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中篇:自作品を分析しよう

 なろう作家さん。貴方の下に出版社から書籍化の打診が来て、それに応諾したのなら。

 貴方はもう、一人の「事業者」です。自分の事業の経営者なのです。

 なら、自分の作品(商品)とその事業展開(書籍化というプロジェクト)について、客観的な分析が必要になります。

 「小説家になろう」の感想欄のような、殆どの人が褒めてくれる。そんな甘ったれた環境での分析は、何の役にも立ちません。むしろ悲観的な分析の方が、書籍化に際する加筆修正に於いて、改善の一助となるでしょう。


 「経営分析」と言うと、経営学で様々な技法が研究されています。が、その殆どは使い物になりません。「経営学という学問は、役に立たないことを研究している」のではなく、「あらゆる分野に通用する分析手法は、無い」という事です。


 そして、その分析手法を活用するのは、コンサルタント。

 三流のコンサルは、多くの分析手法を知っており、それを披露してくれますが、どれがその事業者にとって有用な分析なのかは教えてくれません。

 二流のコンサルは、知っている分析手法は少ないです。けど、それを工夫して、事業者の為になる分析結果を説明してくれます。

 一流のコンサルは、その事業者にとって、有用な一つか二つの分析手法を使い、その事業者が求めている答えを示してくれます。


 ここで私が紹介する、分析手法と品質管理手法。「SWOT分析」と「PDCAサイクル」。二流のコンサルである私が、なろう作家という事業者に対して有用であると思える分析手法は、経営学の基礎であるこの二つであろうと結論付けています。

 それから、ターゲティング。貴方は、誰に読んでもらうことを想定しますか?


1. SWOT分析をしよう


 まず、白い紙を用意してください。A4程度の紙で充分ですが、取り敢えずメモ用紙でも構いません。

 その紙を縦横四等分し、左上に「S」、右上に「W」、左下に「O」、右下に「T」と記入してください。

 「S」の欄。ここに、貴方の作品の強み「Strengths」を箇条書きにしてください。

 「W」の欄。ここに、貴方の作品の欠点「Weaknesses」を箇条書きにしてください。

 「O」の欄。ここに、書籍化して成功すると思われる外的要因「Opportunities」を箇条書きにしてください。

 「T」の欄。ここに、書籍化して失敗する原因になると思われる外的要因「Threats」を箇条書きにしてください。


 「S」の欄には、感想欄で読者からいただいたお褒めの言葉を纏めると簡単です。

 「W」の欄には、同じく感想欄で「読むのを止めた」と言った読者が書き捨てた内容や、2ch.で叩かれているときに要因として挙げられているものを纏めてください。耳に痛いですが、これが一番役に立ちます。

 「O」の欄には、「○○大賞最終選考通過」とか、「#億PV達成」とか、「累計ランキング第*位」とかといった、現時点の客観評価を上げるのが簡単でしょう。

 「T」の欄には、現在のラノベ業界(特に「なろう発ラノベ」)に対する境遇の、貴方が感じる問題点。例えば、「市場の飽和と若者の活字離れ」とか、「無料公開のWeb作品を書籍で有償購入する不合理」とか。或いは、嘗て「炎上マーケティングをやった」等という、自分の過去の失敗談もここに入ります。


 そして、ここからが事業分析になります。具体的には、「S」を活かすにはどうするか、「W」を減らすにはどうするか、「O」を如何にプロモーションするか、「T」の中でどう立ち向かうのか、という事です。

 が、「S」を活かすことは、あまり考える必要はありません。「なろう作品の書籍化」というプロジェクトに於いて、「S」を削ろうとするのは余程無能な編集者だけでしょうから。但し、作者が「S」だと思っていても、客観的(或いは商業の世界では)それが「W」であったり、または「T」であったりするかもしれません(例:既書籍化作品の評価)。その辺りは経験豊富な編集者の意見を参考にしてください。

 「W」。これが一番重要。書き捨てられたり、叩かれたりした内容は、考えたくもないでしょう。けど、書籍化すると、それが「世間の評価」になるのです。「感想欄で作者を叩き筆を折らせて楽しいですか?」と問うたエッセイがなろうにもありますが、それは一般のなろう作家に対する話。書籍化するのなら、その程度で筆を折るメンタリティではやっていけません。真っ直ぐに「W」を見つめ、改善策を検討してください。

 「O」の活かし方は、出版社が考えることです。作者は無視して良いでしょう。

 「T」。これも、基本的にはどうしようもありません。ただ、「S」が「T」に打ち勝てるだけのものなのか、と考え、「S」を見直すなり追加となる要素を作品に加筆するなりする必要はあるかもしれません。


2. PDCAサイクル


 続いて、PDCAサイクル。製品の品質を維持・向上する為の考え方です。即ち、「計画(プラン)」⇒「実行(ドゥ)」⇒「検証評価(チェック)」⇒「改善(アクト)」⇒「次の計画(プラン)」⇒……と廻していく、というものです。

 これを、書籍化作品に当てはめてみると、「プロット作成(プラン)」⇒「Web執筆(ドゥ)」⇒(PV数・なろうポイント・感想書き込み等)⇒「書籍化打診(チェック)」⇒「書籍用改善提案(アクト)」⇒「書籍用プロット(プラン)」⇒「書籍用加筆修正作業(ドゥ)」⇒……、となる訳です。

 ここで、販売部数が伸びると、⇒「第二巻刊行決定(チェック)」⇒「路線確認(アクト)」⇒「第二巻用プロット(プラン)」⇒「第二巻用加筆修正作業(ドゥ)」⇒……。

 一方、部数低迷となると、⇒「打切決定(チェック)」⇒「改善案検討(アクト)」⇒「再挑戦用Webプロット(プラン)」⇒……、となります。

 打ち切りとなるのであれば、相応の理由がある筈。それを放置していれば、次の作品で再挑戦しようにも、同じ轍を踏むことになるでしょう。出版社側もそれがわかっていますから、次作も同じような問題を抱えていれば、次の声掛けは無いと思われます。


 なお最近、「PDCAは時代遅れ。今はOODAループだ!」と言う人もいます。とはいっても、PDCAとOODAは提唱されたのは同時期で、相互補完の関係にある、というのが本質なのですが。

 OODAループとは、「Observe:監視」「Orient:情勢判断」「Decide:意思決定」「Act:行動」と廻していく、というモノです。

 けど実際は、PDCAとOODA、どちらが優れているというモノではなく、どちらが適しているか、という問題です。その上で敢えて言えば、PDCAサイクルの「P」はOODAループの「O」「O」を内包し、PDCAの「D」はOODAの「D」「A」です。

 そして、OODAループは、全てが最初の「O」(Observe)にフィードバックされるものですから、その「フィードバック」がPDCAの「C」「A」ということが出来ます。

 OODAが尊ばれるシーンは、大目標が既に設定されており、即応が求められ、且つ失敗分析が直接的には改善の意味を持たない場合です。つまり、投機判断や入札などの時。「小説家になろうのサイトでの連載(リアルタイム投稿)」では、OODAの方が有効でしょう。対して「なろう作品の書籍化」という事業に於いては、PDCAの方が有利です。


3. ターゲティング


 最後にターゲティング。「誰に読んでもらうことを想定して、書籍化するのか?」です。

 例えば、なろうでの自分の読者に読んでもらうことを想定するのなら。細かい設定なんかは「Webで確認して」で済むかもしれません。一方で「一粒で、二度美味しい」と評価してもらえる為には、プラスの要素(書き下ろし番外篇、美麗なイラスト)が必要でしょう。

 なろうで未読の読者に読んでもらうことを想定するのなら。むしろ、なろうでウケる要素(俺Tueee、ハーレム展開、ご都合主義等)は、その露出の仕方を変えた方が良いかもしれません。

 低年齢層(中高生)を主要読者と想定するのなら、主人公の年齢も10代中盤にして、読者の共感を呼びやすいようにした方が良いかもしれません。


 先日、あるなろう作家が、意欲的な社会実験を自作の書籍化プロジェクトに組み込みました。それは、「なろう発のビジネス書は出版ビジネスとして成功するのか?」というモノです。


 似たようなものは、幾つか先行作品があります。例えば、ドラッカーの経営マネジメント論を高校野球に取り込んだ〔もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら〕(岩崎夏海;ダイヤモンド社)。三流OLが孫子の兵法を業務に取り込んだ〔まんがで身につく 孫子の兵法〕(長尾一洋(著)久米礼華(まんが);あさ出版)、工場長の立場で経営の全体最適化を語った〔The Goal〕(Eliyahu M. Goldratt)などがあります。

 ただ、これらは「難しい概念である経営学や理論を、身近なもので体験しながら実感する」という展開が主軸にあります。その為、「よくわからない異世界(作者の創作世界)の(作者が設定した)冒険者の生活」と「小難しい経営コンサルタント理論」の組み合わせが、世間ウケするのか? というのが課題でした。

 実際、ラノベの読者とビジネス書の読者は、明らかに乖離がありますから。両方を兼ねる、希少な人材にしか喜ばれない作品が、商業で成功出来るか? と問われると、難しいものがあるとしか言いようがありません。

 とはいえその作者さんは、本職の外資系コンサルタントだったそうですから、当然そういったことも織り込んで、勝算があると見込んで挑戦したのでしょう。良き結果になっていることを祈念します。


 一方、そんな特殊スキルの持ち主ではない一般のなろう作家は、そんな無茶はせずに、特定の読者層を狙い撃ちした方が確実だと思われます。

(4,021文字:2017/09/11初稿)

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― 新着の感想 ―
[良い点] PDCAサイクル・・・。これの信奉者だったシャープの「亀山モデル」の顛末を見ると、今のトレンドは何なんでしょうね。 [気になる点] SONYのPS4以降の「自社の汎用性部品」の大量使用で「…
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