【02】異世界召喚されよう
「俺、異世界転生しようと思う。」
とある大学の学食で、友人の植田にそう言い放った青年の名は赤池。特に目立った特徴の無い中肉中背の普通の男子だが、第一声が普通じゃないのできっと中身は普通じゃない。
「…オーケーわかった、詳しく聞こうか。」
そんな普通じゃない赤池の発言を、なぜか聞き返すことなく受け入れた様子の植田は、スラリと背が高いクールな印象の青年。シャープな眼鏡がキラリと光る。
「ほら、俺達ももう三年じゃん?来年卒業じゃん?就職しなきゃじゃん?でも今のご時世、就職って色々と大変じゃん?だったらもう異世界しかないかなって。」
「お、お前…マジか。」
「ああ、マジだ。行くよ異世界。」
「いや、“頭大丈夫か”って意味で言ったんだが。」
もしかしたら何かの間違いかと思い聞いてみた植田だったが、間違いなく間違っていることがわかったため、とりあえず罵倒するしかなかった。
だが赤池はそんな植田の反応が納得いかないようだ。
「ん~、相変わらず察しの悪い奴め。なんでわかんないかなぁ?ビックリだわ。」
「俺からすれば今ので詳しく説明したつもりなのがビックリなんだが。」
「普通わかるだろ?何がわからないんだよ?」
「就職が大変、まではわかる。俺もそう思う。だがそこからなぜ異世界に飛ぶのかがわからん。」
「そこはお前、これから二人で考えるんだよ。一体どうすれば…」
「いや、そうじゃない。“なぜ話が飛ぶんだ”って意味であって、“異世界への飛び方”については議論してない。」
「だったらどういう意味なんだよ?異世界の何が駄目なんだ?」
「んー、そうだなぁ…とりあえずお前はもっと段階を踏めよ。“ホップ・ステップ・異世界転生”みたいな飛躍はおかしいだろ?少しずつ段階を踏んでいけば、“異世界”って単語が出てきた時点でおかしいことに気づくから。まぁ就活厳しいし、現実から目を背けたくなる気持ちもわかるが…」
「うわっ、出たよ“現実”!まったくお前は現実現実っていつも…。じゃあさ、大人は夢を見ちゃいけないってのか?毎日満員電車に揺られて、やりたくもない仕事してさ、家と会社の往復で一日が終わる…。まだ二十代も始まったばっかだってのに、もう諦めるなんて早くね!?いいだろうが夢ぐらい見たって!だから異世界、行こうぜ!」
「違うんだ、違うんだよそうじゃないんだ。途中までは…いや終盤まではとてもよくわかるんだ俺も。大人だって夢を見てもいい。むしろ見るべきだ。だがお前の夢はなんというか、“寝て見るやつ”なんだよ!“現実の先にあるやつ”じゃないんだよ!」
植田は自分が悪いような空気にされたのが耐えられなかった。
「つまりお前は、俺には異世界転生はできないと…そう言いたいのか?」
「当然そう…なんだが、生半可な説明じゃ納得しないよなお前は。いいだろう付き合うよ。いつものように完膚なきまでに論破してやる。」
どうやら赤池はいつもこんな感じらしい。
「ときに赤池、お前の異世界転生についての知識ってどうせラノベからだよな?」
説得モードに入った植田は、赤池を理詰めで納得させるべく情報の整理から入った。
「あぁ、そうだよ。たくさん読んだからな、事前調査はバッチリだぜ!」
「フィクションの情報をいくらかき集めても…いや、言うまい。まぁ俺も結構読んでるし、ある程度は語れるつもりだ。あくまで俺個人の意見だから間違いや偏見は大いにあり得るが、そこはまぁ勘弁してくれよな。さて…」
植田は深く深呼吸すると、赤池の目を見て一息でまくし立てた。
「一般的に、異世界ものは『異世界転移』『異世界召喚』『異世界転生』の三パターンに分けていいはずだ。ざっくり言うと、今の自分のまま異世界に迷い込むのが『転移』、誰かに呼ばれるのが『召喚』、死んで別人として生まれ変わるのが『転生』って感じでいいと思う。つまりお前は一度死にたい…でいいんだな?」
「ごめん植田、俺はたまに言葉を間違える時がある。『召喚』か『転移』でよろしく。」
「わかればいい。じゃあ聞くが、お前は『召喚』とか『転移』の特徴ってどんなのが浮かぶ?」
「え?そうだなぁ…『召喚』は王族とか魔法使いとかに呼ばれるやつで、『転移』は…“気付いたら異世界”って感じが多いイメージじゃね?」
「確かに。あとは神様的な存在が介入するパターンもあるよな。事故死、過労死、刺殺…あたりから入るのは『転生』か。」
「んー、つまり『召喚』にしろ『転移』にしろ、自分でどうこうできる話じゃないってことか?」
「ま、残念ながらそういうことだ。だから諦め…」
「なるほど、確かな方法が無さそうなのはわかった。だったら次は、確率を上げるには何をするか…だろ?」
論破し終えたつもりの植田に対し、むしろ話はこれからだと言わんばかりに問いかける赤池。
植田は意味が分からず困惑している。
「へ?お前何を言って…」
「傾向だよ傾向!これまで俺達が見聞きした数々の異世界もの傾向を分析すれば、どんな人間が異世界に飛ばされやすいか…わかるんじゃないか?」
赤池のドヤ顔を見て、植田はやっと彼の真意に気付いたようだ。
「なるほど、そこに活路を見出しちゃったか。じゃあまぁ…思いつく限りの特徴を挙げていこうか。」
普通なら「何を言っているんだ?」で済ませる話だが、面倒見のいい植田はそうはしなかった。
むしろ、こんな赤池を全力で論破することに生き甲斐すら感じていた。
「あ~、まずは大きく次の二つに分けられるかな。ズバリ、異世界で元の世界で培った能力が活きるか、特に関係無いか。前者は主人公が現代科学やサバイバル、料理なんかの知識を持っていて、それが異世界で重宝がられるパターン…言い換えれば“呼ばれるべくして呼ばれたパターン”だ。」
「なるほど、じゃあまず異世界で役立ちそうな能力を手に入れろと?」
「いや~、難しいだろうな。仮にどんな能力が必要かわかったとしても、異世界で通用するほどに高めるのは大変だぜ?そもそも、そういうのが無理だから異世界なんだろ?」
「確かにそうだな。ならこの世界の…現世の能力とか経験とは全然関係なく、行った先でチート能力を手に入れる感じのやつで。」
「了解。じゃあ次に、異世界ものの主人公にありがちな…まずは職業からいくか。俺のイメージだと、社畜SEかニートって印象が強いな。だから年齢は三十代くらいとか…まぁニートなら十代からアリか。」
「なるほど、じゃあ俺はニート…はちょっとカッコ悪いから、社畜SEを目指せばいいのか。」
「いや、社畜は狙ってなるもんじゃないし、そもそも就活したくないから異世界って話だろ?お前さっきから前提がブレブレだが大丈夫か?」
「次、見た目は?」
「スルーか…。まぁそうだなぁ、見た目か…でも現世の見た目の良し悪しについて言及されるケースって少なくないか?漫画版なんかは大体陰になってるだろ目元とか。」
「そう言われりゃそうかもな。ちなみにさ植田、俺の見た目って…どうよ?」
「まぁ良くも悪くもない普通な顔だな。で、いいんだよ普通で。異世界ものの主人公なんてさ、例えばデスゲーム系の漫画なんかに出たらきっと序盤のゲーム説明あたりで殺されるぜ?現世でモブだからこそ異世界に夢見るんじゃないか。」
「お前…俺のことをそんな目で?」
「…い、今のは言葉のアヤだよ気にするな。とにかく!見た目に関しては大丈夫だと思う。自信を持て。」
赤池は若干釈然としなかったが、細かいことにこだわり続ける集中力も無いため話を進めた。
「えっと…つまり、結局どういうこと?俺は異世界に行けるのか?どうなんだ?」
「色々話して混乱してきたか…。じゃあ一旦ここで整理しようか。まずお前が目指すのは『召喚』か『転移』。現世の能力が関係ないパターンで、異世界に行ったらチートな能力が発現する展開を期待する。職業や年齢はセーフ。見た目も範囲内だと思う…こんな感じかな。」
「おぉ、なんか段々と現実味を帯びてきたな。」
「異世界に行こうって話に現実味も何もないと思うが…まぁ今さらか。」
「んー、でもやっぱチート能力のところがちょっと心配だなぁ。なんか運任せみたいで不安だわ。」
「まぁ確かにそうだが大丈夫じゃないか?何の救済も無い異世界ものなんて見たことないし。きっとお前を勇者たらしめる最強の能力が目覚めるって。」
「えー、でもそんな都合良くいくかなぁ?」
「それ言い始めたらお前、これまでの話の根底が揺らぐからやめようぜ。都合良く異世界行こうとしてるんだからさ。」
「俺のためのチート能力か…一体どんなやつだろ?」
「そうだなぁ、例えば本来一人一属性しか覚えられないはずの魔法をなぜか全属性使えたり、初級魔法が超上級魔法並みの威力だったり、最強の武器に選ばれたり、詠唱が必要な魔法を詠唱無しで使えたり、レベルとかステータスとか適正値的なのが異様に高かったり、そしてそれらの“根拠が一切無い”ってのが特徴だよな。なんの理由もなくべらぼうに強い。」
「そうだよなー。言われてみりゃなんでなんだろ?もっとなんか、裏付けみたいなやつがあった方が説得力が…」
「だからそれがさっき却下になった“呼ばれるべくして呼ばれたパターン”だろ?“現世の能力関係ないパターン”はむしろ、根拠があっちゃ駄目なんだよ。多分だが、読んでる側が“もしかしたら自分も…”と思える設定なのがいいんだろうな。自分と状況が乖離しすぎてると感情移入しづらいのかも。」
「あ~、確かにそれあるかも。自分も行けるんじゃないかって思うと、“じゃあどうやって行くか”とか“自分だったらどう行動するか”とか考えてワクワクするよな!」
「まぁ今まさにそういう話してるしな。」
「そうなると…俺は努力する必要無いってことか?どうせ能力もらえるんだし。」
「あぁ、そうなるな。いやむしろ…努力しちゃ駄目なのかもしれん。」
「ほぉ…詳しく聞こうか。」
「なんだよその“悪くない条件を提示された悪役”みたいなリアクションは?」
「いや、今後そんなシーンにも出くわすかなと思って。」
「なんで悪役側なんだよ。異世界飛んで悪役側に回るってあんまりないだろ。しかもそんなすぐやられそうなキャラに。」
「まぁいいじゃんか、話を進めてくれよ。」
「あぁ、うん。つまりさ、お前が目指そうとしてる“なぜか最強”のキャラって、さっきも言ったが現世では普通ないし普通以下の奴なんだよ。“現世の自分に不満がある”⇒“変わりたい”⇒“でも努力はしたくない”⇒“でも世の中そんなに甘くないのはわかってる”⇒“じゃあ異世界でならいいんじゃね?”って発想な。」
「ハァ?なんだよそれ駄目人間じゃん。しょうがない奴らだな。」
「お前、なんで今こんな話してるか覚えてるか?むしろその駄目人間の代表格だからなお前?」
赤池は自覚が足りない。
「人間って無意識に順序付けする生き物だからさ、駄目な人間見て“コイツなら勝てる”とか勝手に思うわけよ。で、夢見がちな奴の多くは“自分は特別良くはないけどそこまで悪くもない”って謎の自信があるわけ。つまり、そういう奴が“コイツにできるなら俺も”って感じるような奴こそ…」
「異世界行きに向いてる人間…ってことか。」
「俺はそう思う。そしてお前は向いてると思う。」
「そうか、俺は向いてるのか…!良かった!」
赤池は深く考えるのが苦手だった。
「というわけでお前には可能性がある。でもそれだけじゃ駄目かな、まだ候補者が多すぎる。もっと他の要素を挙げてこうぜ。」
「じゃあ次は…性格?」
「性格かぁ…まぁこれも“普通”なんじゃね?“現世の能力関係ないパターン”の奴らは社畜SEかニートだから基本コミュ障…かと思いきや、異世界行ったら結構すんなり溶け込むあたり、意外と適応力はあるタイプが向いてるのかもしれん。」
「つまり俺は…どうよ?」
「まぁ物怖じしないって意味では向いてるんじゃないか?お前は愛嬌だけは半端ないし、人に嫌われるタイプじゃないからな。大丈夫だ。」
「そうなると、あとは…境遇?身の上とかそういうのも関係すんのかな?」
「わからんが…とりあえず、“いなくなっても困らない”ってのはあるんじゃないか?結構みんな現世に未練無いよな。家族とか友達とか、待ってる人がいるなら普通あんなにスッパリ無かったことにできないだろ。」
「う゛…そういう意味だと、俺はちょっと厳しいかもしんない。」
これまで自信満々だった赤池が、急に不安な表情を見せた。
やっと植田が求めていた流れになったようだ。
「と、いうわけで…だ。残念ながらお前の異世界行きは難しいってことがわかっただろ?お前みたく捨てられないものが現世にある奴は、まぁ選ばれねぇよ。いちいち気になられちゃ異世界での活動にも支障が出るしな。」
「で、でも俺は…!」
「いや無理だろ。両親とも普通に仲いいし。」
「そうなんだよなー。結構幸せ者なんだよなー俺。」
「まぁ妹にはクソみたいな扱いされてるけどな。最低2メートルは離れろとか。」
「そ、そんなことない!シズカは…妹は…」
「妹は?」
「…暑がりなんだよ。」
「お前…今日イチで目を背けたな、現実から。」
「でもその割に見えねーなー…異世界…」
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【02】異世界召喚されよう
「俺、異世界召喚されようと思う。」
再び大学の学食で、友人の植田にそう言い放った青年の名は赤池。
前回論破されてからまだ三日しか経っていないわけだが、どうやらちっとも懲りていないようだ。
「…オーケーわかった、詳しく聞こうか。」
そんな相変わらずな赤池の発言を、やはり聞き返すことなく受け入れた様子の植田。今日も眼鏡がキラリと光る。
「ほら、前に異世界行きについて色々話したじゃん?結構イイ線いってたじゃん?あと一歩だったじゃん?一歩ってもう無いようなもんじゃん?だったらもう、ほぼ異世界なのかなって。」
「お、お前…マジか。」
「ああ、マジだ。呼ばれるよ異世界。」
「いや、今日も“頭大丈夫か”って意味で言ったんだが。」
もしかしたら何かの間違いかと思い聞いてみた植田だったが、やっぱり間違いなく間違っていることがわかったため、結局罵倒するしかなかった。
だが今回は、赤池なりに少しは考えた上で来ているようで、簡単には引き下がらなかった。
「あのさ、前に植田…異世界ものの主人公って結構みんな現世に未練無いとか言ったじゃん?でもよく考えたらさ、『召喚』の場合はそうでもなくね?“早く魔王を倒して元の世界に戻るんだ”的な感じ、普通にあるよな?」
「ああ、“現世に帰るのをモチベーションに頑張るパターン”な。この前は話が発散しないよう除外したんだが…確かに『転生』や『転移』と違って、『召喚』には呼ぶ側に明確な目的があるもんな。呼んだ人間の願いが叶ったら帰れるとなれば、家族を捨てるほどの覚悟は要らないと…お前はそう言いたいんだよな?」
「おー、なんだよ今日はやけに察しがいいじゃん。」
「なんか察しが悪いって言われるより逆にムカつくんだが…まぁいいや。でもさ赤池、それだと本末転倒じゃないか?頑張って就職したくないから異世界に飛ぶんだろ?下手すると想像を絶する試練が異世界で待ってるぞ?」
「でもどうせチート能力の助けがあるだろ?んで、世界を救うほどの偉業を成した俺なら、こっちの生活なんてきっと楽勝じゃん?」
「いや、でも戻ってきたら多分チート能力は消えちゃうぜ?仮に消えなかったとしても、異世界を救うほどの暴力的な力はこの世の中じゃ使いどころないだろ。」
「そ、それじゃ…あれだよ。世界を救うまでの努力とか経験とか、そういうのが活きるみたいな…」
「だったら今その努力をしろよ。異世界で命懸ける覚悟があるんなら、今から数年頑張るくらい訳ないだろ。」
「そこはお前、それこそモチベーション的なものが要るだろ?巨乳の王女なんかに抱き着かれて“助けてください勇者様”とか言われてこそ、じゃあ頑張ろうかなって気になるんだよ。なんとかしてあげたいなーって。なんとかしたいなーって。」
「いや、なんだよその手つき?それ絶対なんとかしたい対象は王女の巨乳だろ?」
「と、とにかく!俺は異世界に行きたいんだよ!今の人生は別に嫌いってわけじゃないけど、このままいったら普通じゃん?普通すぎるじゃん?俺は…俺は嫌なんだよ!そんなどこにでもいるような、“普通の人”で終わるのが!」
「いや、そんなことないって。お前は…」
「気休めはやめてくれ!」
「お前は現時点でもう普通じゃないぞ。お前みたいなのがそんなどこにでもいたら世界滅ぶぞ。」
「やっぱ気休めをくれ!そんな真顔で言われるとさすがの俺でも傷つくぞ!」
赤池は意外とナイーブだった。
「んー、まぁ面倒だが仕方ない。どうせガッツリやらないと納得しないだろうし…“異世界で目的を遂げたら帰ってくること”と“現世でプラスに働く何かしらを異世界で得ること”を目標に、一回ちゃんと考えてみるか。」
「おぉ、さすがは植田!“神が見捨てた者すら見捨てない男”の異名はダテじゃないな!」
「な、なんだよその異名?俺そんな風に呼ばれてんの…?」
「あ、知らない?この学校じゃ結構有名だぜ?」
「だったらその“神が見捨てた者”って絶対お前のことだからな?」
赤池もかなりの有名人だった。
「ときに赤池、お前の思う『異世界召喚』ってのはどんな感じだ?思いつく限り挙げてくれよ。」
なんとか気を取り直し、説得モードに入った植田は、今回もまた赤池を理詰めで納得させるべく情報の整理から入った。
「んー、やっぱ前にも言った通り王族とかに呼ばれる印象が強いなぁ。主人公が目を覚ますと、王族とか兵士に囲まれた魔法陣の中…みたいな。」
「そうだな。なんならもうそれしかないってくらいだわ。実際は他にもあるんだろうけど、まぁ今回はその王道を軸に考えるか。」
「考えるってのは、どうやったら行けるかってのの続きからか?それとも行った後から?」
「まぁ後者でいいんじゃないか?前回の考察でお前には適性があるってことにはなったし、あとは召喚してくれる側に委ねるしかないだろ。前提として“現世では努力しない”ってのがあるわけだから、こっちがこれ以上できることは無いよ。」
「そうか…じゃあいよいよ巨乳王女の出番だな。」
「なぜそうなるのかわからんが…というか王女って結構ほっそりしてるイメージないか?バインバインなのは王妃とか男勝りの女戦士長とか…」
「ハァ…これだから素人は困る。ピッチピチってわけでもない服の上からあんなに乳の形が浮き出る時点で、もうみんな巨乳なんだよ!贅沢言ってんじゃねーよ!」
「いや、アニメ化とかコミカライズされたやつ基準で言われても困るんだが…。というか俺が素人ならお前は一体何のプロなんだ?」
「いいから!巨乳の話なんてしてる場合じゃないだろ?早く先に進んでくれよ!」
「な、なんだか凄まじく釈然としないが…チッ、諦めよう。んー、まぁまずはやっぱり、魔法陣から出現してからの対応じゃないか?お前ならどうするよ赤池?」
「フッ、俺に任せてくれ国王よ…この俺が、なんとかしてやる!!」
「早いなオイ!まずは話くらい聞けよ。せめて“かくかくしかじか”ぐらい言う時間はくれてやれよ。すんなりいきすぎても相手も戸惑うぞ?もっとこう、それっぽくできないのかよ?」
「う゛っ、うぅ…こ、ここは…?えっ、なんだよここ…夢…?」
「おぉいいぞ、それっぽい。じゃあ…よく来たな勇者よ。我が名は…えっと…ナントカ王国のエラーイ王だ。」
「プッ、ウケる。」
「ハイ斬首。お前は王を怒らせた。あと俺を。」
「すまん、ちょっと調子乗った。ちゃんと真面目にやるわ。」
「いや、真面目にって言うならこの話が丸ごと無くなるが。」
「ハハッ、なにこれドッキリか何か?それともやっぱり夢なのか?でも夢にしちゃ妙にリアルな…」
「続けるのか…。えー…理解できぬのも無理はない。お前は魔王を…魔王ユーザックを倒すため、我々が異世界から召喚したのだ勇者よ。」
「えぇっ、なんだって!?まったく関係のない異世界の人間である俺を勝手に呼んだだけじゃなく、国の存亡の危機とかいう非常事態に巻き込んだ上に第一線で命まで懸けろだって!?」
「はいカーーット!気持ちはわかる。正論だと思う。実際そんな流れになる作品も多い印象だが、基本はそれ言っちゃ駄目だろ?理不尽だと思いつつもなんとかするのが呼ばれた者の宿命だろ。」
「でもさ、俺…そして他の主人公達もだけど、どう見ても戦闘には向かない若造じゃん?しかも普段着じゃん?そんなのが出てきて、よく一瞬で見限ったりしないよなーって思わね?」
「それは…あれじゃないか?見た目とかじゃなくて、かつて異世界から勇者が現れて世界を救ったと伝承に残されてる…とか?」
「あー、伝承かー。それ持ち出されたら確かに信憑性上がっちゃうわー。異世界で伝承と長老的なジジババの言うことは侮れない。」
「あ、ちなみに現世への帰還については、“帰ろうと思えばすぐにでも帰れる”、“目的の敵を倒せば帰れる”、“帰る方法が無い、または知らない”の三パターンがあるかと思うが、今回は帰れるのが前提だから最後のは無しな。まぁわかりやすく二番目のにしようか。」
「なっ、魔王!?その魔王ってのを倒さないと、元の世界に帰れないってのか!?でも俺には、そんな奴に勝てる力なんて…」
「唐突に続けるなぁ…。だ、大丈夫です勇者様。異世界からの勇者様は、特別な力を持って現れると伝承に…」
「おっ、やっぱりきたな伝承!そしてその声色の感じ…王女か?つまり巨乳の王女か!?」
「そうです私が王女です。王女の身でありがなら、戦闘要員または回復要員として勇者と共に最前線へと乗り出します。」
「あー、そういえばそうだよなー。王女なのに結構危険なポジションに…」
「では勇者様。まずはこの古代の謎アイテムで貴殿のステータスを調べさせてくだされ。」
「え、その口調…誰?」
「魔法庁長官のマホーンでございます。」
「いそう!そしてありそう魔法庁!」
「なっ、そんな…魔法ランクがS…?宮廷魔法騎士団長でさえAだというのに…」
「そ、そうなのか…!俺には、そんな人並外れた能力が…!」
「して、勇者よ。世界の命運…頼めるか?」
「ああ、もちろんさ王よ!行って俺が…魔王を倒してやる!!」
赤池は立ち上がり、豪快にガッツポーズを決めた。
「…とまぁ大体こんな感じだと思うんだが、一つ俺達は大事なことを忘れてたなぁ赤池。」
「え…?大事なこと…?」
「ここ…学食だったな。」
「ああ、みんなメッチャ見てるな…」