光と魔法と現状確認
ゆっくりと目を開ける。
どうやら意識を失っていたらしい。
土と草のにおいが鼻腔を刺激する。
初めて自分が倒れていることに気づいた。
ごろりと仰向けになる。
突き抜けるような青空とはまさにこのことだろう。
青。青い。東京で見るような靄がかかった水色の空ではない。
青いのだ。
「気ん持ちいいなあ」
柄にもなくそんな言葉が口に出る。
だって本当に気持ちいんだもん。
なんだったらもう一回言ってみようか
なんて考えていると、視界の端に光の玉が映りこんだ。
なんだ?
俺の頭上1メートルほどの高さをくるくると旋回している。
二の腕が粟立ち、即座に立ち上がる。
なんだこれ、モンスターか?
「リョウ様
お目覚めになりましたか。
おはようございます」
できもしない不格好なファイティングポーズで身構えていると
光の玉から声が聞こえてきた。
どうやら敵意は無いらしい。
寝てる間に襲う隙はいくらでもあっただろうに、それをしなかったということはそういうことなのだろう。
「なんだこれ?」
「あなたのサポートとして生成されました。
この世界での生活に不自由しないために、あなたに寄り添い
アドバイスをさせていただきます」
「サポート…ありがとうございます、助かります。
えっと、この世界ではあなたみたいな存在は一般的なのかな?」
「いいえ、極めて特異な存在と言えます。
そのため常時は何かに擬態するか、姿を消して活動します。」
そう言って光はふよふよと心地よさそうに浮かんでいる。
なるほど、それはありがたい。
何せ全てが初体験だ。
俺が培ってきた常識や知識がまるで役に立たないなんてことも大いにあり得るだろう。
「この世界に召喚されるにあたって、あなたが獲得したスキルをご報告します」
つらつらと話し始める光の玉。
まだ気になることは山積しているのだが、まあいいか。
今後時間をかけてじっくり聞いていこう。
「『超回復』
4時間の睡眠によってHP/各種状態異常を回復します。
『予見』
1秒先の未来を見ることができます。
『神速』
ステータスボーナス
'速'に補正が付きます。
『賢者』
ステータスボーナス
'魔'に補正が付きます。
『豪運』
ステータスボーナス
'運'に補正が付きます」
どうやらアンケートの結果によって、俺にボーナススキル以外のスキルも付与されているらしい。
『超回復』は趣味・特技の項目に「寝ること」なんて書いたからか?
さらにステータスボーナスが付くなんて知らなかったな。
ステ振りの際にMAXまで割り振ったステータスにボーナスが付く仕組みか。
そうであれば、なかなかに最善の選択だったのかもしれないな。
平均的に振っていればステータスボーナスは手に入らなかったわけだし。
「ちなみに」
と光の玉が続ける。
「前述の説明は概要です。条件次第で別途、能力を発揮する可能性があります」
「概要?条件?
詳細を教えてもらえる?」
「申し訳ございません。
私の能力不足により、スキルの詳細まで説明することはできません」
なるほど、光の玉の知識にも限界はあるのか。
まあそりゃそうだろうな。
全知全能なんてそれこそ'神'だ。
「ちなみに」
と光の玉が続ける。
よくちなむな、キミ。
「私の存在は『賢者』スキルによって生成されたものです」
なんと、そうなのか。
持っててよかった『賢者』スキル。
こいつの存在は今後俺の生命線となるだろう。
うまく活用していくことが成功の秘訣だな。
まあSiriみたいなものだと思っておこう。
「キミの名前は?」
「ありません。ご自由にお呼び付け下さい」
「あらそう?じゃあヒカルと呼ぼうかな」
安直だけどね、光ってるからね。
かしこまりました。と上下する。
相棒ができた。
表情も見えない。声色に抑揚もないが、とても頼もしい。
これからよろしく。ヒカル。
「ちなみに」
ん?
「リョウ様の現在の年齢は17歳となっております」
ええええええええええええええええ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ふむ。
現状を立ち返ってみる。
突き抜けるような青空の下にたった1人。
腰に麻でできた袋をぶら下げているが、中身は無い。もちろん金も。(そもそも貨幣が流通しているかも不明だが)
道の向こう側には大きめな街が見える。
さてどうすべきか。思考がまとまらん。(しかも17歳)
「今からどうするべき?」
「はい。まずは日が暮れる前に宿舎を探すべきかと。
そのためには街を目指し、道中で路銀を稼ぐことがよろしいかと思います」
ろぎんって…。
「幸いこの辺りには換金が可能な薬草が豊富に生えています。
私が見つけ出しますので、リョウ様が集めてくだされば本日の宿代くらいにはなると思います」
至れり尽くせりだ。
なんとまあできる奴だこと。
あちらに薬草がこちらに毒消し草が。
と、ヒカルが導くままに街へと歩を進める。
「なあ、この世界の魔法ってどんなもんなんだ?」
「この世界で暮らす人間にとって魔法とは…」
思ったより単純だった。
魔法を使う目的には大きく分けて2つ
生活と戦闘。
正確に言えば戦闘が生活の一部という人もいるだろうが、それは置いておこう。
予想していた通り、この世界で暮らす人々の生活の礎となっているらしい。
水・火・土・風など、暮らしの根幹となる属性(と言うらしい)の魔法は物心が付く前から教え込まれる。
親族からや学校で学ぶことが主だそうだ。
さらに家柄や地方、職業によって得手不得手がでてくるという。
まあそりゃそうだ。
寒い地方の人は火を大切にするだろうし、農家は土を自在に操るのだろう。
さて、戦闘に関してはというともう少し複雑になる。
文字通り戦う(闘う)ために用いる魔法であり、勝利することが目的である。
対モンスター、対亜人、そして時に同じ人間を相手に戦う事を想定している。
生きるため、守るため、酔狂のために古くから研鑽されてきた技術も多く、それを生業としている人も多いという。
と、俺は戦闘で生きる気もないし、話もそこそこで切ろうと思っていたのだが…。
「リョウ様も戦闘で生計を立てることになると思われます。
殊、モンスター相手の戦闘方法は熟知しておくべきでしょう」
なんて言われてゲンナリしてしまった。
やっぱりそうなるか。
「ちなみに、魔法によるスポーツ、大会なども存在します。
ご興味があれば」
いや、また今度でいいや。
薬草を集めつつ魔法の練習をしてみる。
生活に必須な水・火・土を操ってみた。
手のひらに水を生み出す。
指先に火を灯す。
口から岩石…は出ないようだ。
ボコりと土を盛り上げて人型にする。
ガンプラほどの大きさの土塊がむいむいと腕を上下に振っている。
うん、問題なく使えそうだな。
「こんな感じでどう?」
「素晴らしいです。
ただ、水と火の生成は使わないことをおすすめします」
理由は「それができるのは極少数」だからだそうだ。
空気中の水分や酸素といった概念が常識ではないんだろうな。
それをイメージしたら簡単なのに。
「そこにある水(若しくは火)を操ること」が一般的な水(火)属性魔法なんだとか。
気をつけねば。
さあ、街はもう目の前だ。
ちっこい光も付いてるし、気合入れて行きますか。