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【20】荒れる仮面舞踏会

 酒場で赤池達に声をかけてきた怪しい男『商人:ホリタ』。

 秘密の話をするということで、彼の商会へと案内された赤池とウエイダ。

 そこで聞いた話は、簡単にまとめると次のような内容だった。


 ・男はこう見えて王室御用達の商会の会頭

 ・三日後に催される王家主催の舞踏会の仕切りを任されている

 ・盛り上げるための奇抜なアイデアや仕掛け人が欲しい

 ・仮面舞踏会なので何かあっても逃げやすいはず


「ふむふむ…つまり俺達は、アイデアマン的な意味で期待されてるってことで合ってる?」

「いや、お前の場合は芸人路線じゃないか?」

「まぁどっちもですかねぇ。あと…その“腰の物”にも、少しねぇ。」


 ホリタは赤池の腰に下げられた短剣に目を向けた。


「…なるほど、腕っぷしも重要ってことか。どうやら物騒な案件らしいぞ、アカイケ。」

「ほほぉ、そこで俺らに目を付けるとはお目が高い。貴族でもない商人にボディーガードが必要な状況か…じゃあ結構儲かるんだ?」

「まぁ確かに儲けもいいですが、真の目的は…金では無いんですわ。」

「真の目的…?」

「力になりたい人がいやしてね。その方がその晩、王子から婚約破棄されるってな噂があるんですわ。」

「おっと、出たな“婚約破棄”!もしかして、その人ってば…『悪役令嬢』!?」


 『悪役令嬢』とは、乙女ゲームなどでヒロインにいじわるする敵キャラであり、「オーッホッホッホ!」という高笑いが似合う感じの高飛車な令嬢。そんな悪役令嬢の立ち位置は“ライバル”というより“かませ犬”。最終的にはヒロインに敗北して悲惨な末路を辿るのがお約束となっている。

 多くのケースで王子様の婚約者である悪役令嬢が、ヒロインに心変わりした王子に婚約破棄されてしまい、追放されたり殺されたりする…という、悪役令嬢に本来訪れるはずの断罪イベントをなんとか回避するべく奮闘するというのが、『悪役令嬢系』の基本パターンである。


「へ?いや、確かに一部には感じの悪い令嬢はいやすが、悪じゃなく悪“役”…ですかい?」

「またラノベの知識か?説明しろよアカイケ。」

「オッケー。あ、でもその前に…」


 赤池はホリタにも意味がわかるよう、自分が異世界から来たことをまず簡単に説明した。

 普通に考えたらあり得ない話だが、理解しようという姿勢を見せたホリタ。なかなか懐の深い奴だ。


「てなわけで色々知ってるんだけど、そんな俺がラノベで読んだ範囲だと、“断罪イベントを回避しようと動いた結果、婚約破棄されずに王子と結ばれる”、“逃走して敵国の王子あたりと結ばれる”、“うまいこと無事に婚約破棄されて田舎でスローライフ”みたいなパターンが多かったかな。」

「んー、相変わらず突飛な話ではあるが…それを言っちゃ始まらんしなぁ。」

「でも確かに、物語に出てくる悪役にスポットを当てたなら、もしその悪役が自分に訪れる未来を知ったなら、そんな展開になっても…って気はしやすねぇ。」

「お、おぉ…凄ぇなアンタ。今のを聞いて鼻で笑わねぇとは…」

「いや~、“自分が理解できない”って理由で何かを拒絶してたら、新しい商材とは出会えんですからねぇ。機会損失ですわ。」


 ホリタは思いのほか信念を持った商人のようだ。

 “王室御用達”という肩書きは伊達じゃないらしい。


「で?話を戻すと、その助けたい人が婚約破棄されるのをどうしたいわけ?破棄を止めたいの?それとも無事に逃がしたいとか?」

「ま、後者ですかね。その方は、王子のことが好きではないようですから。」

「なるほどそのパターンね。ところで、ホリタンはなんでその人を助けたいの?」

「危ないところを救ってもらいやしてねぇ。人と人とを物で繋ぐ商売人としやしては、人に受けた恩は返せる時に返したいなと。」

「ホリタン…なんかカッコいいね。顔の造形はさておき。」

「アッシ、恩と同じくらい恨みも返すタイプでやす。」


 ホリタは目が笑ってない。


「だがよアカイケ、コイツに協力するってことは王子と反対側につくわけだろ?そうなると本来の“王や王女とパイプ作りたい”って主旨からはズレてくるぜ?それに危険も伴う。」

「あ~気にしない気にしない。俺、わざわざ遠くまでラーメン食べに出かけて、途中で寄った靴屋で靴買って帰ってご満悦なタイプだから。」

「あ~~…なるほどな。“パイプ作りたい”じゃなくてその先にある“なんか楽しそう”が目的だから、それ以上に魅力がある話にならスパッと切り替えられる…ってわけか。ま、得な生き方かもな。」

「ですが、身の危険が伴う件に関しては?」

「ああ、ワクワクするな!」

「こういう奴なんだわ。」

「フフッ…見込んだ通りの方で何よりでやす。」

「そうか、そんなに酷い会話してたか。まぁそりゃそうか。」


 ウエイダは急に恥ずかしくなった。


「ではそろそろ、事の詳細を…お話ししやしょうか。」



 そして―――



「捜せ!こっちに来たはずだ、なんとしてでも見つけ出せ!」

「絶対にパーティー会場に近づけるな!最悪、生死は問わん!」


 そこはとある宮殿の中。衛兵達が、血眼になって誰かを捜している。

 その相手はもちろんコイツらだ。


「ゼェ、ゼェ、なんとか、撒いたか、植田…?」

「ハァ、ハァ、くそっ!どうして、こうなった…!?いや、まぁ理由は…わかるんだが…」


 柱の陰に隠れ、なんとか難を逃れた赤池とウエイダ。

 謎の商人ホリタの案内で仮面舞踏会に参加するはずが…どうやら既に、何かしらやらかしてしまった後のようだ。


「えっ、わかるの植田!?何が悪かったんだ!?」

「そりゃお前…どう考えてもお前の格好だろ。」

「馬鹿な!ちゃんと仮面してただろ!?」

「仮面“だけ”だったからだよ!どこの世界に貴族の社交界に半裸…ほぼ全裸で乗り込むド変態がいる!?」

「フッ…ここに?」

「まぁそうだけども!この状況でなんで自慢げでいられるんだよお前!?」


 今はマントを羽織っているが、その下はマッパの赤池。

 なぜそうなったのかはとりあえず後回しだ。


「でもマズいな…。ホリタンは俺らに、“盛り上げるための奇抜なアイデアや仕掛け人”を期待してたよな?」

「まぁ確かに、抜群に奇抜ではあったが…」

「ほぉ、つまりまだワンチャンあると?」

「無ぇだろ。どう前向きに考えても失敗なのは揺るがないだろ。だが…」

「ん?どうした植田?」

「少し、解せないことがあるんだ。王家主催の舞踏会…そんな重要なイベントの仕切りを任されてるって割に、あのホリタって男…やけに俺らを野放しだった。お前の暴挙を止める気配も無かったってことは…」

「つまり、それこそが求めてた動きだったってことか?」

「ああ、そう考えると合点がいく。そもそもがおかしな話だったろ?見るからに怪しい俺らに…そんな重要なイベント任せるか?最初っから俺達には、場を引っ掻き回すことを期待してたとしか思えない。」

「ふむ…なるほど。じゃあ目的は“断罪イベントの回避”かな?婚約破棄を止めたいんじゃなくて無事に逃がしたいとか言ってから…“即処刑”って状況なのかも。大変じゃん!」

「今や他人事じゃないがな。俺らも捕まったら即処刑だぞ。」


 こっちは“かも”じゃ済まない。


「けどまぁ、そういうことなら目的は達したんじゃないか?この騒ぎじゃ舞踏会もお開きだろ。」

「…いいや、そう簡単じゃないかも。」

「ん?どういう意味だアカイケ…?」

「前にお前も言ってたろ?『強制力』ってやつだよ。未来を変えようとすると、変えさせまいと謎の力が働くケースがあるんだ。」

「なっ…じゃあ…!」

「行こう植田!悪役令嬢の子が危険だ!」




「…よって、今この場で…お前との婚約を破棄する!」


 響き渡る、恐らくは王太子と思われる男性の声。そしてざわつく舞踏会場。

 どうやら残念ながら、赤池の悪い予感が当たってしまったようだ。


「ッ…!」


 衛兵に囲まれ、逃げ場のない女性。状況的に、彼女が例の悪役令嬢なのだろう。

 周囲を取り囲む人垣が高すぎてその表情は見えない。


「どうした?黙っててはわからぬだろう?申し開きはないのか?」


 令嬢に詰め寄る王太子。

 一斉に武器を構える衛兵。


 その時―――


「待ぁーーーてぇーーーーー!!」


ズザァーー!!


 人垣を超え颯爽と現れ、王子と令嬢の間に降り立ったのはもちろん赤池。

 ウエイダの姿は見えない。


「貴様は先ほどの…!一体何者なのだ!?」

「フッ、俺か?いいだろう教えてやろう王子様!何を隠そう…」

「いや、まず前を隠せ前を!」


 赤池は見事にマントがはだけている。


「危なかったなお嬢さん。でも俺が来たからにはもう大丈夫だ。」


 全然大丈夫じゃない格好で振り返る赤池。


「えっ…?」


 そんな赤池の姿に言葉を失う令嬢。

 だがそれは、格好を見てのことではなかった。


「ん…?」


 そして、赤池も何かに気付いた。


「んんっ!?」


 赤池の視線の先…そこに立っていたのは、真紅のドレスに身を包んだ―――



「あ…荒ちゃん!?」



「アッキー!!」


 盟友、荒畑だった。

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