【17】情報交換会
赤池を捜しに異世界へ―――
そんなイカれた目的のため動き出した、植田コウジ、荒畑ムツミ、平針ミキオ、八事ミクの四人。
行動開始から一週間が過ぎたため、情報交換のため再び学食に集まっていた。
「さて、またこうして集まってもらったわけだが…さぁ誰から話す?八事からいけるか?」
植田は三人に順に目を向け、一番何か言いたそうにしていた八事にまず声をかけた。
「あ、うん…あのねウッちゃん?ごめん、私…図書館いくつか回って調べたんだけど、でも何も見つからなくて…」
「あ~、そういう話か。まぁそうだよな、仕方ないさ。気にすることない。」
「ずっと…漫画とか読んじゃって…」
「やっぱりもうちょっと頑張れ。」
早くも一人脱落した。
「んじゃ、次はアタシだね。」
「ごめんねムーちゃん。私、家でも何もできなくて…」
「いいっていいって。アタシも大したことできてないしさ。」
「ずっと…動画とか見てて…」
「やっぱもうちょっと頑張って。」
「話が進まねぇよ!いいから八事は黙っとけ。別にもういいから。」
痺れを切らした平針は、荒畑に話を進めるよう促した。
「あ、うん。アタシはSNSでちょっと動いてみたよん♪」
「あ~、お前凄ぇやってるイメージあるわSNS。成果はあったのかよ?」
平針は期待に満ちた目で荒畑を見つめた。
「それがさぁ、アタシってSNSは色々やってるのね?んで、フォロワーもこんくらいいてさ。」
「ん?指一本…?一万…その言い回しだと十万とかかよ?」
「いや、一千万。」
「スゲーな!なんだよその人脈!?お前近々出馬でもすんのか!?」
「へぇ~、凄いねぇムーちゃん。もしかしてフォロワーに芸能人とかもいるの?」
「んー?芸能人はどうだったかなー?アラブの石油王ならいるけど。」
「石油王!!」
芸能人どころの話じゃなかった。
「な、なんかスケールが一般人のそれじゃねぇなオイ…」
「ああ。俺達は今、将来国とか動かすレベルの大物と話してるのかもしれないぞ平針。サイン貰っとくなら今かもな。」
大犯罪者の線もあるが。
「まぁそれはさておき、つまり荒畑は…一千万人に投げかけたってことだよな?」
「ん~、正確には正しくないかな。被ってる人もいるはずだから人数で言うともっと少ないし、死んでるアカウントもあるだろうけど、それでもまぁ百万人くらいには届いたと思うんだよね…本当ならさ。」
「本当なら…?どういう意味だよ?」
「すぐ消されたんだよ。夢絵本関連の投稿が全部…運営にね。」
「ッ!!?」
荒畑の意図に気付き、三人とも息をのんだ。
「SNSの削除依頼ってそう簡単にゃ動かねぇよな?それがすぐってことは…」
「ああ。金や権力のある人間が動いた…ってことか。」
「それはつまり…“石油王”ってこと?」
「いや、違うからミク。」
やっぱり八事だけ違った。
「なるほど、なんか急にキナ臭くなってきたな…。平針は?ゼミの教授に聞くとか言ってたよな?」
「あぁ、教授っつーより教授のツテで知り合った人がいてな。なんとなくそれっぽい話は聞けたぜ。」
「あっ!じゃあその人が…!」
「いや、石油王じゃねぇからな?一旦置いとけよ石油王は。一旦アラブに帰せ。」
終始迷走している八事。
一見邪魔でしかないようだが、馬鹿げた話を真面目に続けるのはどうにも息が詰まるので、場を和ますキャラとして意外と重宝していた。
「んで、その教授の知り合い…西高蔵さんが言うにはよぉ、なんか都市伝説系の裏サイトで、『夢絵本』って単語を見たとか違うとか。」
「裏サイト…?俺もお前らに話す前、ネットは色々調べたけどそんなのは出てこなかったが…」
「ああ。色々と情報求めてるって割に会員制らしくてな、普通に検索しても出てこねぇらしい。」
「会員制の裏サイトか~。確かにクサいね!やるじゃんバリー!」
「ま、あの教授に借りは作りたくなかったがな…仕方ねぇ。」
「あ~、変人って噂だもんねーアンタんとこの教授。いつか何かで返せって?」
「レポート出せってさ、異世界の。」
「えー、マジでー?そんなの名前付きで発表されちゃった日には…」
「ああ。だから俺、もし仮に行けたら…帰ってくるかわかんねぇや。」
「いやいやヤメてよ。そしたら今度はアンタを助けに行かなきゃじゃん。」
負のスパイラル待ったなしだった。
「まぁとにかく、一歩前進だよねっ!凄いね平針君!」
「あ~…そうでもねぇんだわ八事。それが少し…いや、デケェ問題があってなぁ。実はその裏サイト、会員になるには紹介だけじゃなく…結構な大金が要る。」
「え…あっ!じゃあ、ここで頼みの綱として…?」
「いや、石油王に頼るほどじゃねぇんだ。」
「ん~、お金か~。アタシその辺まで頭回ってなかったわー。バリーはいくつまでなら売れる?」
「あ?いくつって何をだよ?」
「もち内臓。」
「“もち”じゃねぇよ。普通にゼロだわ。」
早くも暗礁に乗り上げた…かに見えた。
ドンッ!
「百万ある。これで足りるか?」
なんと!植田が分厚い札束を取り出した。
見慣れぬ光景に周囲がザワついた。
「この一週間で用意した。出所は聞くな?」
「すっごーい!やるじゃんウエピー!あ、さては情報収集はしてなかったなー?」
「ああ。何をするにも先立つものは必要だからな。情報はお前らがなんとかしてくれることを期待して、俺は金策に走ったってわけだ。おっと八事、アラブは関係ないからな?」
八事は攻撃を封じられた。
「で、どうだ平針?これで足りるか?」
「あ…ああ、十分すぎるわ。お前も赤池とは違った意味でヤベェよな植田。」
「じゃあさ、早速アクセスしてみない?その噂の裏サイトってやつにさ!」
「そうだな。だが…場所は変えるか。」
荒畑の提案にみな異論は無いようだが、さすがに学食で続けるのはためらわれる内容だった。
「となると…どこ行こう?誰かの部屋?あ~、アタシんちは無理ね実家だし。ミクんとこも駄目だよね?確か男子禁制物件だった気が…」
「あ、うん…。ごめんね、結構厳しいんだ。前に外から眺めてただけで捕まった人もいて…」
「マジかよ、徹底してんなぁ。どうなったんだよそいつ?」
「今は…もう…」
「“もう…”なんなんだよ!?クソ怖ぇなその物件!マジでどうなったんだよそいつ!?」
「今は多分、異世界にいるんだと思う。」
「赤池か…じゃあ怖ぇのはアイツか…」
拘束は妥当な判断だった。
「ちなみに俺んちも無理だぜ?姉貴と二人暮らしでな、バレたら興味持たれて面倒臭ぇ。植田は?」
「俺はまぁ一人暮らしだが…少し遠いし部屋も狭いしなぁ。あそこはどうよ?平針のゼミの…東別院教授の研究室は?もう事情は知られてるわけだし、説明も簡単だろ?」
「ハァ?マジかよまた借り作らせる気かよ…?確かにあそこならハイスペックなPCもあるし、秘匿回線も引かれてるが…」
「一体何を研究してんだお前んとこ…?」
教授は学内でも変人として有名だった。
「ま、いいけどな。じゃあ早速行こうぜ、この時間なら教授はいねぇはずだし。」
「やあ平針君、そろそろ来る頃だと思っていたよ。」
研究室の扉を開けると、髪を真ん中分けて丸メガネをかけた、白衣の三十代後半くらいの男性が一行を出迎えた。
彼こそが噂の東別院教授であり、若く見えるが歳はもう四十を過ぎているのだという。
「せ、先生…いたんスね。いつもこの時間は出かけてると…」
「あぁ、聞いてた話から今日あたり動きがあると思ってね。直に観察したくて空けておいたんだよ。」
教授は勘を頼りにグイグイくるタイプだった。
「さ、じゃあいってみようか。僕が見ててあげるよ、隅から…隅までね。」
ヤバい奴にバレたっぽい。




