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【18】スパイダーズ・ネット

 『夢絵本』の情報を探すべく、怪しい裏サイトを調査するため植田達が訪れたのは、平針が所属するゼミ。そこで彼らを待ち受けていたのは、いかにも癖が強そうな男…東別院教授だった。


「あ、大丈夫だよ平針君。僕はあくまで観測者…余計な口出しはしないから安心して。僕のことは無視でいいから。部屋にたまたま置かれてた、勝手に髪が伸びる呪いの市松人形か何かだと思って。」

「いや、そんなのが身近にあったら目ぇ背けらんねッスから。全然大丈夫じゃねぇから。ハァ…マジやりづれぇわー…」

(ど、どうする平針?やっぱ場所変えるか?)

「いいよ、気にするな植田。お言葉に甘えて程々に無視しようぜ。」

「あ~、そういう扱いでいい人か。じゃあそれでいこう。」


 教授は適当に扱われても怒らないタイプらしい。


「あぁ、そうそう…西高蔵君にも声をかけているよ。」

「マジっすか。無駄にグイグイくる中に、たま~~に無駄じゃないのがあるよッスよね先生って。」

「バリー、西高蔵さんって…裏サイトの情報源だっけ?」

「ああ。俺も実際会ったことはないんだがな。今日もオンライン会議ッスか?」

「そうなるね。待ってるはずだから、早速繋ごうか。」


 教授はノリノリでオンライン会議ツールを起動した。

 すると程なくして、『NiSHi』というユーザーがログインしてきた。

 小奇麗にしている教授とは異なり、伸ばしっぱなしの髪に無精ヒゲと、そこそこ小汚い感じのオッサンだ。


「やぁ西高蔵君。キミはアレだね、相変わらずな感じだね。」

「うるせぇよ、ブチ殺すぞセンター分け童顔刈り上げ中年。とっとと本題に入りやがれ。」


 どうやら教授と西高蔵は対等な関係のようだ。

 西高蔵の口が悪いのか、日頃の教授がよっぽどなのかは微妙なところだ。


「さぁ始めてくれたまえ。あ、繰り返すけど僕のことは無視してね。カーペットをめくったらガッツリ畳についてた、ドス黒い染みだとでも思って。」

「完全に誰か死んでんじゃねーか!絶対何かが出る事故物件じゃねーか!」

「あ~、諦めろ学生。まともに取り合ってたら日が暮れるぞ。無視して始めろ。」


 やっぱり教授はプライベートでもこんな感じらしい。


「あ、ウイッス。えっと…まずどうすりゃいいんスかね?こっちは裏サイトについて聞きたいんスけど。」

「あ?まぁ焦るな。お前らが『夢絵本』について調べてるって話は聞いてるが、そこに至るまでの話は聞いてねぇ。まずはその辺りから話してもらおうか。協力してやるかどうかは、その話が…面白ぇかどうかだ。」


 西高蔵はニヤリと笑った。


「面白いか…ねぇ。じゃあさ、ここは敢えてミクに話させるってのはどうかなウエピー?」

「いや、それお前目線で面白いことになるってだけだろ。普通にご破算になるから却下だ。」

「そ、そうだよムーちゃん。無茶振りは嫌だよ~。私は今日は借りてきた猫みたく大人しくし…あれ?もしかしてその猫って、“猫の手も借りたい”って言われて借りられてきた子…?でも忙しいのに大人しくしてたら役に立たないんじゃ…」

「いいから黙っとけ八事、その話は後だ。頼むわ植田。」

「了解。えっと、少し長くなりますが…」


 植田は順を追って話し始めた。




「…というのが、ここに至る経緯です。」


 そして十分に時間をかけて、これまでの一通りを話し終えた植田。

 西高蔵は複雑な表情を浮かべている。


「お前ら…マジか。」

「ええ、マジです。行きます異世界。」

「いや、“頭大丈夫か”って意味で言ったんだが。」

「でしょうね。そうでしょうね。そう言ってくれる方で良かったですよマジで。」


 どうやら西高蔵は見た目の割にまともなタイプのようだ。


「ま、イカれた野郎は嫌いじゃないがね。思ってたより面白そうな話で何よりだ。さて…じゃあ今度は俺が話そうか。」


 そう言うと西高蔵は、静かに話し始めた。


「この前話を聞いてから、俺なりに『夢絵本』について調べてみたんだわ。」

「あ、噂の裏サイトでッスか?確か『SπDERs-NETスパイダーズ・ネット』とかいう名前の…」

「ああ。『裏サイト』っつーより『裏ネットワーク』の方が正しいがな。」

「裏ネットワーク…?」

「会員制のやつでな、表にゃあ出回ってねぇ様々な情報が飛び交ってやがるんだ…が、なぜかそこでもお目当ての情報は見当たらなくてなぁ。諦めかけた頃…たまたま見つけたのが、このサイトだ。」


 西高蔵が画面共有で表示したのは、黒背景に赤文字のいかにも怪しいサイト。

 一昔前のホラー系のサイトにありがちなレイアウトだ。


「えー!もう探してくれたんだー!すっごい助かるありがとうニッシーさん!」

「いや荒畑、初対面の初絡みでいきなり愛称呼びってお前…」

「ハァ~?お堅いなぁウエピーは。別にいいよねぇニッシー?」

「別に構わねぇよ?こう見えて俺ぁ、グイグイこられたら結構簡単にボトルとか入れちまうタイプだぜ?」

「さ、さすがフォロワー一千万の女…俺の価値観じゃ測れないわ…」


 荒畑のポテンシャルは底が見えない。


「じゃあさじゃあさ、もうウチらは裏情報サイトは使うことないってこと?もしかして会費浮いちゃう?」

「あ~、残念ながらそうじゃねぇ。このサイトもSπDERs-NET内にあるからなぁ。アクセスするにはアカウントが必要だ。けどまぁ1アカウントあたり年間25万のサブスクだ、得られる情報の価値からしたら破格だぜ?」

「そうか、四人でちょうど百万…ギリギリだったなぁ。危ねぇ危ねぇ。」


 植田は百万円の札束を取り出した。


「へぇ…ガキのくせにやるじゃねぇか。だがそんな現ナマ持ち歩くなよ危なっかしい。そいつは東の野郎に渡しとけ、代わりに今回は俺の口座で決済してやる。」

「あ、ハイ。ありがとうございます西高蔵さん。」

「『ニッシー』でいいよ長ぇし。で?早速始めるんだろ?これからの流れを一通り説明してやる。面倒だから一度で覚えろ?」


 ニッシーの話を簡単にまとめると、大体以下のような内容だった。

 ・コミュニティ名は『~夢の彼方まで~』。

 ・活動内容は巧妙に隠されているが、夢絵本関連であることまでは調査済み。

 ・管理人のHNハンドルネームは『カミサワ』。

 ・その他の構成メンバーについては不明。

 ・コミュニティの参加には管理人による面談が必要。


「すっごーい!すっごいじゃんニッシー!伊達にいい歳こいて引きこもり感満載の見た目じゃないね!ねぇミク!?」

「うん!さすがのヒゲモジャだね!」

「お前らそれ…褒めてるつもりなんだよな…?」


 ニッシーのハートに200のダメージ。


「だが面談か…どう思うよ植田?通ると思うか?」

「まぁとりあえず、コミュ力の鬼…荒畑は大丈夫だろう。俺もまぁ手はある。お前は?」

「自信は無ぇなぁ。だがもっと危ういのは…」

「わ、私…だよね?」


 ド天然の八事でもさすがに自覚はあるらしい。


「隠ぺいされたサイトの管理人だ、どうせ曲者なんだろ?だがコイツに駆け引きとかできるとは思えねぇ。」

「大丈夫じゃない?ミク、オッパイおっきいし。」

「ちょっ、荒畑、テメェ何言って…」

「その話詳しく。」

「ニッシーは黙っててくれ。テメェも止めろや植田!」

「色仕掛けか…。なりふり構ってられない状況だし、アリなのかもしれん。」

「オイオイオイ…!」

「それが駄目なら…金か脅しか?元手が無いし金って線は無いから…」

「じゃあパパさん呼ぶとかどう?ミクだけ三者面談。」

「あ~、前に写真で見たが確かに尋常じゃなくイカつかったよな…。けど、あんなの出てきたら“三者面談”じゃなくて“反社面談”だろ。通報されるぞ?」

「んー、どうしよニッシー?」

「大丈夫だ、問題ねぇよ。面談のアポはもう取ってある。全員一緒だ。だから他の奴らでフォローしてやれ。」

「え…なにそれ気が利きすぎじゃない?マジでやるじゃんニッシー!惚れちゃう人とかいそう!」

「フッ、よせよ照れるぜ。その暗に“自分は違う”って言い回しもできればよしてくれ。」


 ニッシーはまたちょっぴり傷ついた。


「で?西高蔵君、面談の時間は何時からなのかな?」

「十五時だ。あとニ十分も無ぇ。準備はできてんだろうなぁ東ぃ?」

「フフッ、もちろん。人数分のPCとヘッドセットは用意してあるよ。」

「面談はコミュ内のチャットを使う。俺の方でアカウントは買っといてやるよ。ガキどもは今のうちに便所でも行っとけ。」


 頼れる大人達だった。



 そして―――


「よーし!じゃあみんな、いってみよっかー!」

「オイオイ、張り切りすぎて空回りすんじゃねぇぞ荒畑ぁ?」

「頑張ろうね、ウッちゃん!」

「ああ。あと…もう一歩だな。気を引き締めていこう。」




「ようこそ諸君。私がこのコミュニティの代表を務めている『カミサワ』だ。よろしく頼むよ。」




 緊迫の交渉が始まる。

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