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【11】始まりの街(4)

「ど…どうすんだよノッポの兄ちゃん?死んじまうぜあのアホの兄ちゃん…?」


 赤池があまりに楽しげに飛び出していったため止めるに止められなかった武器屋の店主だが、やはりそのまま見捨てるのは気が引ける様子。片や、まだ出会ったばかりとはいえ仲間認定されてしまったウエイダの方は、気が引ける引けないでは済まない状況。まったくもって気は進まないが、助けに行くしかない。


「チッ、やれやれ…行くしかないか。」

「あ、ちょいと待ちな兄ちゃん!これ持ってきな!」


 ウエイダは謎の玉を手に入れた。


「こ、これは…『武具玉ブグダマ』か!?」

「ああそうだ。それ持って“変化ヘンゲ”と唱えると、何かしらの武器に変化するんだ。当たりだといいな。」

「オッサン…!恩に着る!」

「5銀な。」

「台無しだよクソ野郎!!」


 ウエイダは赤池を追って駆け出した。




「騒ぎ声がする方は…こっちか!」


 逃げ惑う人々と逆行しつつ、一路現場を目指すウエイダ。

 辿り着いた先で見たのは、身の丈3メートルはあろうかという巨大で醜悪な化け物…トロールだ。


「こ、こいつがトロールか…!んで、戦ってる奴らはギルドの連中か!?」


 トロールを取り囲むように五・六人の冒険者らしき男達が迎撃しているが、その三倍以上の人数が転がっている。どう見ても旗色は悪そうだ。


「って、アカイケの野郎はどうした…!?まさか、もう…」


 辺りを見渡しても赤池の姿は見当たらない。

 すでにグシャッと潰された後なのだろうか。


「こんなことならもっとちゃんと引き留めるんだった…すまないアカイケ…!」

「ん?呼んだ?」

「そう、もっと全力で呼び止め…ってアカイケ!?お前…生きてたのか!」

「え…駄目?」


 赤池は普通に生きていた。

 そもそもまだ戦ってもいない感じだ。


「まだ生きて…というか、なんで背後から現れたんだ?俺より先に出てったはず…って、まさか…!」

「フッ、そのまさかさ。」

「いや、そんなに気取って迷子の報告されてもな。」

「だって俺まだ来たばっかだぜ?道とかわかるわけないじゃん?そんな時は普通、他の人についていくじゃん?その結果…まぁ見事に逃げ切ったね。」

「そりゃそうなるだろうよ!ちょっと考えればわかるだろ!?いや、まぁ結果的には逃げて正解だったわけだが。」

「逃げて正解?じゃあお前は、アイツには勝てないって言うんだな?」

「そういうお前は…違うんだよな…。アレ見た上でまだそうなんだから、もう何言っても無駄なんだろうな…」

「ああ、俄然ワクワクするぜ!」


 ウエイダはガックリと肩を落とした。


「まぁ安心して見てろよ植田。全ての武器を装備できるほどの戦いの申し子たるこの俺は、きっと凄まじい戦闘力で敵をっふ!!」


 トロールの攻撃。

 赤池は壁に叩き付けられた。


「あ、アカイケェーーーー!?」


 ウエイダが慌てて駆け寄ると、助け起こされる前に赤池は自ら起き上がった。


「あ、あれ…?あんまり…痛くない…」


 ぶつかった壁は派手に壊れているが、なぜか生身のはずの赤池の方がダメージが小さかった。

 よく見ると、赤池の全身を謎の光が覆っている。


「ふぅ…ハラハラさせやがって。どうやら“キャパ範囲内”だったようだな…。あらかじめかけといて正解だったわ。」

「その言い回し…じゃあこれは植田が…?」

「ああ。俺の職業は『補助魔導士』って言ってな。一人じゃロクに戦えねぇサポート職だが、誰かと組めばそこそこやるぜ?」


 ウエイダは戦闘面でもデキる男だった。


「今のは防御力を上げる魔法なんだ。受けたダメージによって効果時間は変わるんだが…さっきの一撃でほぼ消し飛んだっぽいな。」

「でも一撃は防げるってことは、この魔法さえあれば…!」

「残念だがそう都合よくはいかないんだ。同じ魔法を連続でかけると、お前にかかる負担がデカくなるんだわ。ある程度間隔をあけないとまずい。」

「あ~、なるほど。確かに月一で振られるよりも、週一で振られた方が辛かったもんな。」

「なんで過去形なんだよ実施済みかよ。てかそれ振る方も辛いからもうやめてやれよな。」


 だが八事には振ってる自覚は無かった。



「さて…じゃあ気を取り直していこうか。植田、フォロー頼む。」

「お前、初っぱなあんな目に遭ってよくそのテンション保てるな。なんかイカれた呪いでもかかってんじゃないか?」

「防御の補助魔法はまだ無理なんだよね?だったらと…なんかスピード上げる系の魔法ってない?素早く動ければ攻撃食らわないのかなって。相手トロそうだし…トロールだけに。」

「ま、妥当な案だな。だが気ぃ抜くなよ?」


 ウエイダは魔法を唱えた。

 赤池の素早さが上がった。


「さぁいくぜトロール!食らうがいい、この赤池様の必殺の一撃を!」


 赤池は死角から全力の一撃を叩き込んだ。

 新品の剣はポキリと折れた。


「ええぇーーーーー!!?うわっと!」


 想定外の事態に困惑しつつも、なんとかトロールの反撃を回避した赤池。

 ウエイダの補助魔法のおかげでその後も神回避を繰り返したが、逃げてばかりでは勝ち目はない。


「くっ、こんなことなら、ケチらないでもっとちゃんとした武器を買っとくべきだった…!」

「すまん、それ以前に俺がもっとちゃんとした店に…ハッ!そうだ!」


 ウエイダは大事なことを思い出した。


「これを使えアカイケ!合言葉は“変化ヘンゲ”だ!」


 ウエイダは武器屋の店主からもらった武具玉を投げた。

 赤池は武具玉を手に入れた。


「えっ、合言葉!?何が!?えっ!?」


 だが状況の変化についていけず、赤池は混乱している。


「グルォアアアアアアアア!!」

「あっ!アカイケ後ろ…!」

「へっ…?うぁーーー!!」

「アカイケーーーー!!」


ズッガァーーーーン!!


 トロールの攻撃。

 赤池は豪快にフッ飛ばされていった。


「ぐっ!わずかに希望があるとすりゃ、さっきの防御魔法の効果がどれだけ残ってるかだが…今の威力じゃ…!クソッ!武具玉なんか渡さずに一旦退避させるんだった…!俺のせいだ…!」


 ウエイダは自分の判断ミスを後悔した。

 だが今は立ち止まっている場合ではない。


「今はとりあえず…コイツをなんとかしないとな。おいアンタら冒険者か?まだ動ける奴は何人いる?」


 ウエイダが訪ねると、傷だらけながらも二人の男が手を上げた。どちらも二十代後半から三十代に見えるが、一人はゴツい筋肉タイプ、もう一人は小柄であまり戦闘向きには見えない。


「兄さん魔法使いの類いか?何ができる?」

「悪ぃが俺達はもう万策尽きたって状況でよぉ。」


 その言葉通り、二人は見るからに満身創痍な感じだ。


「俺は補助系魔法が少し。アンタはパワー系の斧使い、アンタはスピード系のナイフ使いって感じで合ってるよな?」

「パワー系…?いいや、こう見えてワシは“妹萌え系”だ。逆にコイツは“姉萌え系”でな。」

「そんな特殊な系統は聞いてねーよ!戦闘スタイルの話だ!そっちは見た目通りで合ってんだよな!?」

「ああ、ワシには攻撃補助をくれや。運良く足でも叩っ斬れれば時間も稼げるだろうよ。」

「そうだな、俺は素早さでいい。あの皮膚じゃナイフなんか通らねぇし、陽動くらいしかやるこたねぇわ。」


 半ば諦めムードではあるものの、まだ二人とも望みは捨てていないようだ。


「まぁ望み薄でも…やるしかないよな。『魔石』の位置は?」

「見えちゃいねぇが当たりはついてる。俺の読み通りなら、恐らくはあの眉間の辺りだろうなぁ。」

「なるほど、確かにあそこら辺だけ不自然に皮膚が盛り上がってるな…ダメ元で狙ってみるか。」


 ウエイダらが言う『魔石』とは、モンスターの魔力の核となる、言わば命の源とも言えるものであり、すなわち全ての魔物の急所である。

 そのため、魔石位置の特定はモンスター退治における最も重要な工程と言われているのだ。


「ワシは『斧使い』の『オウザン』。こっちは『ナイフ使い』の『カク』。お前さんは?」

「俺は『補助魔導士』のウエイダ。」

「つまり何萌え系だ?」

「そいつは生き残った後でな!行くぞっ!!」


 ウエイダは二人に補助魔法をかけた。

 すると、まずは小柄なカクが先陣を切った。


「オラオラ見ろやぁデカブツ!この俺のチョコマカとした目障りな動きにイラつきな!そう、世の女達のようになぁ!」

「ガルゥアアアア!!」

「ハハッ、甘ぇわ甘すぎるわ捕まらねぇよ!これまた世の女達のようになぁ!」


 身軽なナイフ使いのカクは、素早く飛び回りながら全力でトロールの気を引いている。そして、煽りのセリフが自虐的すぎてウエイダも若干引いている。


「よぉし、いけるぞぉ…!」


 その隙に力自慢の斧使いオウザンはトロールの懐に入り、豪快に斧を振りかぶった。宣言通り足を切り落とすつもりだ。


 しかし―――


「…と、思ってたんだがなぁ…!」


「ウラァアアアアアアア!!」


 なんと!トロールはオウザンの存在に気付いていた。

 そしてオウザン目掛けて拳を振り下ろそうとしている。


「くっ!テメェも俺から目ぇ背けんのかよこの化け物風情がぁーー!!」


 オウザンを助けようと、カクはトロールが振り上げた腕にしがみついた。

 だが小兵が力でどうこうできる相手じゃない。


「くっ、ここまでか…無念…!」

「グルァアアアアアア!!」


 トロールの攻撃。

 オウザンは直撃を受けた…が、なぜか中ダメージで済んだ。


「ぐっ、痛ぇ…!痛ぇは痛ぇが…なぜ生きてる…?今のを食らってこの程度で済むわけが…」


「ゼェ、ゼェ、ま…間に合ったか…!」


 どうやらウエイダが、防御系の補助魔法をかけていたようだ。


「ほぉ、別系統の魔法を多重でかけるのは術者に負担がかかると聞くが…やるじゃねぇか若いの。助かったぞ。」

「ぐふっ!まぁ無駄に出し惜しみして後で悔やむ…なんてのはもう、こりごりなんでな…!」

「フッ、ならばその意気込みに応えねばなるまい!うぉおおおおおお!!」


 オウザンの攻撃。

 今度こそトロールの右足を斬り落とした。


「グァヘァアアアアアアアア!!」

「もう一丁ぉおおおおおおお!!」

「ギャアアアアオオオオオオ!!」


 オウザンは眉間にも渾身の一撃を叩き込んだ。

 厚く覆われた皮膚に裂け目ができ、魔石が露出したのが見えた。

 だが、急所ゆえかすぐに傷の自動修復が始まってしまった。

 このままでは折角のチャンスがふいになってしまう。


「おっとぉ!そうは、させるかよぉ!食らえや化け物ぉ!!」


 カクはありったけのナイフを投げつけた。

 ナイフによって裂け目が固定され、傷の修復が止まった。大チャンス到来だ。


「よっしゃ、大チャンスだ!なぁウエイダ!?」


 狙い通りに技を決め、テンションは最高潮のカク。

 だが一方、ウエイダとオウザンの表情は暗かった。


「ああ、大チャンス…大チャンスのはずなのに、あと一手が足りねぇとか…!」

「ぐっ、すまねぇ…!このワシはもう…」

「なっ、オウザン…!?お前まさか…!」


 なんと、二度目の攻撃でオウザンの斧は砕け、体力的にも限界に達していた。

 ウエイダとカクでは攻撃力が足りないため、あと一歩にも関わらずこれ以上打てる手が無い。


「クソッ、一転して大ピンチかよ…!」


 うなだれるウエイダ。

 だが、詰んでしまったと…そう考えるのは、少しだけ早かったようだ。



「大ピンチ…となれば、それはつまり俺の見せ場ということ!」



 その場の空気感に合わない、妙に明るい声。

 そんな男の心当たりなど、そうそうあるものではない。


「こ、この声はまさか…!」


「武具玉から出てきたこの武器で、お前をブッ倒してやるぜトロール!」


「あ…アカイケ!!」


 なんと!赤池は生きていた。

 赤池はムチとロウソクを装備している。

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