噂とダンジョンと俺のせい
ダンジョン。
あまり詳しくはないが、この世界にそう呼ばれる場所があることは知っている。
前世で見知っているそれと同義と考えていい代物らしい。
どこにでもあるわけではないが、どこにでもできる可能性がある。
始めは小さく、取るに足らないが、
魔物が住み着き、土地自体が魔力を帯びる。
例えばモンスターが集まる洞穴や廃墟。
例えば魔族が建設した集落や小村。
そういった曰くのある領域が、魔力によって生き物のように成長するのだとか。
時には地下深い洞窟に、時には天高くそびえる城郭に…。
と、まあこんな感じだ。確か。
予想に漏れず、そこにはモンスターや魔物が蔓延っていて、
冒険者の最優先攻略対処にされがちとのことだった。
―――
ララさんと急いでギルドへ向かう。
現状を確認するためだ。
ラールバトに突如現れたダンジョン。
地域によっては、観光地や訓練場として用いられることも少なくないようだが、
安全を具現化したようなこの街にダンジョンの存在は害悪そのもの。
速やか且つ確実に消滅させなければならない。
「リョウ君、お願いね」
え、俺?
~~~~~~~~~
ギルド内は大わらわだった。
情報を聞きつけた冒険者や新聞記者、その対応に追われる職員の人たちでごった返している。
掲示板には「【緊急】ダンジョン攻略【危険】」という依頼書が所狭しと貼られていた。
おお、こんなに冒険者がいるなら俺なんていらないじゃん。
そんなことを考えていたら、ララさんに腕を引かれた。
「こっちで話しましょう」
いつもの奥の部屋に通されるようだ。
じぐざぐと、冒険者達の間を縫って通る。
「おい、受ける奴なんているのか?」
「冗談じゃないわよ!誰が好き好んでこんな危険なクエストを」
「やっぱり中央から高ランクの冒険者が派遣されるのを待つのが得策だな」
そんな声が多数聞こえた。
そういえば依頼書を手にする者が一人もいないな。
…え、ちょ、ちょっとちょっと。
みんなで行きましょうよ。
椅子に腰を下ろす。
小部屋にいるのは俺とララさんともう一人、ここの職員さんだ。
俺たちに詳細を説明してもらうためにララさんが引っ張ってきた。
20歳くらいの女性。
俺のほうを見ながら「なんでこいつに?」みたいな目を向けているのもしょうがない。
俺もそう思ってる。
「発生したのは昨夜遅くであるとみられています。
第一発見者は冒険者のテミー。
日課である城外の見回りの際に発見したとのことです。
場所は…」
聞くと、俺が魔法の訓練をしていたところだ。
しかもダンジョンから出入りしているのはワーベアらしい。
なんだよ、俺が戦った熊はそこから出てきたのか。
思いっきり被害者じゃん。俺。
ん?と、矛盾点に気が付いた。
俺が戦ったのが一昨日で、ダンジョン発生が昨日の夜?
「ダンジョンの発生源は、地下深くに埋められたワーベアの死骸です」
バチっとララさんと目が合う。
ごめんなさい。
―
――
―――
魔獣の死骸からダンジョンが発生することは珍しくはない。
地下深くに広がっていることが特徴らしい。
発生条件の詳細は
・魔物が多大な怨念を残し息絶えること
・アンデッド化を恐れて、必要以上に地下深くに埋葬すること
大まかに上記2点。
…熊の親子を殺し、怖いから土魔法でめちゃくちゃ深くまで沈めました。
俺のせいです。
責任を持って攻略に励みます。
「今回の目標はダンジョンの無効化です」
ララさんが説明を始める。
ダンジョン攻略を前に、初心者である俺にレクチャーをしてくれることになった。
「無効化の条件は'ダンジョンの最深部まで潜り、群れのボスを討伐すること'です」
不思議なことに、ダンジョンには必ず魔物の親玉がいて、
そいつを倒さない限り、ダンジョンは成長と再生を続けるらしい。
まだ解明されていない謎もてんこ盛りという感じだな。
「おそらくボスの強さは、リョウ君がこの前討伐した個体と同等か、それ以上であると考えられます」
お、それならなんとかなりそうだ。
前の戦術だと労せず攻略も可能だしね。
「無傷での攻略は難しいと思う。
ワーベアも1頭じゃないし、他のモンスターもいないとは限らないし。
しかもリョウ君は仲間もいない。あるのは前回の功績だけ
でも、リョウ君しかいないの。
この街にワーベアを単独で撃破できる人はいないわ。
だからお願い。どうか街を救って!」
……嫌だという言葉をぐっと飲みこむ
む、無傷じゃむずかしいのかぁ。はぁ。
ランクアップ・危険・報酬金・熊・怪我・ララさん・血・魔法・街
いろいろな単語が頭によぎる。
「が、がんばります」
そう言うしかないじゃん。
~~~~~~~~~
宿屋からヒカルを連れて、道具屋へ入る。
攻略の下準備が必要だからな。
店主である狐少女・アイナへは挨拶もそこそこにダンジョン攻略の必需品をお願いした。
「ええっと。
ポーションと光石…だけでいいの?」
うん、いい。
他に何も思い浮かばなかった。
軽い装備が望ましいので、甲冑などの鎧はNG。
近接戦闘など何が何でも避けるため、以前購入したナイフのみでOK。
「水筒は?」
「いらない」
魔法で水くらい出せるしね。
「食料は?」
「いらない」
今日は長く潜るつもりないし。
「ロープは?」
「いらない」
届かない場所には土魔法で。
え、なんで泣きそうになってんの。
「やっぱりこの街は終わりなんだー!
お父さんごめんなさいー!」
た、頼りなくてすまん。
決して舐めてかかっている訳じゃないからね?
~~~~~~~~~
ララさんと城門にて待ち合わせ。
ダンジョンの前まで付いてきてくれるって。
嬉しいけど退路を断たれてる感…。
「おい、気を付けろよ」
ありがとう、カイジ。
死んだら骨はお前が拾っておくれ。
「無理はしないよ。
心配してくれてありがとう」
眉根を寄せ、こちらを見るカイジ。
どうやら彼なりに相当心配してくれているらしい。
いや、マジで無理だけはしないから大丈夫だって。
「リョウ君」
あ、ララさん。
じゃあ行きましょうか。
あれ、まだ全然冒険してない。
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