ララとランクと得意属性
「さあ始めようか」
受付のお姉さんとカウンターを挟んで向かい合う。
名前はララ、年齢は20歳だそうだ。
人懐こい笑顔で元気よく話す。
短めの髪で無理矢理作ったポニーテールがぽんぽんと跳ねて、より活発な印象を醸し出す。
グリーン掛かった瞳で真っ直ぐ見つめられるため、女性慣れしていない俺にはある種の毒だ。
この人目当ての常連も多いんだろうな。
テーブルの上には紙とペンと水晶がふたつ。
大きいのと小さいの。
大きい水晶を指さしつつララさんが続ける。
「私の質問に答えてね。
嘘をつくとこっちの水晶が光るから、できるだけ真実を答えてください。
あなたの名前は?」
名前から始まり、質問が続く。
俺が信用に足る者であることの検証だ。
犯罪歴の有無・家族の有無・危険思想の有無・種族などを聞かれるが、あくまでも善良な一般市民であることを伝える。
「あなたは怪しい人?」という質問でふわっと水晶が光ったが、この程度なら問題はないと言われた。
大なり小なり旅人なんて怪しいものだからね。とのこと、うむかわいい。
「うん!合格です!お疲れ様でした!
リョウ君には身分証が発行されます」
と、カードを一枚手渡された。
いくつかの記入欄と右から1センチほどのところに縦の赤いライン。
あまり上等な紙ではないが、防水加工でもされているのか中々に丈夫そうだ。
「ランクが上がると金属製のカードに代わるから、それまではソレで我慢してね」
ランク?
またわからない項目が出てきたな。
なんて考えていると、姿を消していたヒカルが耳打ちしてくる。
「この世界ではあらゆるものにランクが設定されています。
職業では熟練度、モンスターでは凶悪度、武具・道具では効果や強度などをランク付けの対象としています」
で、冒険者は強さや貢献度によってランク付けされるということか。
後から詳しく聞いたのだが、ランクは7段階に分けられる。
また、それぞれの段階に色が振り分けられていて、
下のほうから赤→橙→黄→緑→青→藍→紫となる。
そんなこんなで記入していく。
名前、年齢、性別、人種(人間)、属性…属性?
俺にも属性があるのか?
「はい、じゃあ小さな水晶に両手をかざしてください。
あなたの得意属性を調べます。
それに合った仕事を斡旋できたりするからね。
はい魔力込めてー」
おお!得意属性!
心の準備ができていなかった分、緊張するな。
言われたとおりに手をかざし、魔力を込める。
「ハズレ」とかでたら嫌だな。
パキンと小気味いい音がした。
目の前の水晶が真っ二つに砕かれている。
え、なにこれ、こんなことになるの?
これであってる?色味も白く濁ってて変だし。
「あ、すごい」とララさん。
瞬間、俺の腕をつかみ奥の部屋へと引っ張っていく。
なんだなんだ!?水晶壊したから怒ってんのか?
別室にて、小さなテーブルを挟みララさんの真正面に着席。
小さい声、険しい顔で話し出すララさんが。
かわいいなこの人、ほっぺが熱くなる!
「リョウ君はダブルです。
得意属性を2つ持っている人のことですね。
あまり多くはいません。私も実際に見るのは初めてです。
1万人に一人くらいの確率でしょうか」
と、先ほど割ってしまった水晶をテーブルに置く。
「割れるのは『雷』の属性。
水晶の材質が変わるのは『土』の属性を表しています。
ごめんね、急に引っ張ってきちゃって。あまり大きな声で話せないのですが…」
険しい顔とは裏腹に、目をキラッキラに輝かせながら喋る喋る。
つまりこういうことだ。
本来、魔法の得意属性は大っぴらにするものではない。
敵にその情報を知られると、それだけで大きなハンディキャップとなるからだ。
とはいえ、うちみたいな弱小ギルドにそんな気遣いは不要である。世に出るほどの傑物などは出てくるはずがない。
それどころか二つ名に得意属性を入れている人だっている。(炎の○○といった感じだろうか)
新人の得意属性調査だってみんな気にせず酒を食らうだけだ。
(という理由をつけて、別室に案内する手間をサボっていた)
…と思っていたのだが、俺が現れた。
しかもド田舎出身で、右も左もわからないような若造が。
この才能を他の有象無象と十把一絡げに扱うわけにはいかない。
状況が状況なら命まで狙われかねない。(と聞いたことがある)
私が守ってあげなければと思った。
ダブルなんて初めて見た。
偉大な人は大抵ダブルかトリプル。
ダブルは得意属性二つを組み合わせた魔法を使うこともできる。
でも『雷』と『土』では相性が悪いためできない。
そもそも相性が悪い二つのダブルになるという話も聞いたことがない。
しかも『雷』は大抵がひびが入る程度。割れるなんて魔力も相当高いはず。
興奮気味に捲し立てる。
ところどころ「すごい、本当にすごい」と挟むのが結構怖い。
人より優れているということで、本当なら大喜びしたいところではあるが
こうも他人が興奮していると、逆にこっちが冷静になるな。
「はい、カード。属性も記載される決まりだから誰にも見せちゃだめだよ」
同時進行で証明書の発行と今後の助言なども行ってくれているあたり、
完全に我を忘れているというわけでもないらしい。
「そのカードはあなたの身分証明書となります。
まだLv.1だから大した効力もないけどね。せいぜいこの街で暮らすのに困らないくらい。
それでは、今後の活躍を期待しています」
ギルド登録料と水晶玉の代金を明日、持ってこいと言われた。
はい。
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ギルドを出て辺りを見渡す。
証明書を得て、やっと自分がこの世界に認められた気がした。
やはり寂しかったのだな、俺は。
視界が一気に広がった気がした。
うむ。腹をくくろう。
せっかくなんだし、この人生を謳歌しようではないか。
お読みいただきありがとうございます。
やっと書いていて楽しいところまで進められました。
今後は主人公の高性能っぷりをもっと表現できると思います。
引き続きよろしくお願いいたします。