表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

さまざまな短編集

リターンライダーの1人です

作者: にゃのです☆

 一度は降りた。はずだった。

 

 私はもうバイクから離れて数十年。

 今では家もあるし、家族もいる。移動だって車一台あればどこへだって行ける。

 仕事と家族と。それを両立しながら頑張ってきた。

 子供たちも独立し始め、今度は二人の時間を過ごせると思っていた。

 ただ、息子がバイクに乗り始めるまでは。


「父さん。通勤が遠くなるからバイクに乗るよ」

「バイクは怖くないのか? 高校でも怖いからって言ってバス通学してたじゃないか」

「いや、なんて言うか……」


 そう言って、言えなそうな息子。

 バイクは自分が乗っていたから乗りそうなものと思っていた。

 でも、高校で原付が乗れる年になっても乗ろうとはしなかった息子だ。今後も乗らないだろうと思っていた。


「ほら、就職した職場は市内の会社だろ。車は止める駐車場代がかかるし渋滞して時間が掛かるから」

「すり抜けとかは違反だからな」

「わかってるよ」

「通勤ぐらいだったら、バスも通ってるだろ。なぜバイクなんだ?」

「それは……」


 理由は言わない。大抵こういう場合は憧れが強い。

 若気の至り、若いから許される特権でもあるのだが。まぁ、いい。


「憧れでもバイクに乗りたい。そんな気持ちか?」

「まぁ、それに近い」


 やはり。ここで許してしまうと事故を起こした時が大変だ。

 覚悟を決めてもらわないと。


「簡単に許可は出ないぞ?」

「父さんも昔、バイクに乗っていたんだろ? わかるでしょ、俺の気持ち!」


 ああ、痛いほどわかるな。

 私は親父とケンカしてまでバイクの免許取ってバイトで貯めた金で買ったんだ。

 子供ができた時に、バイクは降りてそれ以来だ。

 だが、私も当初は憧れでバイク乗りになった。その衝動でスピードを出しすぎた。

 スピードに魅了された。その結果は親父がケンカで言っていた通りになった。

 単独の事故で入院三か月。最初の一か月近くは意識が無かったらしい。

 それでもバイクは乗り続けた。乗り続けた理由はまた自分の目で景色を見たい。

 奇しくも事故を起こした場所は景色がきれいで有名な場所だった。ガードレールに突っ込み空中に放り出された時に見えた景色はゆっくりと縦に流れていく走馬灯のように見えていた。

 それは今でもはっきりと思い出すことができる。次に覚えているのは全身を打ち付けて意識が遠くなる記憶だ。


「バイクは一歩間違えば、自分の命も、相手の命を奪うことになる。スピードの中毒を起こしやすい乗り物だ。一概に危ないと言ってやめさせるのは簡単だ。だからと言って選択肢を奪うつもりはない」

「父さん……」

「乗るなら徹底的に安全に、臆病と言われてもかまわん。目的多は遠い。ゆっくり余裕をもって見に行くぐらいの余裕をもって運転する。途中事故したら楽しくもないし、はっきり言ってつまらん。なら安全運転しかない。通勤も同じだぞ」

「わかった……自分の考えが安直だったかも知れない。今は憧れが強い。景色も、目的も今はただの通勤だ。いつかは父さんとも走れたらなって思ってもいたよ」

「そうか」


 そう言って息子は立ち上がり、リビングを出て行く。

 少しは冷静に聞いて貰えただろうか。

 慎重にして悪いことはない。

 ただ、息子の言葉がジーンときたのはいつぶりだろう。息子に一緒に走ろうと声をかけてもらうだけでうれしい。


「私も、また乗ろうかな……」


 数か月後には親子で海沿いを走っているとはこの時は夢にも思っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ