お誘いとロインと行商人
「出て行ったりしませんってば」
まだ疑いの目を向けてくるララさんに断言する。
「俺はまだ駆け出しです。
ララさんの言う通り、まだ何もわかっていません。
しばらくはここにいて修行する予定です。
そもそも冒険家業を続けるかどうかも分かりませんし」
どうしたもんかね。
「じゃあ家を借ります。
そうすれば今日明日に出ていくということはほぼありえないですよね?」
違う形でアプローチしてみよう。
「なんだったらカードもランクアップさせなくてもいいですよ。
もしそんなことができるんだったら、ですけど」
あ、でもランクが上がらないと上位Lvの依頼を受けられないんだっけ。
まあいいや。
「そんなこと言うんだったら、ララさんがこの街の楽しいところに連れて行ってくださいよ」
俺だってこの街気に入ってるんだがなあ。
「俺だってこの街好きなんですよ。
カイジとも友達になれそうだし。
道具屋の店主も良くしてくれたし」
「え、いいの?」
「え、なにが?」
なにが?
「じゃあ今度、私が休みの時に待ち合わせね!」
なにが?
「11時に宿屋の前に集合!」
気が付けばギルドから出ていた。
ふわふわと気もそぞろだ。
あんなに簡単にデートの約束が取り付けられるとは。
そんなつもりは無かったとは言え、簡単すぎるだろ。
下心の無さが成功の秘訣か?
…いや、あまり考えないでおこう。
あまりに刺激が強すぎる。
考えてもみろ、彼女は10も年下だぞ。(前世比)
さらに3つも年上だ。(現世比)
ちょっとこのことは当日まで封印!
嫌なことは先延ばしにする俺の悪癖であり処世術だ。
(嫌なことではないが)
明日やれることは明日やればいいんだよ。
―
――
―――
――――どうしよう!ヒカル!
「その質問には答えられません」
あっそ。
~~~~~~~~~
…さあ、次はこの熊角をどうするかだ。
ララさんは行商人に持っていくことをお勧めしてくれた。
この街には、熊角を扱える薬剤師がいないために
道具屋や武具屋に持っていってもあまり高値は付けてもらえないとのことだった。
はあ~勉強になるなあ。
と言う訳で行商人の元へ。
この街には行商人が集う酒場があるらしい。
そこでは自由に商いができるのだとか。
街にひとつはそういった場所があるという。
目指すはそこだ。
ギルドがある通りから一本裏の路地に入る。
石畳の道から砂利道に変わり、陰気な闇の雰囲気がする。
あ、黒猫。尻尾が二又に割れている。かわいい。
まだ2日目だというのに大分アクティブだよな、俺。
若返ったからか、体に疲れがない。夕方くらいまでならどれくらいでも動けそうだ。
目的の酒場に到着し、ドアを開いた。
入店を知らせるベルが鳴り、店主が無言でこちらを窺う。
広めのバーの様な場所だ。
ひげをたっぷりと蓄えた店主が、カウンターの中でカクテルを振舞うのだろう。
酒瓶やグラスがこれでもかという程に並べられている。
客はカウンターで酒をあおっている男性ただ一人。
まあこんな時間帯だからね。書き入れ時はもっと賑わっているんじゃないかな。
ゆっくり、はっきりと要件を伝える。
「行商人の方に用があるんですけど」
店主の視線が俺からカウンターの男へ、そしてまた俺に。
非常に落ち着きのあるアイコンタクト。
どうやら彼なりのコミュニケーションの様だ。渋い。
そのやりとりに気が付いたのか、男がこちらへ体を向ける。
見た限り、前世の俺と同い年くらい。
ただ、清潔感があり、なんというかその…優男という感じだ。
品があるとでも言おうか。
「この街でお客さんとは珍しいね。
よろしく、僕はロイン。主にセイム大陸で素材の行商を行っている」
「よろしくお願いします。俺は」
「リョウ・フーカー君だよね。
まだレッドだけど、ララさんが気に掛けているとか」
ぐっと身構えた。
俺のことを知ってる?
即座に敵と判断し『賢者』を発動。
青!?
初めて見た。
わかるのは非常に有能な人物であるということのみ。
ポケットの中の弾丸に手をかける。
「おお、やめてくれよ。職業柄耳が早いだけだよ。
君に仇なすつもりはないさ。名前以上の情報も知らない」
仇なすつもりはないぃ?本当かよ。
もう警戒度MAXだ。悪☆即☆斬。
ちゃっちゃと売るもの売って帰ろう。
「これを買い取ってください」
熊角が入った巾着を広げ、ロインの前に出す。
彼は「拝見」と呟き、じっとりと味わう様に眺め始める。
慣れた手つきだ。相当熟練した人だということが素人目の俺でも見て取れる。
「ほう、ワーベアの魔法核だね。しかも3つも。
いずれも爆破属性ということと、大小揃っていることから察するに親子かな」
魔法核?爆破属性?
知らない単語も気になるが、それ以上に推測でバシバシ正解を出すこの男が気持ち悪い!
「これは全て君が?」
「いや、知人から譲り受けました」
嘘を吐く。
「ははは。賢いね、キミ。
素直に情報を出す行為が愚かであることを知っている」
嘘がバレる。
うむ、常に何手か先を読んでいるな。
おそらく俺の何倍も頭がいいのだろう。こりゃ敵わん。
『賢者』の名が聞いてあきれるな、まったく。
もう一刻も早くここから脱出したい。なんて居心地の悪さだ。
「いくらですか」
「申し訳ないけど、手持ちがなくてね。
信用売りということもできなくはないが、この状況で僕を信じてというのも難しいだろ?」
信用売り?
投資用語でよく聞く「空売り」とは違う意味だろう。
ヒカルに聞こうにも、他人が近くにいるこの状況下では難しい。
物品だけを渡して、それの売買益を後から受け取るようなものなのだと仮定。
「値段をつけるとしたら500,000からかな。
それ以外では手放さないほうがいい。次に会える時までに買い取りに見合う金額を蓄えておくよ」
うむ、それだけ聞けたら十分だ。交渉決裂。
アドバイスありがとさん。
巾着を受け取り、席を立つ。
「では、またの機会にお願いします」
心にもないセリフでお別れだ。永遠にな。
そんな俺の心中を察したのか、くつくつとほくそ笑んでグラスを傾けた。
「妹をよろしく頼むよ」
おおおおおおおお義兄さんであらせられましたか!
ブックマーク登録ありがとうございます!
なんか牛歩牛歩で話がなかなか進まない。




