』ね?」

「一瞬驚いただけで怖がらないんだね…。肝っ玉太すぎじゃない?ホントに貴族なのキミ…?」

「あ~、実はさぁ~…」


 荒畑はこれまでの経緯を一通り伝えた。


「ふーん。つまりこの世界は、誰かが書いた物語の中だってこと?」

「ん~、それはどうなんだろ?アタシがこうしてる間に、きっと他の夢絵本読者も動いてると思うんだけど…その全部のシナリオを誰かが用意してるとは思えないんだよねー。だからあくまであの本は“きっかけ”だけで、どっかの異世界に飛ばされたんだって思うことにするよ。」

「まぁその方が賢明だろうね。本だと思って油断した結果この世界で死んだら、そのまま元の世界でも死んじゃうかもだし。」

「だね!にしても…疑わないんだ?コイツ頭おかしいのかとか思わないの?」

「あ~、妖精の力でね。嘘ついてるかどうかわかるんだよ。まぁ嘘かどうか関係なく頭おかしな子には見えるけど。」

「言うね~。」


 妖精は歯に衣着せないタイプのようだ。


「んじゃまぁ、改めてよろしく!アタシは荒…今は『アラータ』みたいだね。」

「ん?“今はアラータみたい”ってどういう意味?何か思い出したとか?」

「あ~、うん。この手の『憑依系』って大体、悪役令嬢が怪我とか謎の発熱があったタイミングで憑依前の記憶を取り戻すんだけど、元々の令嬢の記憶があるパターンと無いパターンがあるのね?んで、今回は運良く前者っぽくて。段々と思い出してきたのはいいんだけど、元の世界の記憶とゴッチャになってきてさぁ、ちょっと大変かな~今。」

「へぇ~。ちなみに前の世界ではどんな子だったの?」

「え?普通の女の子だよ?好奇心が旺盛すぎて今こんな状況だけどね!」

「普通…ねぇ。ま、面白そうだからいっか!よし決めた、ボクついてくよ!」

「マジでー?ちょっと心細かったから助かるー…って、そういや名前って聞いてないよね?」

「ん~、キミが決めてよ。本当の名前は人間には発音しづらいみたいでさ。」

「おっけー!じゃあ一番の舎弟だから…『イッシャ』で!」

「いや舎弟て。」


 イッシャが仲間に加わった。



「で、アラータはこれからどうするのさ?アカイケって子を捜すんだよね?」

「まぁ最終的にはそうなんだけど、まずは無事に生き抜くのが先決だと思うんだよね。何か手を打たなきゃ破滅するのが悪役令嬢だし。」

「あー、そうだったね。人捜ししてる場合じゃないね。」

「でも良かったよ、まだ猶予があるパターンで。社交界で婚約破棄されるシーンとか、断頭台で首チョンパされる直前からスタートするってパターンも多くてさぁ。まぁ鏡で見た感じ…年齢的にはそろそろっぽいけど。」

「ふーん。まだそのあたりの記憶は曖昧なんだね。」

「うん、ちょっと断片的なんだよねー。時間が経ったら全部思い出すことを祈ってる。」

「じゃあ下手したら…近日中に断罪かも?早くもお別れかも?」

「うん、早くもね。アタシが死んだら泣いてくれる?」

「え?ん~~…ちょっと厳しいかなぁ?」


 まだ何の思い出も無い。


「ま、殺されはしないと思うんだけどねー。覚えてる限りだとアラータ、ヒロインに嫌味を言ったりちょっと嫌がらせしたくらいっぽいし。」

「じゃあ最初に独り言で言ってた“無事に追放されるパターン”を目指すってわけだね。その後は具体的にどうなる感じが多いの?」

「んー、寂れた領地を改革して人望とかお金をゲットしたり、国の財政を救ったり伝染病を防いだり、あと戦争止めたり?」

「へぇ、なんか意外と壮大だね~。そんなこと、一個人でできるものなの?」

「絶・対・無・理。ラノベだと元の世界の知識活かして『石鹸』『リンス』『化粧品』とか開発して衛生面・美容面を改革したり、『マヨネーズ』とか『パスタ』とか作って食生活を変えたり、あと『銀行』の概念持ち込んだり『複式簿記』広めたり『税制改革』したり?いやいや、そんなのアタシひとつもできないんだけどー。てか普通みんなできないと思う。ものの材料とか原理とか知らんし。」


 荒畑の学力はごくごく平凡なものだった。


「ふーん。でもさ、そんなキミでも救える程度の、レベルの低い世界だったとしたら?」

「中にはそのパターンもあったけどねー。清潔にすれば防げるレベルの病気が蔓延するとか、出汁を取る文化が無いから料理がメチャまずいとかパンがメチャ硬いとか。料理人何やってんの?努力しろ!みたいな。あと『リバーシ』みたく簡単なゲームとか『シュシュ』みたいな簡単なアクセがバカ売れするとか?そんなチョロい世界なら確かにワンチャンあるかもだけど…」

「んー?なんか全般的に否定的に聞こえるけど…嫌いなのその手の話?」

「ううん、大好き!テンション上がるよね、主人公がグイグイ成り上がってくサクセスストーリー系って!とにかく無双しまくるやつ、マジ最高!」


 アラータはとても楽しそうだ。


「いや、なんかワクワクしてるみたいだけど…まず断罪されるっての覚えてる?下手すりゃ殺されるんでしょ?」

「そこなんだよねー。さっきは大した心当たり無いって言ったけど、そういえば言いがかりだったりハメられたりで殺されるパターンも結構あったわー。どうしよ?あ、イッシャってば妖精じゃん?なんか便利な魔法とか使えないの?」

「え?う~ん…ごめん、基本的に周りをウロチョロすることしかできないや。」

「あーー…確かにそんな印象かも。お供キャラの妖精って、“情報提供”とか“心の支え”みたいなのが主な役割かも。」

「アラータの方は?何かしら特殊な能力とか授かってないの?」

「あ~、“瘴気を浄化する力”みたいな?」

「ん?なにショウキって?」

「なんかこう…“邪悪なモヤ”的なのが噴き出しててさ、森とかで。そのモヤに飲み込まれると、とにかく大変なわけね?人やら自然やらが。それを浄化できる能力ってこと。」

「なるほど。そういう能力を…持ってるの?」

「無いね、からっきしだね。そういうのは『聖女』の役目だからねー。まぁ“悪役令嬢=聖女”のパターンもあるにはあるけど、アタシはキャスティングされないかなぁキャラ的に。ちなみに『治癒魔法』とか授かるのも聖女って気がする。」

「つまりアラータには、特殊な能力は無さそう?」

「ぽいねー。全力で踏ん張ったら何か出ないかなってさっきからこっそり頑張ってるんだけど、これ以上は多分…乙女的にアウトだと思う。」

「うん、じゃあ是非やめといて。ボクも浄化能力とか無いから。それ多分出しちゃ駄目なやつだ。」


 ある意味断罪イベントよりも大惨事だ。


「ところでイッシャってさ、やっぱアタシ以外には見えない感じ?」

「あー、うん。よくわかるね。それも外の世界の知識?」

「そうそう。そっかー見えないかー。いいねぇ好都合!んじゃま、行こっか!」

「行くって…どこへ?」

「もち“情報収集”!無事に逃げ切るために、何ができるか…調べないとね!」

「手段は?」

「問わない!」


 危険な令嬢が動き出す。

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