3. 農村
それから二十日ほど過ぎたある日。ルーガーは一人で田舎道を歩いていた。そこは一面大きな畑が広がり、建物は遠くにぽつりぽつりと見えるだけで、人気がなく不気味な感じすら漂う場所だった。このあたりでは大規模農業が盛んと聞いているぐらいで、詳しい事はほとんど何も知らないので、ルーガーは農村ってこういうものなのかなと思いつつ、道を歩いていた。
しかし目的の集落にたどり着いたころには、懸念はもっと大きくなっていた。どう見ても、村にはだれも住んでいない。想像していたのとはまったく違う様子なので、ルーガーは戸惑った。
ルーガーは、傾いた門を開け、玄関の前まで入ってみて、さてどうしようかと思案した。そしてそのとき、初めて人の気配に気づいた。ルーガーは急いで裏手にある庭へ回ってみた。
そこには、埃まみれの椅子にふんぞり返っているドルイがいた。
「げ、なんだおまえ。何しに来たんだよ」
「ドルイ……あんたも来てたのか。わははは」
「なんだよ、悪いかよ」
苦い顔をするドルイににやにや笑いながら、ルーガーはそのへんにあった木箱をひっぱってきて腰を下ろした。
「なんか、会ってみたくなってね」
「チャルカ」
「そそ。アッコォの自慢の子。でもまさか、あんたが来るとは思わなかったな」
「ちょいとついでの用事で近くまで来てたんだよ。だから、ひょっとしたら待ってるんじゃないかって、思ったんだがね」
「そういやどうなってるの、全然人がいないみたいだけど」
「半年前に死んだってさ」
「え、だれが」
「娘。チャルカ。道でフライヤーに轢かれたと」
「えっ……」
ルーガーは絶句してしまった。ドルイは眉を上げて先を続けた。
「ここら一帯は無人なんだ」
「またどうして」
「最近、雨が降らないんだとさ。水がなくて農業なんてできやしないらしい」
「そうだったのか……」
「村の連中は移住するか破産するか、まあとにかく今はもうほとんど誰もいないとさ」
「どこで聞いたの、そんな話?」
「手前の村にシケた酒場があったろ」
「あったなあ。寄らなかったなあ」
「頭悪いな、お前。情報集めるんなら酒場がもってこいだろ」
それから二人は、砂ぼこりの積もった床をなんとなく眺めていた。
ぼーっと、かれこれ十分ぐらいじっとしていた挙げ句、ドルイがぽつりと言った。
「人間ってのはずいぶん簡単に死ぬな」
「いまごろ何いってんの?」
おわり