神と説明とアンケート
そのまま1時間ほど、目の前の彼に状況を説明してもらった。
彼が'神'と呼ばれる存在であること
俺が選ばれたことに他意はないこと(善行により命を落とした者への救済措置だそうだ)
この後に行われる契約を経て別人として生まれ変わること
デメリットは特にないこと
ある程度こちらの希望も酌んでくれること
こちらの世界にはもう戻れないこと
いくつかのボーナスが用意されていること
そして拒否権がないこと
ふむ
と考える。
兎にも角にも死んでしまったのだ。
別世界とはいえ生まれ変われるのは幸運だったのではなかろうか。とも思えなくもない。
怪しいことこの上ないが、人の嘘を見破れる能力もないし
暴こうとするような度胸もない。
どんな理不尽な状況にも流されて生きてきた俺は、死んでからも流され続けるのだろう。
特に不満もない。なるようになれだ。
「いや、話が早くて助かります。
この段階での説得に毎回骨が折れるんですよ。
さて、それでは契約へと話を進めましょうか」
ぽん、と手元にタブレット型PCを出現させた。
まあジョブズは神様みたいなものだったからな。
そりゃ神様もiPad使うわ。
「さあではこちらのアンケートにお答えください。
ご希望にはできうる限り沿えると思いますのでご遠慮なさらずに」
どれ、と回答を記入していく。
『あなたのお名前は?』
古河 涼
『希望するお名前は?』
生まれ変わるにあたっての名前ってことか?
リョウ・フルカワでいいか。
『性別は?』
男
『趣味・特技は?』
寝ること
『持病・基礎疾患の有無』
無し
つまんねえ人間だな。
『ボーナスを希望しますか?』
はたと手が止まる。
いやいや、希望するでしょう。
デフォルトで「いいえ」が選択されている。仕様設計者呼んで来い。
みんな大好きボーナス、なんて甘美な響き。基本給の5倍なんて夢のまた夢。
ラジオボタンの「はい」を選択する。
新たな項目がズラっと表示された。
『ステータスを決定してください』
残:20ポイント
HP ■□□□□□□
攻 ■□□□□□□
防 ■□□□□□□
速 ■□□□□□□
魔 ■□□□□□□
運 ■□□□□□□
なんじゃこりゃ。
来世の自分の能力を決められるのか。
「向こうの世界の理は、こちらと大きく異なっています。
個々人の能力をご覧の通りに表現し、それぞれが独立した力となっています。
ただ、見ていただいてわかる通り、良くあるゲームのそれと酷似していますので
なかなか馴染み深いものなのではないでしょうか?」
なるほど確かにめちゃくちゃ見覚えがあるな。
ん?魔ということは魔法があるのか?
「ございます」
なるほど、いやもうあんまり驚きはしないけど。
ふむ
ここは慎重に慎重を重ね考えなければならない。
それぞれ上限が7で初期値に1ずつ設定されている。
のこり36マスに対し与えられたポイントは20。
限られたリソースをどう振り分けるかによって、今後の生活が大きく左右されるだろうな。
全く知らない別世界。
攻と防があるということは、戦闘もありうるのだろう。
さらに魔法の存在。
程度は知れんが科学の発展はあまり望めなさそうだ。
生活の大部分を魔法に頼っているのではないか。
「おお、なかなか鋭いですね!
合っていますよ、その考察!」
そりゃどうも。
ちなみにおすすめはどう?
「おすすめ、ですか
初めて聞かれましたね
先程おっしゃられていた通り魔法はとても有用です
高くて悪いことはないでしょう
あとはどれも同じくらい重要です
好みで決めてしまうのが一番いいのではないでしょうか」
…。
ちなみに1と7ではどの程度の差があるんだ?
一般的な能力は3-4といったところか?
「まあ、あくまでポテンシャルの数値ですからね
高くてもそれを活かすことができなければ意味がありません
考えと行動次第でその差は雲泥にもどんぐりにもなります」
…ははーん
お前答える気無いな?
うまいことはぐらかそうと…くそ、ニヤニヤしやがって。
まあいい。
魔力が重要なのは間違いなさそうだ。
ただ、他のステータスも不必要というわけではあるまい。
理想はすべてに均等に振ることなのだろう
HP ■■■■□□□
攻 ■■■■□□□
防 ■■■■□□□
速 ■■■■□□□
魔 ■■■■■■□
運 ■■■■□□□
こんなところか。
ただ『4が人並みの能力』と仮定すると
魔法が少し得意な一般人レベルにしかなれない。
そうなると、もともとの性格的ディスアドバンテージを加味すると
これまでと同じ「平均より少し下」の人生を繰り返してしまう。
結果。
HP ■■□□□□□
攻 ■□□□□□□
防 ■■□□□□□
速 ■■■■■■■
魔 ■■■■■■■
運 ■■■■■■■
そもそも戦う気なんてあまり無い。
戦闘に必要そうな上3項目は無視しても憚らん。
生活に役立つ'魔'と
窮地の際に逃げ切る'速'さと'運'。
うん、これでよし。
残りを死に難くなりそうな2つに振って完了。
「ほほう、極端ですね。面白い」
こいつ嫌い。
ヘラヘラとこの野郎。
これ単純にこいつの暇つぶしだったりしないよな?
まあ良い。次次。
『ボーナススキル』
これもゲーム的だな。
入力不可のテキストボックスと
『選択』と書かれたボタン。
押してみると、テキストボックスに『攻×2』と表示される。
なるほど、要するにスキルガチャか。
よりによって'攻'補正スキルとは。
このスキルを軸にステータスを振り直すか…
ん?ボタンがまだ押せるな。
どうやら再抽選が可能らしい。
どのようなものがあるのかをザッと把握するため
一定のリズムでボタンをタップしてみる。
『速×2』タップ
『魅力』タップ
『第六感』タップ
『速×2』タップ
『残機+1』タップ
『HP×3』ちょっと待て
…いま明らかにSSR逃した。
残機って生き返りができるってことだよな!
やっちまった!
とは言え、出てきたスキルはどれも垂涎モノだ。
その中で再び引き当ててやろうじゃない。SSRを。
〜1時間後
出た。
出ました。
『予見』
漫画かなにかで見たことがある。
「一番価値がある情報は未来の情報だ」的な。
未来の情報を思うがままに手に入れることができればそれは文字通り無敵だ。
敵を作らないように・会わないようにすればいいのだから!
まあ、発動条件や範囲などがわからないのが不安要素ではあるが
そんなことを言ってしまえばすべてのスキルにどこかしら不安はつきまとう。
であれば安全性と浪漫に投資しようではないか!
『毒耐性』だの『隠密』だの
『センス○』だの『いぶし銀』だの『レーザービーム』だの
玉石混交のスキル群の中から選びぬいた『予見』。
なかなかいいチョイスなのではないか。きっとそうだ。
「アンケートは以上になります
この後間もなく別世界へとお送りするのですが
何か不明点・ご要望等ございますでしょうか?」
そうだな
まずイチ、言語を理解できるようにしてほしい。
「承りました
もとより向こうとこちらの言語の翻訳能力は基本スキルとして付与されますのでご安心ください」
…ニ、目立たない格好をさせてくれ。
「承りました
それではその世界でごく一般的な衣装を見繕います
さながら村人Aといったところでしょうか」
サン、安全な場所がいい
「承りました
モンスター発生率が少ない街の近くへとお送りします」
モンスター…。やっぱりいるのか。
最後に、またあなたとは会うのか?
「いえ、相当なイレギュラーがない限りあなたとは今生の別れとなるでしょう
生まれ変わるあなたに'今生'というのもおかしな話ですが」
そうか、短い間だったけど世話になったね。
生まれ変わったらあなたみたいなひととも仲良くなれるように努力するよ。
'神'はにこりと微笑んで、大きく羽ばたいた。
大きく白い羽根が舞い散り、俺を球体状に覆う。
不安や恐怖を仄めかすかのように、俺は徐々に暗闇に包まれていった。