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突然鳴り響いた音にビックリしてそれまで考えていた事が跡形もなく霧散した。
ガチャガチャと無作法に音をたてる間微かだが人の声が漏れ聞こえさらに慌てる。
やばい誰か来た!
そう思ったのと一際大きな音が鳴ったのはほぼ同時だった。
「あーっかれた~」
遠くでくぐもっていた声からクリアな声に変わる。
その声を耳に入れながら隠れられる場所を咄嗟に探す。
幸い、屋上への入り口とは反対側の場所にいた私は相手にすぐ見つかることはなかった。
目に留まった壁側まで忍び足で向かって壁に背を向けしゃがみこむ。
「まじだりぃ」
「珍しく真面目に授業なんか出てっからだよ」
「出たくて出てるわけじゃねえよ」
運よく向こうはそのまま向かいのフェンスへ向かってくれたらしい。足音が遠ざかっていくのが分かりほっと息をつく。
途端に心臓の音が余計うるさくなったような気がして向こうに聞こえやしないかと思わず胸の前に手を当てた。
ていうかなんで私隠れてるの?なにも悪いことしてないのに。
いやでも悪いことはしていないがこれって不法侵入になるのだろうか。しかも屋上だし。
屋上は普段立ち入り禁止で一般生徒も入れない場所だ。
イメージとしてはよくテレビの学園ドラマかなんかで見る不良のたまり場みたいな感じで...そこに私のような部外者がいたと知れたらどうなることか。
警察に突き出されるの?私。
「出ねえと留年だとかカズコがうるせえし。あいつババアにまで連絡しやがってよ」
ガシャンとフェンスが鳴った。
「あぁ、道理で」
笑みを孕んだ声を聞きながらはたと気づく。
普段立ち入り禁止で一般生徒も入れない場所。じゃあ今向こうでしゃべっているのは。
「そのケガ、またどっかで喧嘩でも吹っ掛けたのかと思ったらおばちゃんかよ」
「ちげーよ、...親父」
うげぇ、なんて下品な声が聞こえてきたが今の私にはそんなことよりなんとも不吉な単語が聞こえてしまったことの方に頭がいっぱいだった。
不良だ。しかも喧嘩吹っ掛けたとか、絵に描いたような不良!
屋上でたむろする不良なんてまさに私のイメージした通りの構図だ。
自分の中で出来る精一杯の不良を思い描いて身震いした。
今時そんな血気盛んな若者が、しかもこんな寂れた町にいたなんて全然知らなかったしそもそもそんな不良がいるだなんて噂すら聞いたことない。
もちろん今まで遭遇したことだってないから実際会ったときどう対処したら良いかも全く分からなかった。
不良で連想されるイメージといえば睨む、凄む、手をあげる、カツアゲされるなどの陳腐な王道パターンぐらいでそのどれに対しても対処法方は皆無。
泣きたくなった。
「あの女ホントうぜぇ、最近何かにつけてすぐつっかかってくるしよー女だからって調子乗りやがって」
「あーあれじゃん?マサトがこの前カズコに吹っ掛けてたじゃんよ、めずらしく。あれが原因だろ」
「あぁ?んなの俺にゃ関係ねーじゃねぇか」
「そりゃ八つ当たりだろーあ、そいやぁマサトは?」
「知らねぇよ!」
「まあどーせまたどっかで寝てんだろうなー起きりゃここにくんだろ」
「くっそ腹立つ!」
「誰によ?」
カズコに!と声高々と言い放った相手に思わずマサトにではないんだ、と呑気に考えてしまった。
そこはもう一人も同じだったらしいが相手はその理由も同時に理解しているらしく、噴き出しているのがかすかに聞こえた。